顔身体学領域・東京外国語大学AA研共催第3回公開シンポジウム

『トランスカルチャー状況下における顔・身体学の構築』

  • 11月25日 第3回公開シンポジウムを開催しました(顔身体学領域と東京外国語大学AA研の共催)。
  • 日時:11月25日 14:00-18:30
  • 会場:東京外国語大学AA研303号室(東京都府中市)
  • 参加者:41名

本シンポジウムはAA研基幹研究「アジア・アフリカにおけるハザードに対する『在来知』の可能性の探究—人類学におけるミクロ‐マクロ系の連関2」との共催により開催され、本領域の文化人類学班(A01-P01通称「床呂班」)を中心に領域代表の山口真美教授(中央大学)をはじめとする各計画班・公募班のメンバーはもとより一般聴衆を含む多数の来場者が同シンポに参加した(全体の趣旨に関しては下記の「趣旨説明」を参照)。

同シンポは大きく分けて下記のプログラムの通り第一部(前半)と第二部(後半)に分けた構成で実施された。まず前半は床呂郁哉(AA研所員)による趣旨説明と領域代表の山口真美教授による挨拶に引き続いて、「顔・身体研究の諸相」と題して本領域の公募班に属する大貫菜穂(京都造形芸術大学)、宮永美知代(東京芸術大学)、橋彌和秀(九州大学)の計3人の研究者による報告が行われた。大貫は日本の伝統的な身体加工である刺青に関して歴史的に遡りながら検討を行った。宮永は日本と西洋の絵画芸術のなかで異邦人・外国人の顔や身体をどのように表象してきたのかをめぐる美術解剖学的視点からの報告を実施した。橋彌は進化心理学の視点から顔や視線の問題についてヒトの乳幼児はもちろんヒト以外の動物との比較の観点からの考察と報告を行った。またこれら各報告に関しては会場からの質疑応答も行われた。

後半は今回のシンポジウムの特別企画として「トランスカルチャー状況をめぐって」と題した特別のセッションを設けた。ここでは本領域の研究課題名にも含まれる「トランスカルチャー状況」をどう考えるのかという点をめぐって集中的に議論を行った。同セッションではまず佐藤知久(京都市立芸術大学芸術資源研究センター)を招いた特別講演「魂/機械/知性:トランスカルチャー状況とハイブリッド化をめぐる人類学的考察」があった。佐藤氏はまずトランスカルチャーという概念を学説史経緯に沿って文献資料も参照しつつ検証しながら、この概念を多文化主義、間文化主義などの類似の概念との共通性や差異に触れながら比較検討を行った。佐藤氏の論点は多岐に渡るが、とくに現代的なトランスカルチャー状況下では複数の文化がシステマティックに共存する可能性を具体例に即して指摘すると同時に、またそれが場合によってはディストピア的な状況にも繋がりうるなどの点にも注意を喚起した。さらに後半ではトランスカルチャー状況における身体や肉体の問題の重要性を指摘し、それを佐藤氏自身が深く関与するアートや現代芸術の領域における実践などとの関連で論じた。セッションでは、この講演に対して本領域計画班に属する河野哲也(立教大学) と金沢創(日本女子大学)の計2人の指定討論者によるコメントが行われ、さらにフロアにも開いて熱心な議論が行われた。なお本シンポの質疑応答を含む内容の詳細に関しては昨年までのシンポと同様にて冊子化を予定している。

第3回公開シンポジウム・プログラム

14:00–14:05 床呂郁哉(AA研所員)趣旨説明

14:05–14:10 山口真美(領域代表・中央大学)ご挨拶

第一部 顔・身体研究の諸相

14:10–14:40 大貫菜穂(京都造形芸術大学)「『かぶき』思想の身体表象としてのイレズミ」

14:40–15:10 宮永美知代(東京芸術大学)「異国人をどのように描いたのか?絵画からの美術解剖学的考察」

15:20–15:50 橋彌和秀(九州大学)「ウチとソトを分かつ顔・つなぐ顔:その進化と発達」

第二部 トランスカルチャー状況をめぐって

15:50–16:30 佐藤知久(京都市立芸術大学芸術資源研究センター)「魂/機械/知性:トランスカルチャー状況とハイブリッド化をめぐる人類学的考察」

16:40–16:55 河野哲也(立教大学) コメント1

16:55–17:10 金沢創(日本女子大学)コメント2

17:10–18:30 総合討議

【趣旨説明】

現在、インターネットなど電子メディアの発達によって、地域や国境を越えた文化的な流動や混淆のプロセスと深く関係する、いわゆるトランスカルチャー状況が顕著となっています。

この状況は、私たちの顔や身体をめぐる経験にも影響を及ぼしています。例えば、私たちは今や電子メディア等を通じて、これまでにない規模で、あらゆる/たくさんの顔(や身体)のイメージにさらされるようになっています。

その結果として、顔(や身体)に関する解釈や価値づけ、美意識等に関するグローバルな規模での標準化・画一化の圧力に晒されていると同時に、にもかかわらず(だからこそ)、他方ではイスラーム圏におけるベールによる顔の隠蔽などに代表されるように、ローカルな文化や個別のアイデンティティを強調するような動きも進行しています。

本シンポジウムでは、文化をめぐるグローバル/ローカルな次元が複雑に絡み合うトランスカルチャー状況下における顔と身体をめぐる経験や表象に注目して、それを文化人類学、心理学、哲学などを含む多様な視点から学際的に比較検討し、新たな視座を構築していくことを目指します。

とくに今回のシンポジウムでは「トランスカルチャー的状況とは何か」「文化の境界を超える力は何によって生じるのか」などの問いを、顔と身体というテーマに焦点を当てることを通じて検討していくことを目指します。

(by I. Tokoro, Tokyo University of Foreign Studies)