エバーグリーニング

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(ジェネリック医薬品,価格高騰,TPP,エバーグリーニング,特許期間延長)

JAグループ熊本は,2013年7月30日から環太平洋連携協定 (TPP) 断固反対運動の一環として,30秒のテレビコマーシャル(CM)を,県内の民放各社を使って放映している.

地元タレントの大田黒浩一氏が,県民が聞きなれた声(熊本弁)で,

「TPPって、要は何? TPPで影響を受けるとは、農業だけじゃなからしかですよ。

お医者さんも、ちいさな子どもを持つお母さんも、中小企業の社長さんも、たいぎゃな心配しとらすとです」

と,語りかける.

先の選挙で,自由民主党が大勝し,JA 改革にも手をつけ,TPP も既定方針?通りに進み,CMも終了するのかと思っていたら,最近も相変わらず放映されている.

TPP もかっての日米構造協議や日米包括経済協議の延長線上にあり,アメリカが自国の国益のため,日本に圧力をかけ,日本の制度や政策の変更を要求する日本改造の一環であり,どうにもならない一面があるものと思ってきた.しかし,5月29日の NHK BS 放送の米国内ニュースをみながら,JA 熊本のテレビ CM の一部「お医者さんも・・・・」を思い出し,かなりヤバイことになるかもしれないと感じた.

ニュースの内容は,米国のジェネリック医薬品価格が驚くほど高騰しているというのである.一生飲み続けなければならない薬の場合,生活を圧迫している具体的事例を紹介していた.医療費の高騰で,ヨットによる世界一周旅行ができなくなったと嘆いている夫婦の話まで取り上げていた.

日本の医療用医薬品の場合,薬価は公的に定められているが,アメリカにおける薬の値段は需要と供給のバランスで決まる.これまでは激しい競争に より,ジェネリック医薬品の価格は下がる一方であったが,最近では需要と供給のバランスがくずれ,一部の薬剤は数百倍にもなっているとのことである.原因はいろいろあるが, 採算が悪い古い薬剤の販売を中止する会社が増えたことが一因らしい.

TPP によって医療費の高騰は避けられなくなってしまうとの見解が多い.TPPにおける知的財産の交渉では,予想外の要求もあるらしい.そのひとつが,医薬品の特許期間を延長できる制度の導入である.1回だけならともかく,やり方によっては何度でも延長できるという.この制度は,植物が永久的に緑を保つことにたとえ「エバーグリーニング」と呼ばれている. 注) evergreen 常緑の,いつまでも新鮮な.

特許におけるエバークリーニング戦略の詳細は判然としないが,既存薬の構造や使い方を変えた医薬品を,新薬として特許申請する手法らしい.具体的な例(結晶形特許)としては,ファイザーの高脂血症治療薬(リピトール錠,一般名:アトルバスタチンカルシウム水和物)が有名である.2011年に基本特許である物質特許が切れ,米国ではすぐジェネリック品に取って代わられたが,日本では,「製剤特許」,「結晶特許」によって,ジェネリック品の上市が遅れた.その後,後発薬メーカーの提訴で知的財産高等裁判所が「結晶特許」を無効にすると,ジェネリック品が急速にシェアを伸ばした.

ジェネリック薬業界は戦国時代に突入したと言われているが,TPP がらみであることは明らかである.米国では,医師が処方した医薬品を,薬剤師が品質,費用などを考慮して,患者の同意の上で後発薬に替える「代替調剤」が認められている.日本では,処方箋の「変更不可」欄にチェックがなく,医師の署名又は記名・捺印がない場合,保険薬局で薬剤師と相談の上,患者が「ジェネリック医薬品」を選ぶことができる.TPPという高度な自由貿易協定の舞台裏で,本件に関して,どのような要求が突き付けられているのか具体的に見たいものである.

5月初旬,西村康稔内閣府副大臣が TPP の条文案を国会議員に開示する方針をいったんは表明しながら,撤回した.TPP 交渉が最終局面を迎える中,情報開示できないのは農業関連だけではないのは確実である.

日本では,2025年に高齢化のピークを迎える.厚生労働省は高齢化社会の到来を前に,かってゾロと言われたジェネリック(後発)医薬品の使用を推奨しているが,TPP によってその動きは崩れるとの見解が多いようだ.

ジェネリック薬業界

大手ジェネリックメーカーである沢井製薬の推計では、2007年度にジェネリック医薬品は年間約260億錠販売された.そのうち,ジェネリック医薬品メーカーで作ったのは約160億錠である.2012年度には,ジェネリック医薬品が430億錠になった.さらに,2017年度には730億錠,2012年より余分に年間300億錠を作れないと需要を達成できないという.ジェネリック医薬品の大手メーカーは3社(日医工,東和薬品,沢井製薬,株の人気銘柄では5社,日本ケミファ,日医工,東和薬品,富士製薬工業,沢井製薬)で,中小企業が多く,非上場であるため,資金的に余裕がなく,外資との合併もみられる.売れれば売れるほど,原薬の大量購入が必要であり,在庫も持たなければならないので資金が 足りないというのがジェネリック医薬品業界の実態らしい.

このような状況下,大手新薬メーカーも後発薬に手を出している.エーザイは子会社としてエルメットエーザイ,武田薬品工業はあすか製薬という後発薬メーカーをかかえている.ジェネリックには消極的だった第一三共は,2008年インドの大手ジェネリックメーカー,ランバクシー・ラ ボラトリーズを買収したが,品質問題で米国への輸出ができなくなり,6年後(2014年)に売却した.この間,2010年に後発薬の子会社として第一三共エスファを設立している.

国内勢ばかりではなく,世界最大のジェネリック企業であるテバファーマスーティカル・インダストリーズは興和新薬と提携し興和テバを設立,第2位のスイスサンドも日本に参入している.米ファイザーはエスタブリッシュ医薬品事業で後発薬を扱っている.

注)エスタブリッシュ医薬品とは,長期の臨床使用経験に基づき効果と安全性の評価が確立されており, 今後も長く使われていく標準的な治療薬と定義している.

参考資料

[PDF]医薬化合物の結晶多形に関する発明の進歩性判断 ...

[PDF]ジェネリック医薬品の現状と課題

2012年1月の時点でファイザーが有していたリピトールの特許

結晶形についての特許権(日本特許第三二九六五六四号)、

安定化された製剤についての特許権(日本特許第三二五四二一九号)

非晶質の製法についての特許権(日本特許第四〇六四四五九号)

Facing Generic Lipitor Rivals, Pfizer Battles to Protect Its Cash Cow, The New York Times;: November 29, 2011

(2015.6.7)