新しい社会道徳とは

● 新しい社会道徳の基本理念(科学的道徳論)

――正しい認識、正しい判断、正しい行動・・・・。社会をよくする方法とは?

個人や家族・国家・社会の利益や幸福を実現するために、

生命・人類・人間社会の未来を考え正しい知識をもつことは、縁起的な前提となる。――

・ 人間本性の解明と道徳の再興は、科学的研究にもとづく

・ 人間の本性とは何か、どうすれば利己的本性を抑制・制御できるか。

・ 人間の文化的道徳的伝統を、人間本性にもとづき再構成する。

・ 現代社会の価値観や道徳の課題と民主的道徳の在り方をどう考えるか。

・ 新しい社会道徳は、人間本性と資本主義市場経済の限界を抑制し調整するところに実現する。

古典的社会契約と新しい創造的社会契約 とは

1 文明と道徳の出現

■2 西洋近代の発展と市民道徳

■3 資本主義の発展と道徳

■4 資本主義の危機の克服と福祉国家政策

■5 資本主義の欠陥と近代的道徳の限界の是正

■6 道徳的社会の困難と展望

■7 世界に貢献する日本の立場

(1)世界大戦と日本敗北の意義

(2)東アジア共同体への道

(3)国連の改革と日本の役割

■ 1 文明と道徳の出現

  かつて人類文明の黎明の時代(約1万年前の農業革命後)、道徳は、神話やタブー、説話や伝承として語られ、権力統一を行った独裁者によって秩序維持的に強制されるものでした。中国の殷・周王朝時代、インドのバラモン支配の時代、オリエントのエジプト・ペルシアの時代、ヨーロッパのギリシア・ローマ時代等はそれにあたります。権力者(家父長、王、神等)に従え、先祖を敬え、土地と農民を支配し仲間の利益を守れ(嘘をつくな、盗むな、殺すな、助け合え)など、社会秩序(既得権益)を維持し外敵から共通の利益を守ることが中心でした。

 その後、政治的社会的混乱の時代(B.C500頃~枢軸時代)に、人間存在を根源から考える思想・哲学の諸派の乱立時代を迎えます。その中から孔子や老子、釈尊やイエス、ソクラテスやプラトン、ゾロアスターやムハンマドなど人格的に高潔な聖人の出現によって、人間のあるべき生き方が根源から反省され、仁愛や無為自然、慈悲や神の愛、魂やイデアなどが説かれました。彼らの教えは、支配階級に取り入れられ変質しましたが、今日に至るまでそれぞれの文明における道徳の基本となっています。

■ 2 西洋近代の発展と市民道徳

 しかし、ローマカトリックの支配した西洋では、十字軍(1096-1270)の遠征により地中海貿易で栄えたイタリアでルネサンス(13世紀末~)が起こり、世界史全体を大きく変えることになりました。経済力を高めた市民階級の成長と科学技術の発達によって、人間個人の自己実現(万能人)と現世享楽の風潮が生まれ、権威主義的なカトリックに対する宗教改革(16~17世紀)が起こり、プロテスタントの勤勉と営利追求を肯定する宗教的背景もあって、中世以前の商業利潤蔑視の道徳を払拭し、資本主義的発展の思想的背景(原因ではない)となりました。

 さらに地理上の発見(15世紀末)以後の市民階級は、封建的絶対主義国家への対抗から、個人主義ヒューマニズムと自由平等の権利意識にもとづく観念的な社会契約説を思想的武器とし、市民革命(17~18世紀)によって「市民社会」を成立させました。同時に、この有産市民主義的な自由平等の思想は、商品交換における「等価交換」という神話的原則(相互利益という外形と潜在する欺瞞)を創りだし、産業革命(18世紀中頃~)とともに自由放任の資本主義を進展させ、また政治経済学の基本原則となりました。

 市民社会の道徳は、自由平等の人権思想を前提とし、「最大多数の最大幸福」をめざす功利主義に代表され、私有財産制度のもとでの自由競争による富の蓄積と個人の幸福が追求されました。また、中産階級の支持によって、人格の自律と自己責任が道徳の中心に置かれました。しかし現実の政治経済社会は、一部の資本家・有産階級に富が集中し、自由や平等の恩恵は労働者や無産階級にはもたらされませんでした。

■ 3 資本主義の発展と道徳

 その結果19世紀には、資本主義のもたらす労働者の搾取・貧困・失業そして周期的恐慌による社会争乱を根本から解決するために、人権思想を社会的・階級的に実現しようとする社会主義の思想と運動が起こりました。中でもマルクス主義は、問題の根本的解決を階級闘争と労働者による権力獲得・民主主義の確立に求め、階級的連帯と共産主義の道徳を広めました。

