大根一式料理秘密箱

大根一式料理秘密箱

教材は江戸時代後期天明五年(1875年)に出版された料理本である。 大根の料理法を50項目述べており、1-20までは主に大根の切り方、21-50が料理方法となっている。 序文でも述べられているが、当時大根はどこでも安く入手できた食材だったようである。 又この頃から化政期にかけて江戸庶民文化の最も華やいだ時期で、浮世絵、洒落本などで歌麻呂、北斎、馬琴、京伝など多数の作家が活躍した時期であり、 食生活での面でも豊かさと余裕が感じられる。

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天明五年: 1785年

目録八 椿花の試作例 : 写真は当HP読者より提供

大根一式料理秘密箱序

唯酒ハ量なし、もちは

咽喉につまる、下戸上戸

共にもちゆべきハ此料理

なるべし、しかもその価

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心安うして我らごときの

こゝろにもかなへり、されハ

物の名も所によりて、かは

れども、大根の生ぬさとも *生えぬ里

あらじ、はにうのすまい

にも、香物つけぬ事もある

まじ、念仏講の手料理

夜話のもてなし、童にハ花

大根、老たるにハふろ吹、出家

にハてんふら、賀振舞(がふるまい)に

しらが大こん、いやしからぬ

料理なれば、貴賎老若

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雅人、鈍ぶつにすゝむともよくも

ふさいだ口、あかぬもあるまじ

爾時(ときに)天明五年

李秋 景甫題

大根一式料理秘密箱

目録

一 縮大根切方 二 しらが大根

三 細切山吹大根 四 同紅大根

五 紅梅大根仕方 六 山ぶき花大こん

七 さくらのはな 八 椿はな大根

九 ぼたん花 十 かきつばた

十一 水仙花大根 十二 撫子石竹花

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十三 百合花大根 十四 輪ちかひ大こん

十五 しらむき大根 十六 素麺大こん

十七 しんこ大こん 十八 ミぞれ大こん

十九 そぼろ大こん 廿 薄刻切重 うすぎりきりかさね

廿一 早煮風呂ふき 廿二 やきふろふき

廿三 大根鮓漬かた 廿四 同こけらずし

廿五 でんがく大根 廿六 黄檗てんふら

廿七 あけだし大根 廿八 山吹洗ひ大根

廿九 三種合大こん 三十 うず大こむ

三一 より大根削方 三二 むすび大こん

三三 紅大こん仕方 三四 をろしあへ

三五 大こんでんぶ 三六 どんかめ汁

三七 利休あえ 三八 福原大こむ

三九 もろみづけ 四十 茶大こん

四一 ひき茶あへ 四二 梅仁あへ

四三 赤ミそしる 四四 大根一種すい物

四五 朧大根葛かけ 四六 大こんとろゝ汁

四七 香物焼蒸 四八 一種したし物

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四九 大根蒸仕方 五十 細干大根あへ

以上

大根一式料理秘密箱

一 縮大根切方

一此切方ハ大根を三寸ぐらいに切て、上皮をむきて

暫く水に漬をき、取あげて叉ぬるき湯の中へ

つけ置、其間に薄刃を能々とぎて、随ぶん\/

うすくむき、扨平に延して(図5-1)此通りに角を

切捨てきざミ申候、ほそきにあきなし、此うち

にもぬるき湯を打かけて、切ること秘密なり

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さてまた水につけ、たび\/水をかえ申候得ば

きざみたる大根ちぢみ申なり

二 白髪大根切方

一これハ人々よく知る事なり、しかし大こんは

