2011年3月のメッセージ

ネットと携帯が世界を救う

私のせいかもしれない、、、。本来の意味とは違うけれども、口は禍の門、、、。

地震の6日前の『平成洪庵の会」で、私は予定されていたサイエンスライターの佐藤銀平さんの代わりに、話題提供をしました。佐藤さんは会には来られたのですが体調が優れなかったので、私がその時間を使ってお話をしました。タイトルは「入試中に地震、必携グッズは?」です。つい先日、ニュージーランドの地震で語学学校が倒壊して多くの日本人学生が亡くなられたことが、お話のきっかけでした。「入試中に地震、必携グッズは?」の、私の答えは「携帯電話を持て」でした。携帯電話を持っていれば、瓦礫の中から「ここにいるから助けに来て!」と連絡できるかもしれない。それがもしiPhoneなら、瓦礫の下からFind My iPhoneであなたを見つけてくれます。

入試中にだって、地震があるかもしれません。そのときに命を救うのは携帯電話です。私の主張は「入試中も肌身離さずiPhoneを持ちましょう!」です。この会の数日前に、京大入試で携帯電話を使ったカンニングがありました。朝日新聞は社説に次のような主張を載せました。

「今回のような不正を完全に防ぐには、携帯など電子機器の持ち込みそのものを禁じることだ。」

「厳密に実施するには受験生の持ち物検査だけでなく、ボディーチェックや金属探知機の設置も求められる。」

あほか、と思いました。朝日新聞の知性とはこの程度なんでしょうか。金属探知機とかボディーチェックですか?工場での部品検査のような今の入試制度には問題を感じることなく、発想は金属探知機やボディーチェックへと短絡しています。

ごきぶりが一匹見つかったら、百匹はいます。

本当の原因を取り除かない限りは、不正はなくなりません。ゴキブリならぬ、いたちごっこです。相撲の八百長と同じです。不正を取り締まろうとするのではなく、不正が起きる要因が今の入試制度にあることに気づくべきです。3月4日の日経新聞の社説は朝日新聞と全く異なり、正常です。

「新興国などの教育の仕組みは、中央が大号令をとどろかせる国家統制型だ。それは知識の増量と学力の底上げには役だっても、多様性や独創性を損ねる危うさを伴う。日本の教育の混迷も、そこに根ざしている。」

「地域や現場にゆだねて創意工夫を引き出すべきだ。」

文明の利器に危険性があるからと言って文明の利器を否定しては、人は進化しないのです。

自動車は、人身事故を起こします。でも自動車を使えば、急病人を緊急に病院に連れて行くことができます。人の命を救います。原子力発電所は、事故を起こします。でも石油を使わずにダムを造らずに大容量の電気を供給し、体力のない高齢者達に快適な生活を与えてくれ、手術場や治療器具に電力を与えてくれるます。携帯電話は日本の大学入試や様々な日常の試験においてカンニングを生み出します。しかし、携帯電話を持っていれば、地震の時に瓦礫の下から自分を見つけてくれてるのです。

ここまで「今月のメッセージ」を書いていて、掲載しようとした矢先に、東北地方に地震が起きました。津波が発生し、原子力発電所が事故を起こしました。町が津波に襲われて、生まれ育った町が町民と共に消えてしまった人たちに、家族を亡くされた人たちに、大怪我をされた方々に、適切なお見舞いやお悔やみの表現が見つかりません。今月のメッセージを掲載することに、何日も躊躇ってしまいました。

地震の後、携帯とネットは威力を発揮しました。

地震が発生したとき、私は九段下の学会事務局で会議中でした。すぐに会議を中座し、九段下の交差点でお客さんを乗せて走っているタクシーを止めて、相乗りさせていただきました。そのお客さんを錦糸町まで送り、そこから渋滞の中を羽田空港まで行きました。その間、携帯電話は全くつながらなかったのですが、iPhoneのテキストメッセージ(SMS)は時々つながりました。一番よく繫がったのは、e-mobileです。e-mobileからiPhoneにWIFIシグナルを送信してiPhoneでSkypeのChat、これが一番よく繫がりました。ホテルオークラに泊まっているアメリカ人の友人が、SkypeのChatで次々と情報を送ってくれました。彼とは前々日に夕食を一緒にして、前日には彼が表参道のブルーノートに招待してくれました(Tower of Powerのメンバーです)。まさかその翌日に地震があるとは、お互い、夢にも思わず。

文明の利器であるネットと携帯は、いま風評被害を生み出しています。以下は「科学者」がメールリスト(私はその構成員)を使って地震後すぐにばらまかれたメールの例です。

「昨日、日本医科大学(上野周辺)のRI実験室で、 室内の放射線量を測定するメータが振りきれているとの情報あり。 」

「原発1・3号機の故障危惧で、 高濃度のRIを扱う実験室で危険とされるレベルを、都内の大気は既に超えている」

「飛散する放射線種には、半減期の長い人工放射性物質も含まれる。 外部被ばくは遮蔽物によって防げるが、内部被ばくを起こせば、 特定の臓器・細胞に放射物質が付着・蓄積し、生涯、放射線を受け続ける。 先にはあるのは「がん」である。 また、生殖細胞に害が及べば、当人だけでなく、子孫が皆、影響を受けることになる。 」

「屋内では、極力、換気扇(ドラフト)やエアコンを停止し、窓を開けないようお願いします。また、屋外に出られる場合には、マスク等を着用されるなどの対応をお願いします。」

「今日、関東域で雨に当たった人は、念のためシャワーを浴びて下さい。もし今後、数 Sv/hを超えるようなもれが在れば、それは大事故発生で、殆どチェルノブイリ級です。」

「窓枠はガムテープで塞ぎ、換気も止める、雨には当たらない。「どうしても」の外出は帽子をかぶり濡れタオルでマスクして出かけ、家に帰る時は息を止めて良く埃を落としてから。」

以前に、WIKIや2チャンネルのような匿名サイトを批判したために私は匿名の人たちから攻撃を受けましたが、今回は匿名でなくて実名でも、ネットが風評被害を生み出しうることを知りました。これらのメールは科学者に送られたので受け取った側は冷静に判断できますが、もし一般の人たちにも送られたなら、ネットによって新たな物資不足やパニック、現地の人たちへの差別が生まれます。ネットや携帯は、朝日新聞の社説の言うように取り締まった方がいいのでしょうか。

私は、ネットと携帯は世界を救う、と思います。国家権力がネットを規制・妨害している国には、自由と民主化が生まれません。チュニジアやエジプトの民主化は、ネットと携帯が生み出したのです。SK

追記:それにしても朝日の知性には驚かされる。3月24日の社説の見出しは、「ヨウ素検出、赤ちゃんを守ろう」。社説の本文には、「旧ソ連のチェルノブイリ事故では、放射線ヨウ素で汚染された牛乳を飲み続けた汚染地域の小児のうち6千人以上が甲状腺がんになり、2005年までに15人が亡くなったとされる。同じ地域でも大人はがんの発生に目立った影響は見られなかった。こうした過去の貴重な知見に学びたい。」

このはしゃぎぶりをなんと言えばいいのでしょう。まるでカンさんそっくり。

それに対して、同日の日経新聞の社説の見出しは「水・食品への不安鎮める丁寧な説明を」。

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