ブリード現象

(ゴム成型品,樹脂の崩壊,可塑剤,溶解度パラメータ,家電品)

断捨離で数多くの電化製品を処分した過程で,たいへん気になる現象に遭遇した.

それはプラスチックの劣化である.

ソニービデオカメラレコーダーのCCD-V89を収納ケースから引っ張り出してみて,びっくりした.写真に示すようにカメラのレンズフード,キャップが本体から脱落し,レンズフードはひびが入り油にまみれていた.

周囲に機械油などはなく,いろいろ調べるとゴム成型品によくある「ブリード」という現象であることが分かった.

ひびが入ったレンズフード,リングが内接しているはずが・・・・

レンズキャップに溜まった滲出液

ブリードとは?? 2011年4月25日 07:35

ゴム成型品に起こる問題として、「ブリード」があります。

これは、どういった現象かというと、ゴム成型品が、時間が経つと、表面に油がでてきて、べちゃべちゃするというものです。

この油(ゴム業界では「可塑剤」といいます)が、

接触しているプラスチックを劣化させ、場合によってはプラスチックが割れてしまうなどの問題が起こります。

これを「移行性」といいます。

レンズフードのレンズ側開口部は取付用ネジを切ったプラスチックリングに,対物側の広い開口部はキャップに内接している.そのような状態で油が出てしまったわけだから,フードは硬くなり収縮したはずである.その際,開口部が固定されているので割れたと考えれば辻褄が合う.

このことを家内に話したら,同じような現象がソニー製電子辞書でも起こり,使っていないという.SONY DATA Discman 電子ブックプレーヤー DD-1である.表面が脂ぎっていて,触るとベタついていて気持ちが悪いらしい.この現象,なぜか黒い樹脂に多く,その後に購入した同社の電子辞書(色 マイカメタリック)では起こっていない.

これも「ソニータイマー」のひとつではないかと思い,Googleで調べると,オークションに出品されている製品にも「表面がベトつく」という表現を散見する.

建物のシーリングも同様の現象が認められるという.

シーリング材に含まれている可塑剤が滲み出し塗料を変質させベタつきを発生させるらしい.当然,シーリング材の上に表面を塗装する.ところが,シーリング材の可塑剤が塗装に滲み出し,滲み出した可塑剤が塗装を変質させ,塗装面にベタつきを発生させる.最終的には,このベタつきに,ホコリやゴミが付着し目地の汚れが発生するらしい.

我家も昨年の夏に,屋根,外壁の本格的リホームを行った.結構な費用が必要であったが,工事最終日に「次は10年後ですね」と業者が言った.高分子間の反応速度からその程度しかもたないのだろう.

分子レベルで考えると,高分子ポリマーに低分子の添加物を配合した場合,高分子の狭間に添加剤が混在しているに過ぎない.強力な共有結合ではなく,弱結合の集合によるものであるから,ポリマーの構造変化に耐えられないのだろう.

ブリード現象は油が滲出するだけではなく,粉を噴くこともある.その要因は,可塑剤,成型時の滑剤,安定剤,低重合物等の存在で起こることが知られている.詳細は参考資料をみてほしい.

複雑な劣化要因

プラスチックは光にも弱い面があり,条件によってはさらに樹脂の寿命を縮めている可能性がある.太陽光に晒される洗濯バサミ等がボロボロになるのはよく経験する.劣化要因としては,紫外線,熱,酸化,水,微生物などによる分解が知られているが,それらが複合的に作用しあっているらしい.

今回の経験でもっとも心配なのは,経年変化による電気配線関係の問題である.

我家の台所の換気扇のスイッチが壊れた.いつもの通りシーソースイッチを押したら,スイッチ本体が奥に引き込んでしまったという.外してみると,すべてプラスチックのみで作られていた.化粧カバーがプラスチックなのは問題ないが,スイッチ本体を支える部分までプラスチックなのは問題である.交換用に購入したパナソニックの製品(右側)はスイッチ支持板は金属でできていて,ネジで壁に固定する.

壊れたプラスチック製スイッチ保持板とカバー

交換した製品

スイッチ保持板は金属製

この種の経験はドアノブでも経験した.一見真鍮に見えるドアノブがプラスチック製であり,何かの拍子に壊れてしまった.現在はアルミ製に変わっている.電池ホルダー,リモコン等の蓋の爪折れなど枚挙にいとまがない.

接着剤で応急修理したドアノブ

バネの力に負け折れた電池ホルダー

昔は金属で作られた物がプラスチックで作られるようになって久しい.メッキ技術が発達し,金属ばかりではなくプラスチック表面でもメッキできるようになったためでもある.自動車の場合,バンパーをはじめとしてかなりの部分が樹脂に置き換わった.車の場合は特殊で,壊れることにより衝撃を吸収する役割もあるらしい.しかし,家電品の場合は,簡単にこわれては困る.可塑剤の選別と配合をうまくすれば,結構長持ちするらしい.問題はリサイクル過程で性質の異なる樹脂が混じることが問題である.リサイクル自体を否定するものではないが,廃タイヤ等を主原料とする再生ゴムが50%も使用されている例(主に中国製)もあるという.

プラスチック製品に強度を期待するのは無理であり,壊れたら再生して使用すればよいという考えは一見正解に聞こえるが,異質樹脂の混入によって品質が低下することは明白である.プラスチックの処理が問題になる前は自治体の多くは処理困難物としてプラスチックを不燃ごみとして回収し,直接埋め立てる方法をとっていた.すでに廃棄されたものは,膨大な量になっていて,機械的に小さくなった状態で鳥類や海洋生物の体内に取り込まれてしまう.

家電品,パソコンおよび周辺機器の中もプラスチックだらけであり,わずかの力で爪が折れたり,ひびが入るなど日常茶飯事である.

プラスチック文明のもろさを実感する昨今である.

参考資料

TPUのブリードについて(シーダム株式会社)