ゼロ城日記

試遊会1~3

<その1>

目を開く。

吐き出した息が、正面の窓を曇らせた。

頭が痛い。寒気がする。

翼を動かそうにも、全く力が入らない。

両腕に一本ずつ刺さったプラグに気づいたのは、それらから何か温かいものが流れ込んできた時だった。

じわじわと、触覚と温度を伴って、それは伝わる。毒、というわけでもなさそうだ。むしろ、どこか気持ちいい。

今は全てを委ねてしまってもよさそうだった。

半鳥人―――この世界においてはハーピィと呼ばれている―――の少女、アイオーナ・リオーナは、金属の卵の中で二度寝を始めた。

☆ ○ ☆ ○ ☆ ○ ☆ ○ ☆

目覚めたアイオーナは、約十五度に傾いたカプセルの扉を翼で押し開けた。

自分を助けてくれたらしい二本のプラグに暇を出して体を起こすと、その先に巨木が見えた。高さだけでも、アイオーナの百倍もあった。軽く一万年は生きてきただろうし、この先もう一万年生きるかもしれない。

カプセルの中から当座の水と食料、それから道具が入ったカバンを取り出し、肩からかけて、アイオーナは飛翔した。

ぐるりと年老いた木の周りを回る。太い幹に支えられた枝葉は、空中に確固たる領域を築いてすらいる―――空から降る光だけが、ちらちらとそこを抜けていけるという程の。

うろの一つでも、あればよかった……もちろん、アイオーナが入れるほどの大きさのものが。さすがに、リスやネズミの棲み処にお世話になるわけにはいかない。

そういう棲み処の一つらしい穴に近づいた時、蛇が一匹飛び出してきた。昼寝の邪魔をしてしまったらしい。威嚇をする蛇を一瞥して、アイオーナは上方へと離脱した。捕まえて頭を潰すのは難しくなかっただろう。焼いて食べてしまうこともできたろう。けれど、アイオーナはそんな気分にはなれなかった。

☆ ○ ☆ ○ ☆ ○ ☆ ○ ☆

あの木を回り、その周辺の森の上も飛び、しかし結局良い住まいも人も見つけることはできないまま、アイオーナはカプセルの所まで戻ってきていた。カバンに入っていた火打石のおかげで、なんとか焚火をすることだけはできた―――アイオーナとて、魔族である。魔法を使うことはできる。だが、火を起こすものは使えなかった。

命をもたせることだけに特化した糧食を、火で柔らかくしてかじり、水で流し込む。これが無くなるまでは後二日。その間に生活を確立しなくてはならない。

寂しい食事を終えて、アイオーナはカプセルに潜り込む。中に敷かれたクッションは、今の彼女に得られる最大の癒しかもしれなかった。

大きな翼で膝を抱きかかえ、目をつむる。心安らかに眠るために、彼女はひとつ想起をした。

かつての主、魔王クアン・マイサの思い出を。

☆ ○ ☆ ○ ☆ ○ ☆ ○ ☆

クアン・マイサは半人半蛇の女性であり、遠い世界―――アル=ゼヴィンとかいう名前だった―――からやってきたと言っていた。

かつて、まだ契約と信用が生きていた頃、彼女はこの地に現れて魔王業を始めた。新たに魔王になる者には、いくらかの設備と人材が与えられることになっていた。アイオーナは、その『魔王スターターキット』の一部だったのだ。

一応の営業事務所である四畳半の部屋に招かれたアイオーナは、初めのうちは戸惑うしかなかった。掃除をしようとすれば既に済んでおり、茶を汲もうとすればクアン自らが淹れにいき、食材調味料洗剤筆記用具その他は割といつでも必要なだけ揃っていた。クアンは勇者どもが来店する日にだけアイオーナを呼び戻し、そうでない時に声をかけても、その辺で空でも飛んできたらいいと言うばかりであった。自分は役に立てていないのではないか。管理しきれなくなった時にでもクビにされるのではないか。そんな不安が頭をよぎった。