四季によりてしらがにきざミがたきことあり

是に秘伝あり、春にしらがを切るハ堀入レ大根

なり、但しほり入れハ京・大坂なり、下にては

冬よりの地生なり、東国・北国ともに右に同じ

但しこれを切るにハ豆腐の湯を冷して暫く

つけ候て、一時ほどして取上げ、上皮をハむきて

切申候、爰に秘伝あり、これもぬるき湯を調へ

右大こんに度々打ち、うす刃にもぬりて切申候也

大こんうすくきれる事妙なり、扨水につけたび\/

水を替候へバ、大根光沢出てうすく切れる事奇也

三 細切山吹大根切方

一これも右の如くして、くちなしの汁をこしらへ置

右きざミたる大根をあつき湯に漬、すぐにいかきへ

上て右くちなしの汁につけ申なり、但し染汁の

図5-1

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いかき *ざる

中へ上々の名酒を少し入れる事、口授なり、さて

染りたる上にて四五度も水をかけ、雫をたらす也

是ハ人参のなき時の料理なり

四 細切紅大根之仕方

一これも右同事なり、綿胭脂の汁につけ候て

名酒を少し入レ候へば早くそまるなり、これも雫

をたらし申候、叉黒のそめ汁ハ奥の巻に記す

五 紅梅大根切方

一此切方ハ(図7-1)この通りにして、大根を三寸位ニ切

右ひだを切入レ、小口ハ梅の花の通りなり、扨また

(図7-2)此すえの所をはす剥にいたし候へハ(図7-3)此通り

なり申候をしやうえんじか紅かにてそめ申也、但し

匂ひハ白髪大根を五六筋入レ申候而、ゆばの

こまごまをしべのにほひニ付候へハ、誠の紅梅の

花のごとし、遣ひかたハさしミ・鱠其外何にても

六 山ぶき花大こん仕方

一此切かたハ右梅のへりなれどもひだを六つニ切

とるなり、これをくちなしの汁につける也、但し

綿胭脂(しょうえんじ)

図7-1

図7-2

図7-3

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台(うてな)

にんじんのあるときハ大こんは入不申、にんじんの

なき時に仕候が料理の秘事なり

七 さくら花大根切方

一これも右山ぶきのごとく六つひだニ切りて、角丸

の所に少し細筋を入れ申候也、(図8-1)此そめ汁ハ

紅にすこし青花を入て染申なり

八 椿花大根仕方

一此切かたハ(図8-2)此通りに剥申也、叉細大こん切様

(図8-3)此通りなり、大根を二寸ほどに切て、上皮を

むきて、末の所は( 此とをり山にむき、下の切口

)此通りにすそほそくむくなり、扨(図8-2)すえの

むきかけの所を薄刃にてしのぎをかけ候て、水へ

漬候へば花かたくなり申候、扨これもむき候ときニ

ぬる湯をつかひて、剥候へハ、大根自由になり申候

台ハ大根の株を上下にしてつくり申候也、但し

蕗のとうのあるときハ、ふきのとうよろしく候、叉

つぼみもふきのとうよろしく候、匂ひハにんじん

か黄染の大こんをつかひ候也、これも中へ丸大根

図8-1

図8-2

図8-3

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をほそく入れ、其上ににんじんをほそく切てまき(巻)

付るなり、これも一二度むきて見れバずいぶん\/

出来申候

九 牡丹花大根仕方

一此切方ハ(図9-1)此ごとく上を山三つ切方を入て

あとハ右椿のとをりなり、但し此むきやうハ随ぶん

薄刃を外へねさして剥かけるなり、これもぬる湯を

つかひ候へば、大根自由になる也、扨白牡たんハ

其まゝニ而よし、紅ほたんハ水汁かしやうえんじ汁か

にてそめ申候、匂ひハにんじんなり、叉ハ染大根か

ほたんのにほひハ沢山にするか、料理方の古実也

葉ハ青木葉をつかふ也、但し(図9-2)此ごとくつくるなり

十 杜若花大根切方

初(図9-3)

