2002年12月25日,北海道大学大学院農学研究科において,福島県農業試験場の園田高広主任研究員が,アスパラガスにおける効率的育種手法の開発に関する長年の研究により,博士号(農学)が授与されました.園田主任研究員のご厚意により,摘要をご紹介させていただきます.
摘 要
アスパラガスの新品種を育成するためには、長い年限、多くの労力と費用が必要である。 そこで、本研究は、アスパラガス育種を効率化するための手法開発を目的とした。
Ⅰ 茎枯病抵抗性検定手法の開発
A.福島県に発生する茎枯病の病原菌と病原性
福島県内のアスパラガス生産ほ場で採取した茎枯病罹病茎からの9分離菌株をアスパラガス若茎に接種した結果、自然発病と同様の病徴が認められ、患部から接種菌と同一の菌が単離された。9分離菌株の接種茎上およびPDA培地上での柄子殻と分生胞子の形態を観察した結果、福島県内で発生する茎枯病はPhomopsis属菌に属すると判断された。9分離菌株は病原性を有していたが、菌株間で差異は認められなかった。
B.病斑形成と侵入部位
自然条件下における茎枯病の病斑形成を観察した結果、病斑は草丈に関係なく地際からの高さ70cm以内に多く分布し、特に50cm前後での病斑形成数が多かった。部位別には、節部よりも節間部での病斑形成数が多かった。制御環境下において本病の病斑形成を観察した結果、病斑は地際からの高さ20~40cmに多く形成され、その高さでの病徴の進展は早かった。本病原菌の接種茎上での動態を観察した結果、菌の侵入は主に細胞間隙で起こり、りん片葉では表皮よりも付着器および侵入率が高かった。若茎伸長に伴うりん片葉とその直下の茎の位置変化について観察した結果、若茎頂部付近のりん片葉は茎の伸長に伴って最終的な草丈の中位以上に移動した。また、そのりん片葉直下の茎は、りん片葉よりも数cm上方に位置した。
C.茎枯病抵抗性検定法の開発
茎枯病に対するほ場抵抗性を検定するためのVC接種法(vinyl tube and cotton inoculation method)を開発した。本接種法は、播種後2~6ヵ月後の幼苗の萌芽してから2週間後の主茎に1cm角の脱脂綿を巻き、その上から長さ2cm、直径0.8cmの縦に切れ目を入れた塩化ビニル管をはめ込み、胞子懸濁液(1×106個/ml)を0.6ml染み込ませて行うものである。成熟株にVC接種をした結果、幼苗に接種した場合と同じ傾向が認められた。
D.VC接種法によるアスパラガス属植物の茎枯病に対する抵抗性評価
茎枯病に対するアスパラガス属植物の抵抗性をVC接種法で評価した。接種4週間後に発病の有無を調査し,発病株率を算出した結果,茎枯病に対してアスパラガス属内に抵抗性の差異が認められた。Asparagus. densiflorus,A.virgatus,A. asparagoidesおよび A. maccowaniiは,強度の抵抗性を有した。A.officinalisには,本病に対する感受性の 差異が認められたが,強度の抵抗性を有する品種は認められなかった。 また,アスパラガス品種における雌雄株別の発病を検討した結果,性別の発病茎率に有意な差は認められなかった。このことから,アスパラガス品種の性と茎枯病の発病は関係がないことが示唆された。
Ⅱ 短期超雄株検索法の開発
A.花芽誘導化合物N-(4-chloro-2-trifluoromethylphenyl)-N'-propoxyacetamidine (AM12)を用いた短期超雄株検索法の開発
アスパラガス全雄品種の育成に必要な超雄株の検索期間を短縮するために、花芽誘導化合物AM12を用いた手法を開発した。本手法は、両性花由来種子にAM12を200μMの濃度で処理し、苗の頂部に誘導された雄花を任意の雌株と交配し、得られた後代種子に200μM のAM12を再処理し、誘導された花芽の性比により超雄株を検索するものである。
B.AM12を利用した両性花由来種子からの超雄株の検索と実証
開発手法を用いて、全雄品種‘Gijnlim’の両性花由来種子から超雄株の検索を試みた結果、6ヵ月間で超雄株を検索できた。このことから、本手法は、超雄株検索期間を短縮するために有効であると考えられた。
Ⅲ 早期萌芽性検定法の開発
幼苗を用いて萌芽性を早期に評価する手法を開発した。本手法は、播種2ヵ月後の苗を15、10℃で各5日間、3℃で14日間処理した後、15℃で萌芽させるものである。7品種の萌芽性を本手法とほ場において観察した結果、それぞれの萌芽日の間で有意な正の相関が認められた。このことから、本手法は、萌芽性を評価するために有効であると考えられた。
Ⅳ 簡易生育調査による早期特性検定法の開発
A.簡易調査法の開発
アスパラガス2品種を用いて、生育と収量特性および生育調査のための作業時間を計測し、アスパラガス育種のための簡易な生育調査法について検討した。その結果、育種のための簡易生育調査法(SGI)を開発した。SGIは、地際からの高さ20cmの主茎を切り取り、80℃の乾燥器で3日間乾燥した後、乾物重を計測するものである。SGIは、①茎数、茎径の合計値、草丈の合計値、および生育指数(GI)、②翌年収量との間で1%水準の有意な相関が認められた。また、SGIは、草丈およびGIよりも調査のための作業時間が有意に短かった。これらのことから、SGIは、GIと同等の精度で各生育値および翌年収量を推定でき、GIよりも生育調査のための作業時間を短縮できる調査法であると考えられた。
B.早期特性検定法の開発
22品種、系統の生育、収量および若茎の特性を個体および系統毎に5年間調査し、アスパラガス育種のための早期特性検定法について検討した。その結果、SGIを用いた個体、系統選抜のための早期特性検定法を開発した。本手法は、播種2ヵ月後の苗を30×110cmの栽植密度で定植し、定植年の刈り取り時のSGIおよび翌年の若茎特性を計測することにより、個体および系統の選抜を行うものである。試験では、①SGIと累積収量、②収穫開 始年と収穫3年間の平均若茎特性との間で1%水準の有意な相関が認められた。これらのことから、SGIは、生育特性を調査するために有効であり、定植年のSGIと翌年の若茎特性から早期に個体および系統の収量性および若茎特性を判断できると考えられた。