心の形成と個性・人格――相互理解のために

◇ 心の形成と個性・人格――相互理解のために

① 心は、欲求・感情・言語の三要素によって構成されている。

② 心は、言葉や行動(脈拍・発汗等生理的反応、表情を含む)にあらわれる。

③ 心は、内面を正確に観察することができず、外面で欺くことができる。

④ 心は、遺伝と環境によって形成され、知的自覚によって変容できる。

⑤ 心は、個人の行動様式を規定する個性や人格の本質である。

⑥ 心は、欲求や感情反応の強弱・敏鈍・粘淡等の遺伝的要素による個性をもち、

その個性は環境や教育の習得的要素(経験)によって拡大または縮小する。

 心がどのような構造と機能を持っているかがわかっても、その働きの仕方・様式は人によってそれぞれ異なり個性的です。個性は、生まれつき遺伝的に規定される生得的要素(素質・気質)と、生後の生育環境によって形成される習得的要素によって多様な反応・行動様式となります。また習得的要素では、幼少期の環境依存的・受動的形成と思春期以降の自律的・主体的自己形成によっても異なり、内向・外向、消極・積極など多様で特徴的な人格(価値観や判断・行動様式)をもつことになります。

 欲求について言えば、強さと弱さ(強弱)、敏感と鈍感(敏鈍)、粘着と淡白(粘淡)など個性的な反応様式は、内部知覚やホルモン調節、筋肉や臓器、神経系などの遺伝的要素に影響されます。言わば内的恒常性の維持・調節に関わる生化学的生理的反応様式の違いが、欲求についての心の個性(性格)として現れます。心の強い人弱い人、感じやすい人鈍い人、執念深くこだわる人潔く諦める人、愛想の良い人冷淡な人など、欲求の対象に対する反応は人それぞれで異なります。

 人格を形成する二次的欲求については、感情の反応様式が大きく関わり、快不快の強弱・敏鈍・粘淡や、言語による合理化などによって学習・習得され、対象に対する欲求(好み)の違い(好悪、肯定・否定など感情的要素)が、個性に反映されます。対人関係の中では、好き嫌いや会話の仕方などの社交性・指導性に個性があらわれ、運動や技芸の面でも得意・不得意の違いが目立つようになります。とくに、未来への夢や言語的目標を実現するために、欲求が意志的感情と結合すれば、目的を目指す「強い心(意志・信念)」を形成することができます。

 感情は欲求と深い結びつきがあり、欲求実現・充足の具体的選択と方向付けを行います。例えば、幼少時に音楽に関心を示し、保護者がそれを支持・援助することによって快感を得れば意志的感情を育て、生涯に音楽的才能を発揮することができます。また、宗教的雰囲気の中で育ち、肯定的感情を学習すれば宗教に親近感を持ちますが、逆に否定的な嫌悪感を抱いて学習すれば宗教嫌いになります。

 言語は欲求や感情を意味づけ(合理化)強化します。思春期には言語的思考による「心の吟味」が行われる場合が多く、欲求や感情自体をコントロールする言葉や知識を求めます。今までの親や社会のものの見方や考え方に疑問を持ち、確実な世界観や人生観を求め、自分の個性を実現できる主体的な生き方をしようとするのもこの時期です。

 心の三要素(欲求・感情・言語)は、成長の過程に於いて、相互に関係を持ちながら個性や人格を形成します。自分や他人の心の共通性を知ることができるようになれば、自分に自信がつき、意見の食い違いや対立への洞察がすすみ、もっと容易に問題の解決をもたらせるようになります。

 人の望むこと(何を望むか)、感じること(どのように感じるか)、そして知識(言葉)の内容とはたらきを知ることは、個性や人格の違いや限界を克服し相互理解を深める第一歩になります。人間の心の相対性(限界)の理解は、内向・外向、消極・積極、深層心理や潜在意識、魂や神などのつかみ所のない非科学的概念をこえて、人間理解と持続的幸福を容易に得る条件になります。


◇ 心が、欲望や感情に支配されたとき――さまざまな精神疾患

(1) 欲望の肥大化 : 自己顕示欲の露出、派手さ、社会的配慮の喪失、暴力攻撃、ヘイトスピーチ、いじめ

(2) 肯定的感情の支配 : 躁状態、一方的おしゃべり、自己愛、性的依存・倒錯

(3) 否定的感情の支配 : うつ状態、転換ヒステリー、被害妄想、一方的攻撃、恐怖症、強迫症等