図9-1

z図9-2

図9-3 拡大可

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一此切かたも随分ぬるき湯を大こんにもうすはにも

ぬりてむき候へば、大根おれ申さず候、また葉にハ

しゃがの葉を切直してつかひ申なり、これもすへの所ニ

うすばにてしのぎを付る事口伝なり、またしやう

ぶの花ハすこしほそく切也、むき花ハ青花の汁にて染

申候、ちぢミ花同事也

十一 水仙花大根切方

一(図10-1) 此ごとくしてにんじんをうすく平剥にして

筆の軸にまき、扨(図10-2)此もとの所々ニ塩を少しつけ

候へば座の所ハしなび申候、これを(図10-3)此穴へ入レ

また大こんをおそく丸くして、さしこみ下へぬけ

たるを切捨候へハ(図10-4)此にほひしつかりとなり候なり

匂ひにつかふにんしんも長からぬようニ切そへてみずニ

つけ相応へ、花よくしまる也、つぼミハ大柚の種がよく

花のうてならハ、ねぎの衣皮にてすべし

十二 撫子花石作花大根切方

一小口(図10-5) これも大かた右におなじ事なり

図10-1

図10-2

図10-3

図10-4

図 10-5

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苧(からむし): 繊維を布にする植物

とかく刃ものをよくとぎ、右のぬる湯をつかふこと

大秘方なり、右花の姿(なり)に切ていろ\/にそめる

なり、大かたちぢみ花まじくあるなり

十三 百合花大根切方 図

(図11-1)このごとく切ル、(図11-2)もと

一右図のごとくに五まいへぎ、白が大こんをそろへて

長く切、もとをうすむきの大こんにて二へんまく(巻)

(図11-3)此ごとく巻しめて、其上へ(図11-4)これを五まい

ぐるりにつけてさき苧にてくゝり、叉青葉にて

一重まき、ぢくにするなり、葉ハ想ひ付次第也

花ハ白・赤・黄

十四 わちがひ大根切方

(図11-5) (図11-6)

一此切かたハ大根(図11-7)此如く壱寸程に切て、また

横に廻して(図11-8)此ごとく右たかひちがひに壱寸叉

壱寸に切て、あとにてほそき小がたなにて切ぬく也

右図のごとく切候へハ(図11-9)右大こんのたけ

図11-1

図11-2

図11-3

図11-4

図11-9

図11-5

図11-6

図11-7

図11-8

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七ツか八ツほど(図12-1)になり申候

十五 平剥大根切方

一これは大こんの葉の所を手にもち、湯につけ

それより大包丁にて、葉の所を上にして立に

むく也、尤右のごとくぬる湯に大根もほうてう(包丁)も

つけてむく、其時大こんのかふを目の上きハにて

きつと見当をつけてむくなり、扨水に入候へば

もとのごとく、かたき大こんになるなり、湯ニ漬

申事大秘方なり

十六 素麺大根仕方

一これハ大こんを二寸ほどに切、上皮をさりて、ぬる

湯につけ、はものをときすまし、長くうすくむき

叉もとのごとくに巻しめて、小口よりほそく

切て水中にのばし候へば、さうめんのごとくニ

なるを湯を煮立(たた)しゆで遣(つかい)申候

十七 しんこ大こん仕方

一大根を三寸ほどに切りて、立に三角(みすみ)にひだを

つける、これハほそき小がたなにてミぞをくるなり

図12-1

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刻(きざみ)

扨ぬるき湯につけ、ひだりまきにねぢるなり

十八 みぞれ大こん仕方

一是も上皮をさりて、小口分半ほどに薄く切

扨上々の葛の粉を大根にふりかけて、俎(まないた)の

うへにて、すりこぎにてそろ\/とたゝき候得ば

大こんの上下ともに、くずのこ付候也、但し大こんに

酒をぬりてまぶすがよし、扨湯を立しをきて*立し置て

大こんをいれるなり、鍋ハふたを明けおくがよし

さてふきあがりたるをすくひて、水に冷し申候

扨小角切かむしりてかつかふなり、すいもの・うす

葛・すまし汁、赤ミそ叉ハさしミ・なます小皿物

作り身のあしらひ、茶碗もの・くハしわん、其外ハ

何にてもよろしく候

十九 そぼろ大こんの仕方

一大根を三寸ほどに切て、上皮を丸くむきさり

小口よりうすく刻申候て、是も右のごとく大根ニ

酒をぬり、まないたに葛をふり、其上に大こんを

ならへ、またくずこをふりかけ、すりこ木にて

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打申候へば、両方とも葛つき候をあつき湯に入

ゆで申候て、水に冷してもとにほそ長く切候へハ

うどんのごとくなる也、此つかひかたも右ニおなじ

廿 薄切重(かさね)大根切方

一これハ(図14-1)此ごとく六角切なり、これを(図14-2)

