2010年8月のメッセージ

行方不明

100歳を超える高齢者が77人も行方不明なんだそうです。マスコミが騒いで、ちょっとしたニュースになっています。

でも、これって何を伝えたいニュースなんでしょうか。100歳を超える高齢者の行方不明者が77人!?では90歳代の行方不明者は何人なのでしょう?50歳代は?20歳代は?77人は多いのか少ないのかよく分かりません。

警察庁によれば、年間に捜査願いを受理した家出人の人数は8万人以上だそうです。捜査願いは出ていないけれども家族から連絡の取れない人はこの何倍も多いことでしょう。今回の77人もまた、捜査願いが出ていない人達です。さすがに100歳を超えると、ご家族も既に亡くなられておられるかもしれません。でも、行方不明者は100歳以上だけに限らないはずです。

都会では、いまや隣に住む人のことを知らないことなど当たり前。大企業はリストラを進め新卒の就職率は低下し、町にはホームレスが溢れ、フリーターやニートなどのいわゆる自由人(?)は急増しています。この社会現象を忘れたかのように、100歳を超える高齢者だけが行方不明のように取り上げるマスコミとは、無知なのか何らかの意図があるのかよく分かりません。

行方不明は人に限りません。駅や警察には毎日、持ち主の分からない・落とし主の現れない忘れ物・落とし物の山が集まるそうです。ニッポンはヒトとモノが溢れているのです。

私は、「忘れ物・落とし物の天才」です。中学高校の頃、私は電車通学していました。体育のある日はかばんに加えて体操服袋を持って行きます。雨が降ると、さらに傘を持ちます。その3つを持っていることを私が忘れず電車を降りることは非常に大変なことで、体操服と傘だけをもって学校へ行き、かばんを電車に忘れたことに後で気づいたことが何度かあります。つい昨年にも、ワシントンの会議に出張するのに書類とパソコンを入れたビジネスバッグと着替えなどを入れたカート(英語でTrolly Case)を持って空港に行ったつもりが、ビジネスバッグしか持っていなくてTorollyを家に取りに戻り、フライトに乗り遅れました。

ということで、私が常に心がけているのはふたつの荷物を持たないこと、すなわち「かばんひとつ主義」です。すべての書類やグッズをひとつのかばんに詰めます。行き先に応じて中身を入れ替えるとまた忘れ物をするので、いつも全部詰め込んであります。阪大に行くときも理研に行くときも講演に行くときも、いつも同じかばんに同じ中身です。海外出張など何泊かするときにはさすがにひとつのかばんでは済まないのですが、それでもビジネスバッグをTrollyの中に入れて移動します。

飛行機や電車の中では、Tumiの黒いかばんを持っている人をやたら多く見かけます。出張のみならず日常の通勤でもTumiはよく使われています。あまりにたくさんの人が同じくTumiを持っているので、他人のかばんと間違えないかなと心配になります。ポケットが多くて、軽くて強くて黒くて地味なので、ビジネスマンに人気があるのでしょう。

私は、Hartmann社の

革のかばんを20年以上使い続けています。このかばんはとても強いのですが、革製で重いので、一度だけ浮気をしてTumiを使ったことがあります。でも、しばらく使っているうちに、本体の持ち手を繋いである部分が引きちぎれてしまいました。Tumiのかばんは、米国の防弾チョッキと同じ素材を使っているので、ものすごく強いはずです。私の荷物がそれ以上に、異常に重かったと言うことです。Hartmannの革のかばんの持ち手も、2度ちぎれました。Hartmannは日本橋三越にブティックがあり、どんな破損でも修理をしてくれます [1] 。修理をしてくれると言うことは、新しいかばんになかなか買い換えられないと言うことです。ひとつ目の写真は右から20年以上前に手にいれたHartmannのアタッシュケース、もちろん今も使えます。真ん中は、今も使っているHartmannのビジネスケース。何年使っているか分からないぐらい長く愛用しています。使えば使うほど味わいが出てきます。左はイタリアのミラノで衝動買いしたPiquadroの、やはり革のかばん。当時早くにラップトップ・パソコン用のインナーケースがあったので買ったのですが、Hartmannよりさらに重くて、毎日持ち歩くのは大変でした。というわけで、やっぱりHartmannに戻りました。

ふたつ目の写真の右は、ラップトップ・パソコン用にショックアブソーブ付のHartmannです。もう数年以上使っていますが、まだ修理知らずです。写真の左は、海外出張するときキャリーインで機内に持ち込むTrollyです。これ