クビどころかむしろ部下の中では気に入られている方らしいとわかったのは、十五週目のエックスデーも近づいてきた頃だった。閉店日であるにも関わらず、クアンはアイオーナを部屋に招いたのだ。そこで、彼女は元々接客以外は全て自分だけでこなしていたことをアイオーナは知った。そうも人に頼りたがらない理由は教えてくれなかったが、彼女にも親友というやつ―――本人は否定していたが、アイオーナにはそうとしか思えなかった―――が一人いることも話してくれた。トトテティア・ミリヴェという名の雌狐で、底なしの大食らいで、丸っこく可愛らしく肥っているくせに妙に素早くて、馬鹿で生意気で、たまに邪魔っけなことすらあって、それでも何かと縁があるみたいで、何度も一緒に冒険をして……冷淡で無口なクアンをそこまで饒舌にするトトテティアとやらのことが、アイオーナは気になった。会ってみたい気もした。

それから程なくして、クアンはそのトトテティアを探しに出かけた―――目的を伝えられこそしなかったのだが、彼女がこの世界に来ているかもしれないと聞かされた時、いずれそうなると思った……いや、トトテティアのことがなくとも、いつかはそっと消えてしまう人なのだと、わかっていた。アイオーナの知人にもそういう人がいた。何となく不幸せそうで、しかしそれは気晴らしをした程度で晴れるようなものではなくて、気遣おうとしても受けつけなくて、ふと気づくともう居なくなっている。そんなことが、三回くらいあったのだ。

幸いにしてクアンは帰ってきた。スーパーデプスでの最後の商戦の最中に、アイオーナが保護していたソライロからなぜか吐き出されてきて。彼女はトトテティアを探しながらも指揮をとり、最後は城の崩壊とともに荒波の中に身を投じた。クアンが泳いでいった先には、この世のものではないような光の渦が現れた、ように見えた。

その時、アイオーナは城に備え付けられていた脱出用カプセルの中にいた。クアンがあの後どうなったのかは、今でもわからない。

☆ ○ ☆ ○ ☆ ○ ☆ ○ ☆

気づいた時には睡魔に捉われ、時が過ぎ去っていった。

穏やかな光がカプセルの窓から差し込み、アイオーナのまぶたを開く。夢は終わり、彼女はまた独りの世界に戻ってきた。

もう、クアン・マイサはこの世界にはいない。自分の力で生きていかなくてはならない。だけど、もしも……もしも、また会えるのだとしたら。

カプセルから出たアイオーナはいったん地面に降り立つと、翼を広げて飛び立った。

あの巨木を越え、高く高く。

☆ ○ ☆ ○ ☆ ○ ☆ ○ ☆

○勇者の記録

『ファントム《キウ》』(徳/冷気/護衛)

フルネーム『キウ・セッキ』。アル・ゼヴィン天地大戦にて活躍した戦士の一人。

寒冷な気候を特徴とする《第十八の島》で育ち、毛むくじゃらの巨象にまたがって人々を導いた人。身も心も巨(おお)きな男であったと伝えられる。

戦いでは斧を片手で扱い、もう片方で盾を持って前線に立った。魔王軍との戦いの最中、暴発した魔法によって引き起こされた雪崩に巻き込まれ、死亡したと伝えられる。

<試遊会 その2>

巨木の向こう、森を越えてアイオーナは飛翔した。

木々の領域はやがて終わり、眼下には草原が広がりだす。一陣の風が後ろから煽ってきて、アイオーナは高く上昇する―――鳥は、飛ぶものである。

視界のその端に染みを見つけた時、アイオーナの顔はかすかに歪んだ。

☆ ○ ☆ ○ ☆ ○ ☆ ○ ☆

その小鬼は奪い合うことしか知らずに生きてきた。彼が産まれた時、この地底世界には既に暴力の嵐が吹き荒れていた。

早々に親を失った彼は、すぐに盗みを覚えなくてはならなかった。戦いの最中不運にも崖から落ちて死んだ名も無き勇者から、刃が欠けた片手剣を―――彼も、それしか持っていなかったのだ―――奪ったのが始まりだった。強者からは逃げ、弱者はいたぶり尽くし、小狡く生きてきた。それが当たり前なのだと、捉えていた。

