日本化学物質辞書Web

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薬学,化学系図書館には,1907年(明治40年)に創刊された Chemical Abstracts という抄録誌がある.アメリカ化学会に所属するCAS (Chemical Abstracts Service) から発行される国際的な報知的抄録誌であり,1年間の雑誌だけでも大型書架の一段分を占有するほどである.

化学情報協会の情報 (CAS Media Releases) によると,登録物質数が2012年末に7000万件を超えたそうである.6000万件到達からわずか18カ月という.7000万件目の物質は,韓国ソウル市にある総合研究機関,韓国科学技術研究院 (KIST)で発見された,T型カルシウムチャンネル拮抗剤としての可能性を持つ化合物で,CAS登録番号1411769-41-9が付与されたと書かれている.なお,1982年頃に1000万件目に登録された化合物は九大薬学部薬製研究室で合成したものであった(故兼松教授からの私信).この分野でのアジア勢の活躍はめざましく,CASが収録した化学特許の63%がアジア発と言われている.

JAICI 化学情報協会の協会案内によると,2014年には9000万件を超えたと記載されている.次図は JAICI 案内に掲載されている CAS REGISTRY 登録の推移を示した図である.タンパク質,核酸配列を含めると1億5700万件に達している.

化学情報協会案内図を参考に作図

このように指数関数的に増加する化合物のデータ検索は,以前のように紙媒体に頼る時代ではないことは容易に理解してもらえるはずである.10年以上前に,私大薬学部から大学院修士課程に進学してきた院生に図書館で文献のマニュアル検索を初体験(卒論研究未経験)させたことがあった.丸1日費やして,重たい合本群と格闘し,与えた課題を検索し終えた時には,全身疲労状態に陥ってしまっていた.その後,パソコンによるオンライン検索を経験させたが,マニュアル検索演習は「文献検索の原理理解」というよりも,「いじめ」の印象を与えてしまっただけであった.

歴史のある大学図書館では,Chemical Abstracts (CA) の継続的購入と収蔵・維持のため,たいへん苦労している.

20世紀末にCD,オンライン化が進み,CAS (Chemical Abstracts Service) の SciFinderが使えるようになったが,そのため地方大学で年 1000万円,旧制大学は 2000万円程度支出している.電子ジャーナル全体となると,地方大学でも1億円を超している(各大学の「随意契約における情報の公表」による).冊子体を含む外国雑誌購読料の1/2〜1/3を占めている.

化学物質やその文献情報は,在職中は有料のデータベースが利用できたが,退職するとその手が使えない.NIH(米国国立衛生研究所)の PubChem, 医薬品添付文書情報,Wikipedia 等を調べれば,それなりの情報は得られるので,不自由をすることはないが,初学者にとっては単純性に欠ける.

PubChem(英文)

米国国立衛生研究所(NIH)の作成による BioAssay, Compound, Substance の3つのデータベースから構成されている.化合物,物性データ,医薬品情報,毒性,二次元構造,自由回転可能な三次元配座などが検索可能.検索結果から合成,一般,特許等の引用文献へのリンクがはられている.

PubChem

Compound Summary

科学先進国である我が国でも PubChem 類似のデータベースが構築中であることは聞いていたが,その後の動向については注目したことはなかった.改めて調べてみると,表題のデータベースが国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)によって提供されていることが分かった.現在,収録件数は約 337万件(2015.04 現在)に達しており,化学物質名,分子式等の文字列,化学構造などからの検索が可能である.検索結果として物質の日本語名,英語名,産業技術総合研究所 有機化合物のスペクトルデータベース (SDBS) 番号,CAS登録番号,構造情報などが表示される. SDBSと連携していて,赤外線吸収,核磁気共鳴(PMR, CMR),質量分析等のスペクトル情報がチャートおよび数値データとして無料で入手することができる.

いろいろな化合物名を入力して検索を試みたが,化学構造やスペクトル情報に重点を置いた利用目的なら不自由することはない.物性等については,簡単な記載(キーワード)に留まっている(例 ibuprofenの場合の記載事項,解熱鎮痛薬 感覚器作用薬 抗リウマチ薬 代謝産物 非ステロイド系消炎薬) .<

検索化合物関連の研究者,文献,特許等について調べる必要がある場合は,「化学物質情報詳細」に設置されている 「関連文献や研究者等を検索」の「G-GLOBAL検索ボタン」から「異分野の情報連携を目的に創られたサービス」へ飛ぶように設計されている.

例としてイブプロフェンを入力すると,類似構造の化合物,その成分を含む市販医薬品まで58件が表示される.検索結果の一部(スペクトル)を以下に示した.

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