2008年7月のメッセージ

「ねじれる」

いま、日本の政治は「ねじれ国会」で大騒ぎです。自民党のガソリン暫定税法案が参議院で否決されても、衆議院で再可決されます。これなら参議院は要らないなんて言う意見まで出てきます。

でも、「ねじれる」ってなかなかいいことだと思います。衆院と参院が、微妙なバランスで互いに意見を擦り合わせたり、合わせられなかったり。緊張感があっていいんじゃあないですか。アメリカでも、大統領は共和党なのに議会は民主党が多数で、久しくねじれています。もっとも、アメリカでは議会が要らないなんて議論にはなりませんがね。次の大統領線選に向けても、オバマさんとヒラリーとマケインさんなど色んな人が、いま複雑にねじれあっています。 人のネットワークは、ねじれているほど強いものです。6カ国協議だとかG8や国連の中で日本人に弱さが目立つのは、ねじれを理解できないからじゃないでしょうか。国会がねじれたからこそ、官僚の税金の無駄使いや、ガソリンの暫定税が30年以上続いてきたことや、75歳以上の後期高齢者を分離しようとしていることなど、いろいろな問題が継続的に議論されるようになりました。

ねじれに慣れない日本人には大変ですが、ねじれは人や組織を強くするものだと割り切りましょう。一本の糸だと、どこかで切れてしまえば終わりです。2本3本がねじれているから大丈夫なんです。木綿も絹も紙もカーボンファイバーも沢山の糸がねじれてもつれているから、バラバラにならず強い素材として使えるのです。

生物も、その中はねじれからできあがっています。筋肉・コラーゲンはしっかりねじれていますし、脳の神経細胞も複雑にネットワークを形成しています。だからこそ、私達は怪我をしても物忘れをしても、したたかに生きているのです。およそこの世の生態系はすべて、複雑にねじれています。その代表的なものはDNAでしょう。二重にもつれて螺旋構造を取ることは、よく知られるところです。その二重螺旋はさらにねじれて染色体を作ります。受精だって、両親の遺伝子のねじれです。

大いにねじれましょう。自民党と民主党も、大いにもつれてねじれてください。一党独裁・大政翼賛会の国は、本当は強くはありません。ドイツも日本もイタリアも、戦争に負けたでしょう。ロシアも東ドイツも、崩壊したでしょう。ねじれとは、自然な生態系です。いま北朝鮮は中国とアメリカと拗れています。日本も是非、その中でねじれてみましょう。

私にとってサイエンスとは、相互作用を理解することだと思っています。物理学もバイオサイエンスも化学も、相互作用のないものはサイエンスではないと言ってもいいでしょう。人文科学も、相互作用を理解することだと思います。相互作用とは、異なるもの同士がねじれることを指します。数理科学もねじれの科学と言っていいでしょう。複雑に絡み合わなければ、単なる算術です。ねじれは全てのサイエンスと人の営みと生態系の基本です。私には、ねじれを科学しねじれを解くことが楽しいのです。専門のフォトンとナノマテリアルの相互作用の科学研究だけではなく、市民や産業界と大学のねじれや、都市と地方、自然と文明、これらのねじれの中に生きることが好きです。

てなことを考えていたら、きのう腰を捻りました。いわゆるぎっくり腰というか、捻挫です。腰の筋肉がねじれたようです。もっともっと日頃からWiiFitで腰の筋肉をねじっておくべきでした。座れないし立てない、、、、、ねじれ国会など人の心配をしている場合ではありませんでした。今月のメッセージは、長く座っていると腰が痛いので、短めです。SK

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