2012年8月のメッセージ

ぼくが新幹線に乗らないわけ

私の属する機関の一つは、東京大阪を飛行機で移動することを原則認めません。特別の理由があるときは認められますが、領収書に加えて搭乗券の提出が求められます。新幹線ならば領収書や切符は提出しなくていいんです。どうして新幹線には領収書や搭乗券が要らなくて、飛行機には必要なんでしょうか。

飛行機の料金が一定でないからです。割引価格では朝の便と昼の便で料金が違うし、連休や夏休みと閑散期などで料金が異なります。一度予約をするとフライトを変更できない切符やキャンセルしても料金が戻らない切符、往復切符など、さまざまな割引があります。JALは運賃に千円を足すとJクラスという入り口近くのほんの少しだけ広い席に座れます。ANAは千円出さなくても前方に座れます。最近ではLLC(Low Cost Carrier)がサービスを始めたので、価格とサービス競争はますます激しくなりそうです。同じ飛行機会社でも、羽田から伊丹へ飛ぶのと関空や神戸空港へ飛ぶのとでは料金が異なります。正規料金は同じですが、誰も正規料金では乗りません。ただし降りてからは不便で、地上の交通費と時間が掛かります。同じ航空会社を使って何回も飛ぶとフリークエントフライヤーと呼ばれるステイタスが得られます。そうすると、ネットが使えて新聞があってビールやコーヒーが無料でも飲めるラウンジで、飛行機が来るまでの時間を待つことができます。ダイアモンドメンバーになれば、X線検査も並ばず通ることができます。

一方、日本の新幹線は料金は一律です。飛行機の細やかな価格設定やヨーロッパの鉄道のキャンペーン料金のような多様性はありません。先に述べたような新聞やWi-Fiやコーヒーが無料のラウンジは、新幹線の駅にはありません。飛行機ならエコノミーにも全ての座席にある機内誌がありません。グリーン車だけにある車内誌、Wedgeは一般客には有料です(JR東日本の新幹線なら無料)。飛行機の機内では当たり前の無料のコーヒーやジュースの車内サービスも、全て有料です。しかも街で買うより缶ビールも缶ジュースも一律に高いのです!その代わりに(?)、飛行機の機内にはない「検札」があります。飛行機と同様に座席指定なのに、新幹線は乗客を信用していないのです。我々が不正乗車しているかどうかを調べに来ます。だから、検札に来る車掌さんは警察官か兵隊のような格好をしています。飛行機のキャビンアテンダント(昔の言葉でスチュワーデス)のユニフォームとは全く印象が異なります。飛行機のチェックイン・カウンターでは、グランドホステスが立って乗客を迎えてくれます。新幹線の切符売り場では、私達は立っているけれど彼等は横を向いて座っています。

新幹線では席の予約がなければ自由席車両が到着する位置に並んで、列車が来ると席の取り合いをします。飛行機ではカウンターで整理券が渡されてその順に席が決まりますので、並んだり席の取り合いをすることはありません。

東京と大阪を走る新幹線は、JR東海という会社が運行しています。この会社は他のJRと異なり地方路線が圧倒的に少なく、加えてドル箱の東海道新幹線の売上げがあるので、大変儲かります。新聞によれば、今年4ー6月期の売上高は前期比3%増の1兆5520億円、純利益は30%増の1730億円だっただそうです。過去最高益です。元気のない昨今の日本の経済で、例外的に儲かる企業なんです。

ですが、私は気に入らない。

料金が世界の鉄道と比較して高すぎるからです。飛行機と比べても、割引切符の割引率は本当に少ない。満員の自由席車両で立ったまま帰っても半額にはなりません。「こだま」で4時間50分掛けて帰っても半額にはなりません。坊主丸儲けとはこのことです。そんなに儲かっているなら料金を下げればいいのに、決してこの会社は料金を下げることはしません。どうしてでしょう?

それは競争相手がいないからです。JR西日本も近鉄も東京大阪間の鉄道ビジネスに参入することは認可されません。東京大阪の鉄道ビジネスを「完全独占」しているJR東海には、競争相手はないのです。だから、無駄で無礼なる検札を辞めることなど考えつきません。コーヒーのサービスもしません。値段も下げません。そんなに儲けてどうするの?