 他方、自由放任・優勝劣敗を信条とする資本家・資産階級は、旧来の権威と道徳に依拠し、民主主義の広がりに押され、国内的には労働者の搾取・貧困・失業そして周期的恐慌による社会争乱を抑圧しながら、不満をそらし経済成長を図るため、対外侵略をおこない植民地支配と帝国主義政策を推進しました。その結果、20世紀前半に西洋世界は、植民地争奪を巡る二度の世界大戦という破滅の危機に直面しました。

■ 4 資本主義の危機の克服と福祉国家政策

 この危機の克服は、市民社会の道徳である基本的人権の拡大を目指して、労働者階級の政治参加・民主主義の進展とロシア革命(1917)で成立したマルクス的社会主義や社会福祉・改良政策として推進されました。先進国では、「ゆりかごから墓場まで」というスローガンが掲げられ、労働・福祉法制が整備され、貧困や失業等の問題を社会保障や富の再分配(分配的正義)によって軽減し、最低生活の保障(福祉国家政策)が行われるようになりました。また、西洋の植民地支配に苦しめられていたアジア・アフリカ諸国は、民族自決の植民地解放闘争をすすめ独立を勝ち取り近代化を推進しています。

 福祉国家政策には、西洋先進国の経済成長と植民地支配による富の蓄積が背景にありますが、社会権的基本権を実現する「富の再分配」には見逃せない問題があります。まず ①政治による社会の不満解消対策になりやすく、市民の社会的自立と社会参加の動因になりにくい。次に ②分配的正義は、市場の交換関係における当事者間の情報の非対称性や不等価性を見えにくくし、社会的不公正や格差の根源から目をそらすことにつながります。

 さらに、欧米中心の資本主義は、アジア・アフリカ・中南米の諸国(途上国)を犠牲にして発展してきましたが、20世紀末からの途上国は、低賃金を利用して工業生産と開発をすすめ、先進国に対抗できる国力を蓄積できるようになりました。南北対立を越えて世界経済が新たに一体化(グローバル化)するとともに、最貧国問題や宗教的対立が顕在化し、EU(欧州連合)統合の試みも、アメリカ経済の先行きも混迷の度を深めています。資本主義市場経済の欠陥そのものの根本的解明が必要になっているのです。

■ 5 資本主義の欠陥と近代的道徳の限界の是正

 従って、自助・共助・公助のバランスを維持し、社会的公正と自律的努力を促すには、物質的交換関係の利害(不等価性・情報の非対称性)を透明にし、世界的規模での「交換的正義」を実現する必要があります。

 つまり、資本主義市場経済の否定的側面(欠陥)として、人間が自由でも平等でもなく(自然的格差)利己的本性をもつにもかかわらず、自由・平等な諸個人の同意・契約(個人主義と等価交換)の名において歴史的社会的に格差を拡大し、金銭的財産的に他者を支配しようとします。

 だから、その結果起こる様々な社会的摩擦(格差・差別・支配=貧富、詐欺、欺瞞、情報隠蔽、権力乱用等々)や不正を防止し、人間関係をできるだけ透明(不等価性の解明)にして、相互信頼の基盤を創り、社会的協働や共生を確立して、それによって、はじめて隣人への思いやりや相互扶助の精神が生かされ、公的福祉(公助)の負担の軽減と真の連帯が可能になるのです。

 今までのような先祖代々継承される弱肉強食と既得権益の維持・排他性を基本とし、社会的対立や交換的不正を過剰な成長によって隠蔽するという欠陥をもつ自由万能の資本主義ではなく、諸個人の努力と共生、協働と競争、互助と分かち合い等の開かれた善き人間的本性が、社会的道徳となるような社会こそ望まれます。

 このような人間の善的本性が開花するためには、まず基本的人権(自由・平等・社会権等)が自然的に与えられた無条件的恩恵ではないこと、また、現在の不公正や格差(不自由や不平等)が歴史的社会的に形成されてきた人為的な負の遺産であることを解明・自覚します。

 そして、人間関係への道徳的洞察と社会参加の必要性を理解し、日常的に民主主義への主体的参加と連帯を奨励する社会的政治的システムを構築します。そして、社会のすべての構成員が道徳性を獲得し日常化するとともに、それを担保する社会制度を法的に整える必要があります。

■ 6 道徳的社会の困難と展望

■ 7 世界に貢献する日本の立場

(1)世界大戦と日本敗北の意義

・ 20世紀の二度の世界大戦で、ヨーロッパ中心の帝国主義的抗争(階級と民族対立を含む)の限界が明確になり、国連を中心とする調整・協調体制が確立しましたが、解決すべき多くの問題が生じています。