もHartmannの年期物(布製)ですが、これまで全く破損等のトラブルはありません。

私は、これらの重いHartmannのかばんに沢山の書類と本や雑誌、ラップトップコンピュータと電源、各種ケーブル、iPod、パームコンピュータ、電子辞書、携帯電話等を詰め込んで、東京・大阪そして世界を運び続けてきました。書類の中でも、会議資料や学生のレポート、審査を頼まれた競争的資金や賞の応募書類の山は特に重くて大変です。

そのせいかどうか、ここ2年ほど肩が上がりにくくなってしまい、これはひょっとしたら40肩あるいは50肩というのではないか(その通り!)の状態に陥っていました。かばんを飛行機の座席の上のキャビネットに入れようとすると肩がぎくっときて、CAに助けてもらう惨めさです。

さて、ここからが今月のメッセージの本論です。

先日、新しいかばんを買いました。写真の真ん中のoffermannです。Hartmannがアメリカのかばんやさんで茶色のアタッシュケースや旅行かばんの老舗であるのに対して、Offermannはドイツのかばんやさんの老舗で、黒い革のドクターズバッグで有名です。このかばんは、とても薄くて軽いかばんです。見ての通り、書類はあまり入りません。

私のかばんには、もう書類が要らなくなったのです。Offermannに入っているのはiPadだけです。審査書類も会議資料も単行本も新聞も雑誌も、すべてがiPadひとつに入ったのです!!!!

iPadはネットコンピュータなんかではありません。「かばん」なんです。これまでもかばんにはコンピュータが入っていたので、iPadにもコンピュータの機能は付いていますが [2] 、iPadは単なるネットコンピュータなんて機械ではないんです。iPadは、私の「電子かばん」なんです。もっと言うなら、かばんの中身どころか私のオフィスにあるすべての書類と本と雑誌と写真集(それはオフィスにはありませんが)と、ついでに大学の図書館がすべてこのiPadに入ったのです。歩く「電子オフィス」です。これらのコンテンツは、iPadを使ってネット上で見たり、あるいはネット経由でダウンロードしシンクロします。お分かりですか?ネットの先の私のかばんあるいはオフィスは、本当はクラウドの中にあるのです。

私はDropboxというクラウドサーバーにすべての書類をいれており、かばんにいれる書類、たとえば訪問先の地図や会議の資料、移動中に読む学生のレポートなどをはじめ、教授室のキャビネットに秘書が整理してくれる過去とのさまざまな書類と将来するべき仕事の準備資料のすべて、そして、自分の書いた論文や本のすべてが入っています。大学と研究所と自宅のそれぞれのMacとMacBookAirの中身(コンテンツ)はそれぞれDropboxだけしかなく、どのMacで書き直しても書き足しても同期して同じ内容になります。もう、ノートパソコンを落としても壊しても失っても、心配ありません [3] 。Dropboxは東京と大阪の秘書とも共有しているので、秘書も私の仕事の整理をしてくれます。複数人でこれを管理していると、ファイルを間違って捨てたり書き直してしまったりという人為なミスが起こりえますが、すばらしいことにDropboxは過去のファイルと記録が保存してくれているので、いつでも復活させることができます [4] 。

はたして、書類も手帳も携帯 [3] も、もう私から行方不明になることはなくなりました。忘れたいこともたくさんあるのに、、、、。SK

[1] 残念なことに最近、日本橋三越からHartmannのコーナーがなくなったので、今後は破損したときが心配です。

[2] これはまだ未完成と言わざるを得ません。KeynoteもPagesもMac版との互換性が不足していて、これらのソフトのみならずDropboxもGoodReaderもiPadへのファイルの保存が面倒です。

[3] iPadやiPhoneは、行方不明になったときに、MobileMeを使えば、GPS機能で外からその場所を見つけることが出来ます。また、内容を消したり、メッセージを画面に出したりすることも出来ます。だから、iPadは(iPhoneも)行方不明になることはないのです。

[4] ただし、90日以内です。MacのiDiskもDropboxと同じ目的のサーバーですが、このバックアップ機能が無く、なぜかシンクロが非常に遅いので、Dropboxが圧倒的に優れていると言わざるを得ません。

追記:ちなみに、iPhoneも携帯電話ではありません。手帳、電子辞書、音楽プレーヤー、ボイスレコーダー、ネットブラウザー、メール、ゲーム、カレンダー、地図など、どんどん出てくるアプリをしまう電子小箱なんです。携帯電話はそのひとつの機能にしか過ぎません。これまでポケットに入っていたたくさんのグッズがこれひとつになったのです。iPadはかばんiPhoneはポケットだと思えばいいでしょう。そこに使う人が好きな物を好きなだけ入れられるのです。

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