儲かりすぎると税金を払わなければなりません。料金を下げるのも嫌、税金を払うのも嫌、それなら無駄遣いをするしかありません。と言うわけで、リニア新幹線の自費建設という”超”無駄遣いを企みました。利益は顧客(乗客)と株主に還元するのが企業の基本です。しかしこの企業は値下げは一切せずに、天下りと土建屋にすべての利益を還元するのです。JR西日本やJR九州なども北陸新幹線や長崎新幹線を計画していますが、東京と大阪の間にはもうすでに新幹線はあります。儲かり過ぎるからといってもう一つ作る必要があるのでしょうか。

これからの日本はIT化が進み、地方分権が進み、何でも東京に行って霞ヶ関にお伺いを立てなくても良い時代が来なければなりません。それなのに、いまからアルプス山脈を掘り起こしてリニア新幹線を作る必要が本当にあるのでしょうか。東海道新幹線を複々線にする方が安上がりだし効率的かもしれません。しかし、何が何でもリニア新幹線なのです。

リニア新幹線などなくてもいいです。その工事を辞めて利潤は顧客に還元するべきです。乗車料金を下げて、飛行機なみのサービスをしませんか。もしリニア新幹線を作るのなら、今の新幹線は他社に譲りましょう。LLCに譲れば飛行機のLLCと同様に東京大阪は3千円にはなるでしょう。

料金が世界と比べて異常に高いビジネスはJR東海だけに限られることではありません。地域独占をしている企業の共通の問題です。独占禁止法があり公正取引委員会があるのに、なぜ日本は公共サービスにだけは地域独占を許し、高い料金を認めるのでしょうか。東京電力や関西電力が原発トラブルを口実に電気料金を上げたり、JH何とかという高速道路会社が世界に例を見ない”超”ウルトラ病的高価格の高速道路料金を課して(ほとんどの国では無料)、やりたい放題をするのも、地域独占によって競争が認められないからでしょう。JR、JH、JP、JAなど「J」が頭につく会社は要注意です。電信電話は、ソフトバンクやKDDIの参入を認めたお陰で、地域独占だった「NTT何とか日本」もサービス向上と電話料金値下げを続けています。

東京と大阪の往復に私は新幹線をほとんど使いません。羽田ー伊丹は夜7時20分発が最終便なので、いつも乗り遅れそうになります。それでも、飛行機を使います。私はスケジュール変更を頻繁にしますので、新幹線よりもだいぶ高い切符を買います。差額は自己負担になります。それでも、私は新幹線には乗らないのです。

顧客(乗客)と株主に利益を還元することが、会社という法人の社会における存在意義であり企業モラルであろうと思います。

追記:今月はかなりレスポンスがありました。JR東日本の新幹線は検札に来ない、大阪は飛行機に乗れるけど私のところはJR東海しかチョイスがない、鉄道は大好き、など色々。

そうこうしているうちに、またJR東海の横暴を経験しました。新幹線新大阪駅に外国人を迎えに行ったところ、これまでの中央出口が南出口に名前が変わっているのです。この出口は駅の正面にあり駅前広場に面しています。これは、困った、外国人との待ち合わせはCentral Exitと言ってしまった。そこで、出口にいる駅員さんに「外国人と中央出口で待ち合わせているのですが、どうしましょう」と尋ねたら、「こないだ出口の名前が変わりました」とのこと。「でも、まあ彼はここに出てきますよね?」「さあ?」「えっ?」「新しく別のところに中央出口ができましたから?」「なんでまた?」

新しい中央出口は、駅の端にありました。ほとんどの乗客は昔の中央出口(新しい南口)か在来線(JR西日本)との連絡出口に出ます。誰も使わない出口がなぜ中央出口なのか?

そこにはJR東海の駅長室があったのです。

中央出口の横にあるJR東海の案内所の方に「外国人とCentral Exitで待ち合わせているのですが、彼はどちらに出てくるでしょうか?」と尋ねたところ、「日本語の案内は中央出口、南出口と書いてますが、英語の案内はどちらもEXITです。だから、さあね、分かりません。」「どうして50年以上使っていた出口の名前を変えて、別のところに同じ名前を付けたりするのですか?」と尋ねると「出口や駅名を変えることは、JRではよくあることです」「、、、、、、、・」

追記の追記:このメッセージで文句を言った新大阪駅の構内での案内がついに、「Cental Exit」と「South Exit」と表記されるようになりました。これで外国人と待ち合わせができます。副駅長さんありがとう。10月30日の新聞で、JR東海の純利益が今期41%増、とのこと。乗客にこの純利益のほんの一部でも、値下げとサービス向上に還元しましょう。

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