けれど、胸を後ろから刺し貫かれる痛みまでも、当然あって然るべきものだと思うことはできなかった。血は止まることなく流れ続け、思考はどんどんと鈍くなっていった。その中で、痛みと恐怖だけが今に至るまで残っている。

死にたくない。理由のない、しかし純粋な願いが、延々と反響を続ける。

まだ、死にたくない。まだ、まだ……

アイオーナ・リオーナは緑の野原を汚す血だまりの近くに降り立ち、倒れている小鬼を見つけた。

既に息はない。その背中には大きな矢が一本突き刺さっている。これが貫通し、致命傷を負わせたのだろう。

彼の手の中には、麻袋が一つ。だいぶ膨れている―――

ビューッ!!

「エッ!?」

アイオーナは、頬に鋭い熱を感じた。

言語が脳裏に浮かぶより先に、彼女は大地を蹴り、宙に飛びあがっていた―――今来たのは、もしや!

ビュッ!

また、なにかが飛来した―――それは明らかに、アイオーナ・リオーナを狙っている!

「もぅッ……!?」

間違いはなかった。高度を上げれば、狙い撃たれるだろう。アイオーナは低空飛行に切り替え、草の上を滑るように飛行した。森まで逃げ切れれば!

が、ヒュ! ヒュッ!! 一つ、二つ、次々と矢が迫る! それらはギリギリのところで、アイオーナの身体を傷つけずに逸れていく……しかしいつ当たるか、わかったものではない。

「クゥーッ!!」

アイオーナが木々の間にその身を放り込むのと、最後の一矢が彼女の脇腹に赤い筋を作ったのは、ほぼ同時だった。

静寂が戻った草原に、筋骨隆々とした大男―――読者の皆様の尺度で言えば、身の丈二メートルは軽く超えている、といったところだ―――が、のし、のしと現れた。

その手に構えた弓を背中に戻すと、大男は先ほどの小鬼の遺体から麻袋をつまみ上げて中身を確かめた。干し肉が詰まっている。よそ見をしている隙にかっさらわれた食糧を取り戻すことができ、大男は安堵した。

だが、このまま帰るというわけにはいかない。

魔族は、敵である。一人残らず討たねばならぬ。

☆ ○ ☆ ○ ☆ ○ ☆ ○ ☆

アイオーナは痛みをこらえて森の中を飛び、あの巨木まで戻ってきた。

脇腹から流れる血が、毛皮で覆われた太ももにしみ込んでいる。後は、顔もやられたらしい……垂れてきた滴を舐めると、鉄の味がした。脱出カプセルの中にあったカバンには医療器具もいくらか入っていたから、それで手当てをすることはできた。だが、軟膏を翼の先で取ろうとして、上手くいかなかった。震えてしまっているのだ。

彼女は、クアンと一緒にいた時よりも、ずっと臆病になってしまっていた。

「ハァッ……ハァ、ッ……」

呼吸を整えようとする。落ち着かなければ。あの矢を放った者が、恐らくはあの小鬼を射殺した者が、またやってくるかもしれない。そうなった時、自分の身を守れるのは自分しかいない。

ふと、ざわめきが聞こえだした。

葉がこすれ合う音か。そうでもある。獣たちが騒いでいるのか。そんな気もする。

また敵が来るのか。きっとそうだ。

「ハァ、ハァ……」

大木の幹にその身を押しつけるようにしながら、アイオーナは傷口に薬を塗っていく。

ざわめきが、大きくなる。急いで終わらせて、どこかへ飛んでいかなくては。どこか遠い所へ。

草が音を立てる。木が震える。風が渦巻く。

何かが、来る。何十、何百という意志が、まさにこの巨木を目指して迫ってきている。

アイオーナの神経は、興奮の度合いを際限なく強められていた。心臓の鼓動は、めまいがするほど速くなる。呼吸の制御もいよいよ怪しくなりだした。

ざわめき、恐怖―――すべてが極大に達したとき―――

ビァーッ!!

