2013年6月のメッセージ

選挙の話はタブー

参議院の選挙が近づいています。 学生や若手教員に選挙について尋ねてみました。でも皆さん口ごもって、あまり盛り上がりません。確かに今回は何とも気の入らない選挙です。ノダさんが自爆して民主党が崩壊し、ハシモトさんも自爆。タナボタで自民党が圧勝しそうなら、気が入らないのも当然です。衆議院のカーボンコピーと呼ばれる参議院の選挙ですから、なおさらのこと。

学園紛争の最中に青春を送ってしまった私達の世代は、いつもずるい大人に苛々し、年長の不甲斐なさに失望して生きてきました。朝日ジャーナルや岩波の世界を読み、岡林信康やジョンレノンを聴き、マルクス・エンゲルスを読んで、そんな社会風潮の時代から来た世代ですから、選挙には大いに盛り上がるのです。今回のような選挙は本当に困ります。

でも、若者が盛り上がらない理由はそんなところにあるのではなさそうです。 誰に投票するだとか、選挙や政治の話をすることを躊躇うのだそうです。政治の話をすると学校で叱られそう、後ろめたいことをしているようなムードです。学校で政治の話をしても良いというのは、私達が高校紛争で闘って勝ち取った最大の成果なのに[私の今月のメッセージで、2012年2月2012年12月に詳しく書いています]、その後見事に形骸化されてしまったようです。幼い頃から友達とまじで政治の話をしたことなどなかった、と皆が言います。選挙や政治の話はタブーなんです。日本の映画がますます「ほんわか」してきたのと無縁でないかもしれません。

この文化を作ったのは、文部省と日教組でしょう。自分の意見を主張しない、人と争い(言い争いも含めて)をしないという、事なかれ平和主義が没個性文化を生んだのです[1]。そんな風に育てられた若者に対して、「今の若者は・・・」と言って批判するのはとても狡い、あるいは無知な発言でしょう。英語を教えられてこなかった人に、「なぜおまえは英語を話せないのだ」と言うようなものです。努力することを教えられていない人に「努力をしないヤツはダメだ」というのも同じ。

そんな若者に文句を言うより、私は彼等に政治の話をする面白さを教えたいと思います。皆の未来にとってとても大切な日本の政治について語り合うことを唆したいと思います。 これはダサイことでもなく、面倒なことでもないのです。

というわけで、7月1日の月曜の夜6時半から、参議院議員の梅村聡さん(いまだ38歳。阪大医学部出身、内科医)と学生との緊急集会を企画しています。題して「選挙に行こう!参議院のここだけの話」。誰でも参加自由です。阪大吹田キャンパス近くの方は是非お集まり下さい。なぜ、選挙に行くの?なぜ参議院は要るの?なぜ二大政党なの?なぜ民主党は崩壊したの?なぜ日本の国は良くならないの?憲法は?慰安婦問題は?広島と長崎の原爆は必要だった?尖閣諸島は日本固有の領土?

ハシモトさんは二院制は要らないと言ったそうです。たしかに素人がそう思うのも分からないではありません。そう言いながらハシモトさんが参院選挙に立候補者を大勢用意しているのは支離滅裂ですが、参議院の役割を勉強したことのない人が二院は不要だと思うのは無理もありません。

日本だけでなくおよそ世界中の民主主義国家は、二院制をとっています。二院は一般には上院と下院と呼ばれており、参議院は上院です。イギリスの上院は貴族院(明治憲法の日本もそう)と呼ばれ、アメリカやフランス、イタリア、オーストラリアなどでは元老院と呼ばれます。公選で人口の比率に従って議員が選ばれる下院と異なり、上院はもともとは官選であり階級や地域の代表が選出されます。日本でも明治憲法下では貴族院と呼ばれ、皇族・貴族の他、学士会会員や多額納税者が選ばれていました。このような制度をもつ理由は、下院が多数決で持ってポピュリズムに走りすぎるのを、上院が止める役割を持つためです。共産党一党支配にはない制度です。だからこそ、参議院は良識の府と呼ばれます。ハシモトさんに分かるかなあ。

ところが、良識のない日本の政治家達は選挙制度を触りまくって、参議院を衆議院のカーボンコピーにしてしまいました。すなわち衆議院の政党政治を参議院に持ち込みました。これでは、衆議院のストッパーにはなれません。ねじれ現象と言う言葉まで生まれました。

政党政治とは、政党が投票者に媚びる政治です。衆議院では二大政党のどちらの政党に国を任せるかを決めます。政党は過半数の議席を獲得するために、多数の人のために金を使う政策をたくさん立てて、様々な助成金をばらまき、国債を発行して赤字を増やします。自民党になっても民主党になっても、これは変わりません。それを止めるのが参議院です。しかしながら、いまの参議院は衆議院と同じく政党政治ですから、まさに衆議院のカーボンコピー、ストッパー役にはならないのです。

参議院は政党ではなく「ひと」に投票をしましょう。衆議院と比較して参議院議員には比較的に知的な人が多いはずです。

今、日本の政治は「働かない人たち」に牛耳られています。60歳代、70歳代、80歳代の人たちの投票率は非常に高いものの、20歳代、30歳代の投票率は著しく低い。その結果、政治の方向はひたすら税金を納めず年金をもらう年寄りに優しい政治となり、若者は切り捨てられます。この状況を革命を起こさずに変えるにはどうすれば良いでしょう。

選挙に行くことです、若者よ、選挙に行こう。1人ずつバラバラに悩んだり諦めたりするのではなく、みんなで選挙に行こう。そうすれば一定の得票が集まるので、政治家も若者を無視しなくなることでしょう。選挙の話はタブーではないのです。

そんな会合を7月1日の夜6時半から阪大のフォトニクスセンターで開催します。打合せ無しのぶっつけ本番、大激論のパネル・ディスカッション、是非皆さん、お集まり下さい。

[1]正確に言うと、これは日本だけの話ではなく、アメリカやヨーロッパの先進国全体に蔓延している文化でもあります。一方、発展途上国の人は口角泡を飛ばして、政治の話、国の話を語ります。それだけ、国の未来がまだ見えないし、もっと良くできると言うことなのでしょう。先進国はいずれも老人の国、ラグナグと言うわけです。

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