2014年11月のメッセージ

中小企業が素敵!

最近、銀行の方々と付き合う機会が増えました。初めての人にお会いすると、「半沢直樹」や「花咲舞が黙ってない」、「株価暴落」など池井戸潤さんのテレビドラマや銀 行小説について、尋ねてみます。「ドラマの通りですよ」「小説の通りですよ」という答えがほとんどです。「あんなことは小説の中だけですよ」と言われた人 は、これまでのところおられません。もし本当なら銀行員さんは本当に、精神的に厳しい仕事をしておられるということですね。あんなに過酷なら、銀行員の給 料は高くていいと思います。最新作「銀翼のイカロス」はこれまでの半沢直樹シリーズとは異なり実際にあった事件をモデルにしている点で、むしろ「空飛ぶタイヤ」や「下町ロケット」風です。それもマスコミが大きく騒いだ生々しい事件を複数絡めてドラマ展開しているのが、エンタテイメントとして面白い。山崎豊子さんと同じ手法でしょうか。

そう言えば、私たちが12年前に創業した中小企業で製造業の「ナノフォトン」にも、池井戸潤さんの小説そっくりの事件が起きました。4年前に同業者に特許侵害で訴えられ、とても厳しい状況が続きました。裁判は長引き、技術系社員の時間的負担や裁判費用に苦しみました。相手はそれが狙いだと分かりましたが、どうしようもありません。独創性だけが自慢の我が社を特許侵害で訴えるとは心外(だじゃれ!?)ですが、会社の信用は落ち、営業にも支障を来たしました。

私たちは昨年8月にその特許侵害裁判に地裁で勝訴し、今年9月に高裁でさらに勝訴しました。10月末までに最高裁への上告がなかったので、これで確定です。3度の勝利です。それでも私たちが逆に訴えることはしません。

「倍返し?」

いいえ、私たちは裁判所で争うのではなく、市場で製品でもって競いたいと思います。そうはいってみても、性能重視の我が社は価格競争はできません。ルーズベルトゲームじゃあないけれど、中小企業は大海の小舟です。

ソニーの会長(当時)の盛田昭夫さんは、ソニーがグローバル企業になった後も、特 許で金儲けをする欧米の企業文化を厳しく非難していました。最近は、日本の科学界では論文数や論文引用数を、日本の産業界では特許数を話題にすることが多 いのですが、論文数が科学が進歩させることはなく、特許数で新製品が増えて売上が増えることはありません。顧客が求める製品を提供することが製造業の役割 であり喜びであるはずです。特許ゲームは顧客にプラスにはなりません。盛田さんはその他にも、「株主のための企業か従業員のための企業か」といったことに も踏み込んで議論をし、行きすぎた欧米文化をたしなめておられます(「Made in Japan」第5章「アメリカ式と日本式、その相違」、日本語版は1990年刊、朝日新聞社)。盛田イズムの影響を一番強く受けているのは、アップル創業者のスティーブ・ジョブズです。ナノフォトン社も盛田さんの言葉通りに、社員の給料を現在の大企業並みから、さらに高くすることを目指しています。

ナ ノフォトン社はベンチャー企業ではありません。大学発の中小企業です。社員を守り、会社を潰しません。中小企業は大企業の下請けであり、大企業に虐められ て、社員の給料も大企業よりも安いと言うイメージがあります。しかし、中小企業のナノフォトン社は大企業の下請けではありません。顧客に、直接製品を販売 します。日本の大企業は最近こぞって、「B to C」(個別の顧客への商売)から「B to B」(企業間ビジネス)へ事業モデルを転換しようとしています。私の定義では、「B to B」は下請け商売であり限られた会社とだけ交渉する危険な商法です。日本の中小企業が大企業に虐められていた構図は、この「B to B」に頼りすぎていたからではないでしょうか。両方の組み合わせが必要です。「B to C」で成功してきた大企業がいまさら「アップルの下請けになりたい」と願う発想は、経営者としてはバカだと思います。バカなことは大企業に任せて、中小企業はむしろ大勢の顧客を相手にする「B to C」ビジネスに転換するべきだと思います。それこそがアップルというかつての中小企業が目指してきた道であり、パナソニックやソニーなど戦後に成功を遂げた企業のビジネスモデルだったはずです。今成功しているアマゾンもユニクロも楽天も、消費者を相手に「B to C」ビジネスで成功しています。

「大きいことはいいことだ」と、山本直純さんがコマーシャルで歌っておられたことを思いだします。高度成長時代のことです。しかし、大きい会社もかつては中小企業から始まったのです。

中小企業、素敵じゃあないですか。

註:ナノフォトンのプレスレリース:2010年12月2014年9月2014年11月

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