轟音と共に、天が、ずたずたに張り裂けた―――そうとしか言いようのない事象が、アイオーナの感覚器官に叩きつけられた。

真っ赤な裂け目が広がり、巨木を、森を覆っていく。

中からは透き通った、黒い手が延びて、あらゆるものに触れていく―――触られたものは、『変化』をした。木々は腫瘍のようなこぶから歪な枝を生やしまくり、森を迷路に変えた。鼠は首筋を刺し貫けるように、牙を長く伸ばした。狼や熊は目を紅く光らせ、吼えながら後ろ脚で立ち上がった。亡霊たちは、現世に干渉するための実体を得た。

あの巨木も、そこら中を撫でまわされ、けたたましい音を立てながら身をよじらせている。

気がつけば宙にいたアイオーナは、首筋に熱を感じた。焼けた石を押し当てられたかのような熱さだった。

小さく悲鳴を上げながら、横を見る。そこにはあの手があった。首に、触れている。

手は、アイオーナに『変化』をさせることはなかった……代わりに、言語中枢にメッセージを焼きつけた。

―――逃げてはならぬ。戦え。迎え撃て。

「戦え、って……!」

言葉を理解したアイオーナは、森の向こうを見た。

いや、見ずとも、わかる―――害をなそうという思惟が、いくつも、接近している!

アイオーナは、今や異形のものへと変化しつつある巨木の枝に降り立った。そこには、翼を生やした蛇が絡みついていた……よく見れば、昨日見かけたが仕留めないでおいた蛇だった。アイオーナを一瞥し、彼は宙へと飛び立った。

さらに下を見ると、『変化』させられた獣たちが巨木の周りに展開している。ある者はそこらの樹の枝をへし折り、またある者は岩を担ぎあげ、得物としていた。アイオーナは熊の一頭と目が合ったが、敵意を向けられることはなかった。

裂け目の向こうには、いくつもの影が見える。それらは城のようにも見える。城が、連なっている。

そこへ、ガサッ!

巨木の前方の森から、弓を背負った大男が現れた。右手には斧を構えている!

後方からも、なにかが続いているらしい。もう、やるしか、なかった。

「……戦ってください! 迎え撃ってください!!」

アイオーナは叫んだ。応えるように、獣たちが、亡霊たちが、動き出した。


やがて戦いの末に、勇者たちは去っていった。

☆ ○ ☆ ○ ☆ ○ ☆ ○ ☆

夜がきた。

あの手に『変化』させられて生まれた魔物たちは、そのまま巨木の中に引っ込んだ。不安そうに見つめてくる者もいれば、既に寝こけている者もいる。元々はただの動物でしかなかった者たちも、アイオーナと同じだけの知性を得たらしかった―――彼女がカバンに入っていた物資を彼らに配ると、正しい使い方で消費してみせた。

