学校教育法の改正

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(副学長の権限強化,教授会は学長に意見を述べるだけ,出向,天下り)

学校教育法と国立大学法人法の改正にが行われ今年4月1日に施行された.

今回の改正は,学長のリーダーシップの下で,戦略的に大学を運営できるガバナンス体制を確立するため,副学長・教授会等の職や組織の規定を見直すとともに、国立大学法人の学長選考の透明化等を図るための措置を講ずることになる.

同法案は,文部科学省ホームページに掲載されている.

学校教育法及び国立大学法人法の一部を改正する法律案:文部科学省

学校教育法及び国立大学法人法の一部を改正する法律案(概要)

学校教育法及び国立大学法人法の一部を改正する法律案(要綱)

学校教育法及び国立大学法人法の一部を改正する法律案(案文・理由)

学校教育法及び国立大学法人法の一部を改正する法律案(新旧対照表)

学校教育法及び国立大学法人法の一部を改正する法律案(参照条文)

同法案は,中央教育審議会大学分科会及び同運営組織部会での審議を受けてのものである.

「大学のガバナンス改革の推進について」(審議まとめ)(平成26年2月12日 大学分科会):文部科学省

副学長の職務

副学長の職務は,これまでは「学長の職務を助ける」と規定されてきたが,学長の補佐体制を強化するため,学長の指示を受けた範囲に於いて,副学長が自らの権限で校務を処理することを可能にすることで,より円滑,且つ柔軟な大学運営を可能にするため,副学長の職務を「学長を助け,命を受けて校務をつかさどる」に改められた.

教授会の役割の明確化

教授会に於いては,これまで「重要な事項を審議する」と規定されてきたが,教授会は教育研究に関する事項について審議する機関であり,また,決定権者である学長などに対して,意見を述べる関係にあることを明確化するため,以下のように改正が行われた.

1)教授会は,学生の入学,卒業及び課程の修了,学位の授与その他教育研究に関する重要な事項(教育課程の編成,教員の教育研究業績の審査等が含まれる)で教授会の意見を聴くことが必要であると学長が定めるものについて,学長が決定を行うに当たり意見を述べるとこととされたこと.

2)教授会は,学長などがつかさどる教育研究に関する事項について審議し,及び学長等の求めに応じ,意見を述べることができるとされたこと.

マスコミ等の見解(天下りに都合のよい法改正)

学校教育法が昨年6月に国会で成立した際,東京新聞(2014年9月1日)が「天下り」との関連を指摘している.現在はWEB上で記事を見ることができないので,以下に紹介した.

国立大9割に 文科省「天下り」 理事ら幹部77人出向

全国の国立大学法人86校のうち約九割にあたる76校で、計77人の文部科学省出身者が理事や副学長、事務局長などの幹部として在籍していることが分かった。事実上の「天下り」を通じ、国立大の運営に文科省の意向が反映されている恐れがある。

文科省が自民党の無駄撲滅プロジェクトチーム(PT)に提出した資料で明らかになった。PTでは、文科省と国立大との人事交流を若手職員に限るなどの改善を提起する方針だ。

資料は4月1日現在で、文科省から国立大への出向者をまとめた。課長級以上の管理職は国立大ほぼ全ての83大学で、計239人が在籍している。

2013年の同省幹部の出向者は、75大学で75人。管理職は83大学で247人いた。12年は幹部が70大学で70人、管理職は80大学で239人だった。

6月に国会で成立し、来年4月から施行される改正学校教育法は教授会の権限を限定し、学長主導の大学改革を促す。同法の改正では、学長を補佐する副学長の職務範囲を拡大した。副学長への出向を通じ、国立大への文科省の影響力が一層強まる可能性がある。

文科省は「各学長から要望があった際、該当する人がいれば協力をする」(人事課)と要請に応じた人事交流と説明している。

文科省出身の理事2人がいる東京大は「文部科学行政全般に幅広い知識や経験を有した人材は、本学の発展に貢献いただけると期待し、総長(学長)が任命した。出向終了後は文科省に戻るので天下りではない」(広報課)としている。

国立大学では,独立行政法人化にともなって「副学長」のポストが新設された.ところが,その副学長職は文科省の天下り官僚の恰好の受け入れ先にされてしまったという見方がある.東京新聞の記事によれば,86ある国立大学の中で,副学長のポストには26人の文科省天下りがいる.上述したように,昨年6月に国会で成立し,今年4月に施行された改正学校教育法では,副学長の職務権限が強化されている.