図のごとく五角まてむき、一角を剥のこし、なま

にてつかひ候ても、叉ハせんばにても器にもり出す

ときに、右のごとくむき残たる一皮をまないた

の上にて、うすばにて向包丁にむきおとし

残るところの皮とれるゆへ、うつくしく切がさねに

なり申候、これを少しためて、うつハにもり出すべし

廿一 大根ふろふき早煮仕方

一これハいずれの大こんにても皮のまゝに切りて

釜の底へ茶わんに水壱盃入れ、其茶わんを

うつふせおきて、其上へ大こんをだん\/に

積かさね候なり、釜に大こん一はい入候而も

右ちゃわん一はいの水にてよろしく候、大こん

風味格別なり

図14-2

図14-1

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石ニ押 *茶碗

廿二 大根焼風呂吹仕方

一冬大こんを畑より掘出したるまゝにて、少し

酒をうち、すくに紙に巻て藁火の中へおし込

をけば、早く煮るなり、扨取出して土気をバ

洗おとし、皷かけにしてもり出すなり、此仕方ハ*味噌

播州飯野原といふ所の名物なり

廿三 大根鮓仕方

一大こんの上皮をとりて山葵砥(おろし)の目のあらき

かたにておろし、能々水をしぼりて魚類ニても

しやうじんものにても、かやくきざミ、あら\/と

こまかにして味をつけ、尤椎茸・きくらげのるい

猶以てよくあぢをつけ、生ものにハ酢をよく

きかし、右をろし大こんにまぶし、きよき布

にてつゝミ、但し塩・酒・酢をすこしづゝ入レ、石ニ押 出す時ニうすばにて切て出す也、またハあげ

麬(ふ)を入れてあぢを付るかよし、生魚ハ酢なり

廿四 大根こけら鮓仕方

一これハ冬漬の香のものゝあげまきを調へ

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上皮をうすく剥、小口切にうすく切て三度も

水にてあらふべし、尤もからくも水くさくもなき

やうにして、めしをよくさまし、よきかげんに

やき塩を合せ、大こんニも飯ニも酢と酒をふり

うち、一重\/に飯を入れ、つねのこけらずし

の通りにすれハ、半ときか一時にて能々

なれ申なり、叉ハ章魚(たこ)のすしにこれを

合せば、風味一はんのものなり

廿五 田楽大根仕方

一大こんの皮をむき、長二寸ほとに切、でんがくの

ごとくこしらへ、うす皷汁にて煮る、但し汁

にへ立し時より入れて煮るなり、扨いかきへ

あげ、竹串にさし、少し火にかけて、みそハ

何ミそなりとも、時の見はからひにすべし、さて

味噌をぬりて叉火にかけて出す也、此でんがくハ

茶人のはじめられし料理なり

廿六 黄檗てんふら大根仕方

一これも皮をさりて、立に二つに割、ミそ汁ニて

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煮たるを取出し、扨くろごまを煎、うどん

の粉にまぜ、酒と水とを少し入、とろ\/に

ねり合せ、大こんをまぶして、ごまの油にて

あげるなり、つかひ方ハ何にてもよし

廿七 揚出大こんの仕方

一これハ右のごとく少しもかハる事なし、ただし

切かた少し小ぶりニすべし、こまの油にあげ

すぐに醤油をかけ、とうがらしまたハをろし

大こんを少しをきて、こせうをふりて出す也 *胡椒

廿八 山ぶきあらひ大根仕方

一冬漬の香物大こんをぐるりの皮をあら\/

とむきて、小口にうすく切、水につけて、手にて

もみ、水四五度もかへてもみ出せば、いろ

うつくしく、山ぶきの花いろになる也、ただし

あまり水くさきハ宜しからず、扨わさびを

おろし、いりさけにて出して、佳なるもの也 *煎り酒

またハなます・さしミにも切かたによりて

よきものなり

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廿九 三種合大根仕方

一三種の内の一品ハおろし大こんの中へ、せう

がをおろして入る、叉一品ハ水漬のかうの物を

針に切て、一二度水にてあらふ、叉一品ハ生の

大こんを梅の花・さくらの花・松川菱其外

何にても、おもひ付次第に切て、梅酢の中へ

半時ほど漬候へばよく染る也、但し此中へも

酒を少し入るれば、猶以うつくし、右三色わけ

丼に入レ、酒をすこしかけ、叉花かつほをかけ

出すべし

三十 うず大こん切方

一大こんを二寸ほどに切、上皮をむき、うすく巻

剥にするなり、これもぬる湯に大こんをつけ

おきてむくなり、扨むき仕舞て元のごとく

巻帋のやうにまきしめて、小口よりうすく

切て、其まゝ水へつけ候へハ、巻なりにはぜる

よつてこれをうず大今nといふ、つかひかたハ

いろ\/あり

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図19-1

三四 大根をろしあへ仕方

一冬漬の香物を壱寸ほどに切、上皮をさりて

巾壱分、厚さ分半ほどに刻ミ、水にて三四度

あらひて、しぼりをき、叉外の香物の上皮を取

山葵をろしにておろし、すり鉢へ入、よくすり

叉さんしゃうを少しと皷をすこしと入、右三品

よくすり合セ、右しぼりたる香ものをいれて

あへるなり、また山葵(わさび)もよろしく候

三五 大根でんぶの仕方

三一 より大根削方 (図19-1)