一休みしたら皆で水と食べ物を探しに行かなくてはならないだろう。

アイオーナが巨木の枝に座っていると、ひんやりとしたものが腕に触れるのを感じた。見れば、先ほどの翼を得た蛇だった。

「戻ってきてくれたのね、よかった」

蛇の眼は薄暗い中でもほんのりと光っており、アイオーナに話ができるような感覚を与えた。

「また、あの連中がここを攻めてくるのかしら」

うつむきがちに言いながら、漆黒の塊に変じた森を見やる。煙の一つも立ってはおらず、あくまで静かだ。

蛇はじっと見つめてくる。別に噛みつこうとしているのではないらしいと分かったアイオーナは、言葉を続けた。

「大切に思ってる人がいるの。今はもう、この世界には居ないけど……その人に会うまでは、私……生きて、生き抜いてみせるわ」

話し終えると、蛇はゆっくりとアイオーナから離れ、木のうろの中へと消えた。

生き抜いてみせる。その言葉が聞けただけで、十分だったのかもしれなかった。


夜は更けていく。

<試遊会 その3>

アイオーナたちは野に出て、食糧と、まだ使えそうな道具類をかき集めた。水場を見つけ、根菜や果物を見つけ……後は、やや歪んではいるが鍋が手に入った。

大樹の前に戻ってきたアイオーナは草と枝とを集めて火を起こし、鍋を温める。

脱出カプセルにあったナイフで野菜の皮をむき、小さく切って投入する。塩気も何もない煮物になるが、そのままかじるよりかはいい。

頃合いを見て、これまたカプセルからの持ち出し品である軽い金属のお椀によそい、配下の者たちに渡していく。自分の分は、もちろん最後である。

他の女の子たちと同じように、将来はどこかへ嫁いでこういうことを毎日やっていくのだろうと、アイオーナも思っていた。かつては。

☆ ○ ☆ ○ ☆ ○ ☆ ○ ☆

あの裂けた空の下で、アイオーナとその配下たちは大勢の勇者を相手取った。

到底さばききれないと思ったものだが、実際には他にも多くの魔族たちが周りにおり、敵は自然と散らばっていったのだった―――彼らは、これまたたくさんの魔王たちにそれぞれ率いられた者たちなのだということを、戦いが終わった後でアイオーナは知った。

ようやく確保した自分の分の煮物を一口味わってから、アイオーナは天を仰いだ。

赫々たる朝日が浮かび、白く青く空は広がっている―――偽物の太陽、紛い物の空ではある。けれどそうであるなりに確かなリズムでもって変化しているものでもあった。だが昨日あんなものを見せられてしまってからは、それも疑わしく思える。

また……そう、今にも引き裂かれて、血の海を描き出すんじゃないか―――

ふと、何も纏っていない右肩がひんやりとした。そちらを向くと、あの翼の生えた蛇がとまっている。

「ああ、おはよう。ごめんね、蛙でも獲ってこれたらよかったけど……」

言ってみたが、餌をもらいに来たわけでもないらしい。アイオーナを一瞥すると、蛇はそのまま飛び去っていってしまった。

昨日の夜から何かと気にかけてくれているような気もする。クアンが見守っているようだ、と一瞬思ったが、流石にそんなことはあるまい。

☆ ○ ☆ ○ ☆ ○ ☆ ○ ☆

どうせ再び勇者たちはやってくるのだろうと、アイオーナは思っていた。

今回は、十分な準備をして迎え撃つ。拙いながらも作戦は立てた。誰がどこに立つかは決めてあるし、戦い慣れていない者なら騙せる程度の罠も張った。味方の得物は相変わらず太い枝や岩しかないが、こればかりは仕方がない。

戦いが始まれば、きっと全員が無事ではいられないのだろう。それでもできる限り良い結果を出すのが、アイオーナの務めである―――リーダーは、彼女だ。

ふと、木々の先からくるざわめきに気づく。

悪意が、迫る……『変化』させられた鳥の一羽が飛んできて、危急を告げた。

「また、殺しにくるのね……」

なぜこんな世の中になってしまったのだろうと、アイオーナは思うこともあった。

経済を失えば、暴力しかないのか。優しさや労りは、張り巡らされた契約の下でしか、発動しないものなのか……

気づけば、また冷ややかな触感があって―――あの蛇が傍らにいる。

鎌首をもたげて見据える先は、森の向こうだった。

嘆きも祈りも、今は役には立たない。生き延びるために戦わなくてはならない。

「……皆さん! いつ来てもおかしくありません! 迎撃態勢を!」

そう言って、翼を振り上げる。獣たちが、霊たちが、一斉に動き出す。

こうして、アイオーナ・リアーナは魔王となった。


【続く】