国連の協調体制の確立:帝国主義的抗争の終焉、東西・南北対立の持続

旧植民地の経済成長:開発独裁と先進国援助、南北・南南問題

 日本の非武装平和主義:象徴天皇制、世界二位のGDP大国になったこと(2010マデ)

(2)東アジア共同体への道

・ 東アジアの混迷・対立は、人類史的な新しい道徳的イデオロギーの構築によってのみ解決できます。

軍事的対立を伴う解決はあり得ません。

帝国主義的侵略と大東亜共栄圏構想の反省、歴史的和解と協調の必要

分断国家問題と領土問題武力なき解決の展望→平和憲法の使命

民族固有の文化伝統の維持と普遍的人類文化の創造は日本の歴史課題

(3)国連の改革と日本の役割

・ 地球と人類史的視点から、西洋文明の限界を止揚する視点が必要です。

西洋思想の限界を越える科学的な生命・人間哲学の構築

有限な地球(宇宙船地球号)での持続的生存を可能にする抑制的経済成長(縮小成長

貧困と格差、環境問題、温暖化問題、資源・エネルギー問題等の解決

・ 第二次世界大戦の戦勝国組織から世界連邦への発展

名称の変更:: 連合国(United Nations)組織から、人類普遍的な世界(国際World, International)組織としての世界連邦(World Federation)へ

世界人権宣言の改正: 個人主義(Individualism)的人権から生命共存主義(Life-coexistism)的人権へ

・日本の役割⇒平和憲法の改正による持続可能な世界秩序とそのための世界連邦の実現

近現代史から何を学ぶか : 帝国主義の放棄、利己的資本主義の克服、共存共栄、世界連邦

東西文明の融合 : 日本文化の使命、アジア共同体からユーラシア連合・世界連邦へ

平和憲法の改正 : 世界連邦を目指す憲法の制定、戦争放棄の平和主義が世界連邦実現の推進力

◇ イデオロギーの復権と民族的・階級的対立の克服

⇨⇨ 人間の知識・思想・宗教・道徳の整理、生命と人間道徳の確立、公正・正義・中庸

【参考】 日本文化論――

東西文明が育んだ人間的道義は、日本文化の土壌で結実する

新しい精神的・道義的パワーは、物質的・軍事的パワーに勝る

日本は普通の国ではなく、また普通の国であってはいけない

生命言語理論は、精神の主観的相対性を普遍的絶対性に高める

日本の誇るべき伝統「和の精神」は、世界の平和と安定、社会福祉に貢献する

<編集中>

21世紀に入り、グローバル化の進展と世界的経済成長が進み、地球資源の限界と地球環境問題の解決が迫られています。従来のような諸個人や階級的利害・対立、国家主権と資源を巡る対立は、国際連合(United Nations連合国)を中心とする様々の国際的調整が行われ解決の努力がすすめられています。すなわち、国連憲章、世界人権宣言にもとづく相互理解、互恵平等、共存共栄、国際援助、国際基準の作成、平和維持活動等々です。

しかし、その内実は、制度的には国連憲章、思想的には世界人権宣言、そしてアメリカを中心とする大国主義的な西洋近代の枠組みであり、安保理事会や専門機関である世界銀行・国際通貨基金等の運営にその差別的性格(戦勝国、先進国性)がよく表れています。今こそ、生命と人間存在の限界、成長の限界、欲望の限界を自覚し、相互理解・歴史的公正、交換的正義と互恵平等・共存共栄(真の等価交換)、労働時間の短縮とワークシェアリング等がおこなわれ、地球生命の永続性を図り、科学的人間観にもとづく普遍的な道徳が必要とされています。

排他的競争や既得権益維持の論理ではなく協働的競争の論理、自生的な利害対立の認識と協調・是正の工夫が促進されなければなりません。そのためには、人類が新たな普遍的価値にもとづいて、地域的な独善的利己主義、国際的には孤立的な民族主義を乗り越えなければなりません。また他律的権利としての権力依存的福祉社会ではなく、一人一人の構成員が相互の関係性の中で主体的・自律的・互助的に創造し形成していく福祉社会が望まれるのです。

すなわち、人類社会の成員が、新たに公正な社会契約を結び、自らと社会に責任を持つ道徳的社会であり、有限な地球に生きる有限な人間が、お互いに自らの存在の意味を自覚して、人間として生存することを決意する道徳的社会主義の考え方なのです。科学技術が極度に発展した現代社会にあって、人類がこれらの成果を有効に生かすには、旧来の人間観・世界観・道徳観では困難であることは明らかです。今日の地球世界には、階級闘争や民族主義、さらに独占的利益を得るために、ことさら排他的な対立を煽って問題を解決できる余裕はありません。