一是ハ四季によるなり、随ぶん

かたき大こんの上皮を去り

中のしんの所を逆手にもち、ほそき小がたな

にて、かつほのごとくけづるに秘事あり、大こんの

さきを、むかふの左りの方へねさして、もとを

右の方へ取もちて、小かたなをうけめにもちて

むかふへ\/とけづれば、右大こんうすく、きり

\/とよれ申候を水へ入るなり

三二 むすび大根仕方

一大こんに葉をつけながら、先より竪にうすく

切そろへて、葉の所を持て、しバらく湯につけ

取あげて、まな板の上にて塩をすこしふりて

むすび候へば、いかやうにもむすばれるものなり

扨入レ子に水を入れ、いくたびも水をかゆれば

塩気ぬけて、もとの生大こんになる、但し

むすびやうハ大小見合にしてよし

三三 紅大こんの仕かた

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一これハ夏大こんの上皮をとりて、扨ざつと

ゆで、よく\/涼風にふかせ、上々の梅酢に酒

を少し入れて、三日ほど漬おき、よき天気ニ

一日干て、其夜ハ叉もとの梅酢につけ、翌日も

天気よくハ一日ほして、夫より五六日も梅酢ニ

漬をきて、水出し、白砂糖にまぶし漬をく也

つかひ方色々あり、さしミ・鱠・小皿物・酢の物

またハとりざかなのあしらひ、其外何にても

つかひかたいろ\/

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一これも右のごとく香のものをおろして、酒を

当分にあハせ、炭火にてそろ\/とたき

いり付候ハヽ、叉酒一はいと醤油一はいと入れ

亦すミ火にて煮申候、いり付候時分になべを

あげ、外のうつわにうちあげ、よくひやして

白さとうを少し入、手にてよくもみ候得者

あら\/とこまかになり申候を、少しひしやげ

申候、叉ミそ漬の香物を水にてよく洗らひ

鉢に切候て水と酒ととうぶんにあハせて

炭火にて煮て、冷し、扨また沢庵漬の大根

を右のごとくにして、これハ酒ばかりにて煮る

此中へ生姜ををろして入て煮る也、これも

能冷して、手にてもミ、一ツに入、よく\/まぶし

申なり、これ大根でんぶの仕かたなり

三六 大こん土亀(どんがめ)汁仕方

一大根を丸剥にして、壱寸ほどに切、よくゆでて

ミそ汁にてよく煮申候て、扨黒ごまをいりて

山しやうを少し入、よくすり合セて、上にをく也

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地黄(ちわう) 薬草の一種

白皷 白みそ

三七 利休あへ大根仕方

一大こんを六角にむき、竪に二ツに切、小口より一分

ほどに切て、とくとゆで候て、能冷し申候なり

扨叉黒ごまをよくすり申候て、叉上々のしろ

ミそを入れ、随ぶんよくすりて、ミりん酒少し

入て、やワらげ、其上ニ而粉肉桂を見合に入れ

大こんを入てあへるなり、右にくけいを香に *にっき

