投稿日: 2016/10/02 12:27:25
八極拳を始めとした中国武術の名人の逸話には、超人的な練習量を伝えるものが、多く残されています。
例えば、八極拳の名人であり、神槍とも呼ばれた李書文は、1日8〜10時間の練習をしていた時期があるそうです。
陳式太極拳の名人と呼ばれる陳発科は、毎日5〜6時間の練習を、10年間続けたと言われています。
また、形意拳の名人と言われる、郭雲深や尚雲祥の逸話も有名だと言えます。
このような名人と呼ばれる武術家達の練習量を、真似する事は難しいですが、実際、個人の練習量が、上達を左右するのは事実だと言えます。
現代でも、「1万時間の法則」というものがあります。
「1万時間の法則」とは、ある分野でスキルを磨いて一流として成功するには、1万時間の練習・努力・学習が必要だというものです。
これらは、エリクソン教授らの研究をもとに、マルコム・グラッドウェル氏が提唱しました。
この理論は、心理学者のアンダース・エリクソン教授(フロリダ州立大学)らが1993年に発表したもので、ドイツで実施された調査と実験にて、実証されているようです。
グラッドウェル氏の調査において「エリート演奏家は20歳までに合計で1万時間の練習を積み重ねた」という結果が出ています。
また、モーツァルトやビル・ゲイツ氏をはじめとした成功者も、大成するまでに1万時間の下積み期間があったと述べています。
このように、昔も今も変わらず、何かの分野において一流を目指すのであれば、ある一定の時間をかける必要があるという事だと思います。
また、逆に1万時間という膨大な時間は必要なく、短い時間で、ある程度の技術力を身につける事ができると言う理論もあります。
この理論の基準となる時間が、20時間だと言われています。
例えば、通常、何らかの特定の作業を繰り返す場合、この特定の作業を繰り返すうちに、能率が向上し、作業の専門化が進みます。
つまり、生産効率が上がるという事です。
逆に言うと、最初は生産性は限りなく低く習熟度が増すにつれて、生産性が上がっていくという事です。
しかし、一定のレベルまで、習熟度の向上が差し掛かると、生産性が伸びなくなってきます。
このような、生産性と期間をグラフ化し、その線グラフの推移を示すカーブを、エクスペリエンス・カーブといいます。
このカーブにおける、生産性が伸びなくなるまでの期間が、だいたい20時間だそうです。
また、習熟度が頂点に達するまでにかかる時間が、1万時間と言われています。
この法則は、多くの分野において、同じ事が言えます。
もちろん、武術においても同様の事が言えると思います。
つまり、総練習時間が20時間程度までは、上達しやすく、能力値が向上しやすい傾向にあるという事です。
それ以後は、上達の度合いが低下し、緩やかに、少しづつ上達していく傾向があるという事です。
また、武術を含めた多くの分野において、一流の能力を手に入れる為には、前述通り、1万時間が必要だという事でもあります。
当教室の新規の練習生でも、良く見られる傾向ではあるのですが、練習を始めて数ヶ月で練習に参加しなくなる人が、ある程度の割合でいます。
おそらく、練習時間が20時間程度に達した事による、上達の停滞が、一つの理由かもしれません。
この上達の停滞し始めた時期に、飽きてしまうのかもしれません。
また、稀に、この上達しやすい20時間の間に、全てを理解したと勘違いしてしまう人間もいます。
中国武術だけでなく、日本武術などでは、良く見られる事かもしれません。話しを戻しましょう。
つまり、上達が停滞し始めた、20時間以後を続ける事が出来る者だけが、本当の技術を見る事が出来るのという事だと思います。
それは、当然の話しですが、武術も同じです。
むしろ、武術ではこの傾向が顕著に現れると言えるかもしれません。
その為、昔の武術家には、超人的な練習量の逸話が残っていると言えます。
もちろん、武術を練習する人間の全てが、一流の武術家を目指している訳ではないと思いますが、上達には、少なからず、時間が必要だと言えます。
また、現代に伝わっている武術流派の殆どが、名人の技術を継承したものだと言えます。
当流の武術でも、前述した八極拳の名人と呼ばれる、李書文の技術を継承しています。
このような名人と呼ばれる人間達は、上述の一流の人間の中でも、更に上位の人間だと言えます。
つまり、一流と呼ばれる人間達の中で、更に一握りの上位能力者だという事です。
また、当流の李書文系の八極拳は、李書文の晩年の技術を継承しています。
このように、上述のような超一流の能力者である名人が、人生の最後に制定した技術を継承している武術もあります。
このような超一流の天才的な能力を持つ名人が、膨大な練習量と、膨大な経験を元にまとめた技術は、極めて高度な技術だと言えます。
このような能力を持つ人間が、人生の最後にまとめ上げた技術を、本当の意味で理解するには、現代の人間では、1万時間では足りないでしょう。
まして、20時間や、それに類する短い時間で理解する事は不可能だと言えると思います。