国立大学の独立行政法人化は,大学が国の統制下から外れて,独自性の高い特色ある教育研究を促すことにあったはずである.しかし実態は真逆であり,教授会の自治は損なわれ、文科省官僚の統制が強まっているという.

国立大学の法人化により「天下り」や「出向」が増えたというが,法人化以前にも存在した.法人化の際に,官僚の職域の拡大を意図したのか,結果的にそうなったかは分からないが,今回の法改正が一連の流れ(国は,国立大学が税金で賄われている以上,国が口出しするのは当たり前という見解)に沿ったものであるという意見が主流のようである.

今回の法改正は,すべての国公私立大学が対象である.トップダウンによる迅速な意思決定により大学改革を促すのが狙いであるが,学長の独裁を招くという意見もある.私の所属する私大理事会では,改正に合わせた学則の変更を行ったが,私大の場合,運営は従来と変わらないという意見が主流であった.

資料(国立大学に対する国の動き)

〇国立大学の卒業式や入学式での国旗掲揚、国歌斉唱

安倍首相は参院予算委員会(2015年4月9日)で,野党議員の質問に答えて、国立大学の卒業式や入学式での国旗掲揚、国歌斉唱について次のように答えたという. 「学習指導要領がある中学、高校ではしっかりと実施されている.(国立大学が)税金で賄われているということに鑑みれば、教育基本法にのっとり、正しく実施されるべきではないか」(『毎日新聞』 4/11)

〇教員養成系、人文社会科学系の廃止や転換

「文部科学省は先月、同省の審議会『国立大学法人評価委員会』の論議を受け、国立大の組織改革案として『教員養成系,人文社会科学系の廃止や転換』を各大学に通達した」(『東京新聞』9/2朝刊,「国立大から文系消える?文科省が改革案を通達」の記事)

〇国立大学交付金、成果で配分

財務省は27日,財政制度等審議会の分科会を開き,国立大学に配る運営費交付金の改革案を示した.交付金の3割程度を「改革経費」とし,論文数や若手登用といった指標で成果を評価し配分する仕組みに見直す.文部科学省と協議し,2015年度の導入を目指す.

成果を上げている大学に重点配分する一方,不十分な大学は減額されるため,競争原理が働いて大学の統廃合につながる可能性がある.

〇国立大を段階評価、予算配分に反映 16年度から文科省

国立大学への予算配分を議論している文部科学省の有識者会議は26日、各大学の取 り組みを3~5段階で評価し、翌年度の予算配分に反映させる改革案をまとめた。国立大を3グループに分類し、学生の就職率や教授の論文数、外国人留学生の 受け入れ実績などグループごとに設ける指標で評価する。大学間の競争を促す狙いで、同省は2016年度から導入する。 以下省略 日本経済新聞

教授会についての審議会の意見は下記の通りであった.

問題は,本来学長や理事会に最終決定権がある事項について,直接責任を負う立場にない教授会の議決によって,学長や理事会の意思決定が事実上否定できるような権限と責任の不一致が生じる場合である.そのような場合には,ガバナンス体制が不明確になっていると言わざるを得ないが,内部規則等において教授会に決定権が認められている大学も多いとの指摘もある.

学長や理事会が最終的な経営責任を負うこととされている現行制度の趣旨を踏まえ,各大学において,教授会に決定権を付与するような内部規則等について,権限と責任の明確化の観点から総点検・見直しを行うことが必要である。

◯ 教授会については,専門的知見を持った教員から構成される合議制の審議機関であることを踏まえると,学校教育法に規定する,教授会が審議すべ き「重要な事項」の具体的内容として,1学位授与,2学生の身分に関する審査,3教育課程の編成,4教員の教育研究業績等の審査等については,教授会の審議を十分に考慮した上で,,学長が最終決定を行う必要がある.

(2015.8.18)