入れるにあらず、大こんハあへて暫くすれバ

あしきにほひ出るゆへ、これを入るればくさみ

出申さず、此あへものハ地黄(ちわう)にさしあひなし

つかひ方ハ猪口もの、其外何にてもよろしく候

三八 福原大根あへ仕方

一これハ皮のまゝ一寸ほどに切、厚さ壱分くらいニ

切、ゆがきてよくひやし、扨白皷をよくすり、但し

こまハ入レ申さず、上々の酢を入れてすりあハせ

大こんをあへるなり、抑人皇八十代高倉院の

の御宇、福原の都と申奉るハ、摂津の国に

てありける、此御所にてはじめて、このあへ物

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を奉りしなり、天明五年ニ至りて、およそ

六百十七年ほどになる、此例をとつて、今にても

冬に至り、正月の餅を搗(つく)日雑煮をする、此向に

大こんのあへものをつけるハ、是謂なり、今此名を

今酢大こんといふなり、尤色々いはれあり

三九 大根もろみ漬仕方

一これハ細大根にかぎらず、何大こんにても急なる

時ハもろミつけにする事なれハ、大こんを見合に

切、小才にても何にても、ぬる湯にちよとつけ、すぐニ

あげ、塩を沢山にふり、丼に入て酒を少しづゝ打

て、小石を押にかけをきて、よきかけんにして

すぐにもろミにてあへ出せば、さつそく食するに

風味一はん也、冬にかぎらず、いつにても右のごとく

してよろしきものなり

四十 茶大こん仕方

一大こんを長一寸ニ(図23)此ごとく切、よくゆで申候て

水につけ、水を弐度ほどしかへ、土釜にて湯を *取替

煮申候て、尾州か薩摩かのらくやき茶碗に

図23

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入て上々の引茶を少しづゝ入れ、ふたをして出す*抹茶

但し右大こんハ随ぶんあつき湯につけ、すぐに出

すがよし、これハ茶人の仕出し料理なり

四一 引茶あへ大こん仕かた

一これハ甘口冬漬大根の香物の上皮を取、小口

切に長くして、あつさ一分ほどにほそく切り、扨

是をすくに煮湯に入て、一二度ほど煮て、よく

やハらかになり候を水へ入れ、一度あらひて能搾り

上々の白ミそをよくすり、酒を少し入てのべ

叉ひきちやを入れ、よく\/すりて、右かうのものを

入てあへ申候、但あまり皷沢山なるハあしく候

叉白さとうを少し入るもよし

四二 梅仁あへ大根仕方

一此仕かたハ右に同しことなり、ばいにん上皮を

さりてすり、ミそとさとうを入てあへ申候、但し

魚るいハ蛤か赤がいかを入、生姜のせん切を入てよし

叉ハいなたの類もよし、叉精しんハ銀杏、金かん

輪切・はん榧・椎茸小才切、あち(味)をつけて、さてハ

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すい口 :汁物に香りをそえるために少量うかべるもの。 ゆずの皮、しょうが、わさびなどよく用いられる

なんどりとあたりニ *穏かに当り

口におろし大こん *すい口として

御所柿、才切、此ようなるいを入れるもよし

四三 大根赤ミそ汁仕方

一大こんを長一寸ほどに切て、(図25-1)なます

をろしにておろすが、一だんとよろしく候、これハ

水にてあらハず、すぐに赤ミそ汁にて煮申候

ただしみそうすくなきやうにして、煮申候せつに

さけを少し入レ、ふたをあけ、下の火ばかりにして

青からしをときて、すい口に入れ、出し申候へハ

風味至ごくかるく、一だんとよろしく候

四四 大根一種すいもの仕方

一是ハ前にある(図12-1)わちがひ大こんを輪二ツ切ニ

して、よく湯で、すまし汁に薄葛をおとし

これハかけくずなり、口中ニなんどりとあたりニ やうにするなり、汁ハ少しあまめにして、右大根

を碗に入れて汁を入れ、口におろし大こん をする也、叉こせうのこをねり、まるめ(図25-2)此くらい

にして、扨おろし大こんの汁をしぼり、手にて

(図25-3)此ごとく小才にして、右こせうを一つぶ入れて

図25-1

図25-2 径3mm

図25-3

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外茶わんニ *他の茶碗

*寒晒し粉=白玉粉

もろつきのなきようニ 摺り損じ無きよう

あんかけのくらい あんかけ程度

わんのふたの上にのせて出す、いかなる客たりとも

これを賞せぬハなし、酒長ずるにおよんでハ

甚佳なるすいものなり

四五 おぼろ大根葛かけ仕方

一大こんの上皮をさり、壱寸ほどに切、釜中に

むし、すり鉢にてよくすり、上々のくずを少しと

寒ざらしのこを少しと入、よくすりあハせて

茶わんに入レ、むして出すときに、外茶わんニ うつして、くずあんをかけ、おろしせうがをおき *生姜

出す、但し魚るいの時ならば、玉子のしろミをいれて

よくすり合せ、叉くずのこ・かんさらしのこを少し入候へハ大こんよくまざり候、但生の大こんのおろしを少し入蒸也

四六 大こんとろゝ汁仕方

一冬の青身大こんの皮をうすく剥、ミそ汁ニ而よく煮

其まゝひやし、すりばちにてもろつきのなきようニ

すりて、酒だしに醤油のかげんをして、上々の葛を

引也、但しあんかけのくらいにして、右すり大こんの

中へ少しづゝ入てすり申候、扨此中へからミ大こんを

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*にっき・唐辛子

二分通りほどおろし入てする也、かやく肉桂・とうがらし あさくさのりか、かだのりか、こま\/にして、ちんぴ

こま\/此るいを小皿ニ入て出すべし

四七 香物焼蒸大根仕方

一いつにても、一夜漬の大こんを水にてよくあらひて

紙につゝみ、もゆる火の中の灰にうづミてやくなり

右のかみハ水ニぬらして入るなり、紙やけ候ときに

取出し、ぬる湯にてあらひ、とうがらし、醤ゆうを

かけ出すべし、酒のさかなにハ、とうがらし・ミそかけ

にして出すもよろしく候、当世あさづけ大こん

を、右のごとくして出すハ、大かた茶料理ニ遣ひ

申候、これもよろしきものにて候

四八 大根一種したしもの仕かた

一此しかたハふゆづけの塩あまなる、かうのものゝ

上かわととりさりて、酒に一夜つけをき候て

よくじつにとり出して、水にて一度あらひて

一寸五分ほどのたけに切て、また横にうすく

へぎて、しらがにきり申候て、これをそろへて

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くミあハせて、ちょく 図28

にても、とんぶりばち

にても、これを入れて、その上にむめずけの

花大こんを、ちらして出し申候、しらがも、花も

ミだれぬやうに、かけしるをすべし、これハ醤油の

中へ白さとうをすこしばかり入れて、よくかき

まぜてかくべし *かけるべし

四九 大根蒸仕方

一此しかたハ、いま尾州より出る、切ぼし大こん也

これを湯にて一度あらひ、こま\/にたゝき、鍋に

ごまの油少し引、右大根を入、扨塩いわしか、塩

さばか、めぐろかを、才切にして、水にて一度よく

あらひ、酒にて一度煮て、すぐに取上ケ、こま\/の

大こんの中へ入てまぶし、なへのふたを、しかとし

むしいりにして、取出し生姜のしぼり汁を入

丼鉢にて出ス、甚風味よく候、叉精じんならば

やきくり、ぎんなん、こんにやくのるいを、せん切か

才切にして、あぢを付て入るなり、其外かハ

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見合に入れてよし

五十 細干大根あへもの仕方

一干大根を其まゝ薄く小口切にして、入子かどん

ぶりかに入れて、にへ湯をかけ、しばらくして、能

しぼり申候、もしこハく候ハヽ、あつ湯にて、ざつと

ゆで申候なり、扨さんしやうみそに、ごまを入

あへ申候なり、ただし魚るいならば、かづのこを入

黒ごまを入れて、黒あへも宜しく候、黒あへハ鍋

炭なり

天明五年乙巳初秋

東都通本町三丁目 西 村 源 六

大坂心斎橋順慶町北江入町 柏原屋清右衛門

伊州 内神屋 三四郎

平安東洞院通二条上ル町 木村 吉兵衛

同堀河通六角下ル町 中村 藤四郎

同堀河通錦小路上ル町 西村市郎右衛門

図28

右側説明

これは花に切り、そめ 申候

左側説明

しらが此ごとく組合申候

出典: 国立国会図書館蔵