心の構造とはたらき(事例)
(工事中)人間とは何か 心の構造 心を強くする方法 日本文化論 言語とは
◇ 自分の心は自分でマインドコントロールしよう
① 母親と姉弟の会話――それぞれの心はどんな動きをするでしょう
②若者の狂おしい恋心―― ロミオとジュリエット
③ 不快刺激の心的処理――心は不快なことにどう対処するか
④ 子どもの不安な心――養育者の不安と混乱の影響
⑤ 鬱病で不登校の女子生徒の心――薬物治療中の重いうつ病
⑥ いじめる子どもの心――中心の子ども、周辺の子ども
⑦ 積極的で適確な判断のできる強い心
⑧ 金銭・地位・名誉に執着する野心的な心
⑨ 左右の政治的極論を主張する人の心
⑩ 宗教に救いを求める純な心
⑪ 大乗の菩薩信仰における解脱を求める心
⑫ 釈尊(ブッダ)の悟り(解脱)の心
◇自分の心は自分でマインドコントロールしよう
権威あるとされる他者からのマインドコントロールは、いかさま宗教やフロイト理論だけでなく、一部のカウンセリング理論や科学を装う経済学にも見られます。現代のように価値観が多様化し、人々のエゴがむき出しになる社会では、何を心の支えにして生きていけばいいのか迷っている人が殆どです。その心の空白を埋めてくれるのが、お金とマスメディアの情報(消費を煽り享楽をすすめる商業主義)です。
でも良心的な人々は、そのような社会の在り方に疑問を持っています。自分は、このような社会の腐敗や堕落に依存したり荷担したくはない、と考え悩んでいる人も多くいます。自分の人生や心の在り方を自分自身で決めたいと思っている人が多くいます。人間についての学問(人文科学)は、そのような人間の生き方や心の在り方を、哲学や倫理学、政治や経済学等の社会科学の分野や心理学で研究してきましたが、満足な成果を上げられませんでした。
なぜかと言えば、人間の本質である言語について十分な解明がなされなかったからです。とりわけ人間の心や精神における言葉のはたらきが問題にならなかったため、心の病的症状や治療援助の方法がフロイトの精神分析学に由来する「心の構造」や無意識理論の悪影響を受けることになってしまいました。そのため人間の価値判断や行動を制御する「心(mind)」を、神経症やうつの症状から予防したり治療したりすることを困難にし、また経済的功利主義や唯物主義が人間の精神の価値を低下させ、低俗で刹那的な享楽主義に陥らせることになってしまったのです。
人間の心は、自分自身によっても、また他人からも欺かれやすいものですが、心の構造とはたらきの正しい理解や、善い言葉や情報・知識を学んで、自分の心は自分でマインドコントロールすることで、付和雷同することのない自律した強い心を育てることができます。
※ マインド・コントロールとは: マインドコントロールは、日本では、カルト宗教等が信者の心を無理に支配するという悪い意味に使われることの多い日本語ですが、当研究所では「セルフマインドコントロール」すなわち「自分の心の管理・制御・抑制」「心の自己管理」「自分の心の強化」という善い意味で使っています。
※ 内言とは : 内言は、心の内で音声を伴わずに、思考や欲求・感情の制御・調整を行う刺激・信号としての内的言葉(の使用過程)です。それに対し、外言は、通常の意思の伝達のための音声言語です。人間は本来自己の意図や感情の伝達(表現)手段として言語(外言)を発達させましたが、内言は外言を内面化して思考(言語構成)のために用いたり、自己の欲求や感情を制御・調整する機能を持つようになりました。言葉によって他人を外的に刺激するのも、自己自身を内的に刺激するのも同じはたらきをしているのです。心の中での言葉の役割やはたらきを正しく理解するのが「生命言語理論」の要点です。
① 母親と姉弟の会話――それぞれの心はどんな動きをするでしょう
(三人の心の中の欲求、感情そして言葉を考えてください。)
★ 欲求
【母親】 子どもに、ケーキを食べさせたい。喜ぶだろうな。(愛情欲求―種の保存)
【姉・弟】 早く食べたい。弟(姉)よりも大きい方はどちら・・・。(食欲・自己主張―個体維持)
★ 感情
【母親】 いつものようにけんかをしないかしら。さあ切るよ。(喜び・期待と不安・恐れ、意志的感情)
【姉】 小さいことに不満、イチゴは3つ。弟も3つに増える。強い食欲。(不快と快、公正?複雑な感情)
【弟】 ケーキの大きさよりイチゴの数。ごね得。(要求が通り、優越感情)
★ 言葉
【母親】「おいしそう」という言葉に促され、欲求・感情の動きに合わせて、 思考・内言として、心の中で
上記(欲求・感情)の言葉を使用。 子ども達には「それじゃ3つずつにして、さあいただきましょう」と、
言ってトラブルを調停(?)し、まず食べ始める。満足できれば怒りも疑問もおさまってしまう。
【姉】ケーキの小ささに気づいたが、イチゴは多い。 別に減らされたわけでもない。「おいしいね」で終了。
【弟】ケーキが大きい上に、抗議のおかげでイチゴをゲット。弟はいい、心うきうき「おいしいね」。
※ 「子供を理解することを学ばないものは誰も、大人を理解することはできない。」
(アドラー『人生の意味の心理学』高尾利数訳 春秋社p74)
② 若者の狂おしい恋心――ロミオとジュリエット
(シェークスピアならではの、心の中ではじける言葉の妙)
★ 抑えることのできない激しい恋心
【欲求】 思春期の異性に対する欲求 ⇒恋への 憧れから、ロミオに対する恋心の発火へ(fall in love)
【感情】 脳内物質、交感神経⇒心臓の鼓動増大。心のときめき。感情反応は記憶を促進し持続させる。
満たされない恋愛の欲求は、快・不快・意志の複雑な感情を伴い、言語表現を困難にする。
【言葉】 自分の心の中の欲求と激情をおさえきれず、欲求不満と心の高まりを、言葉の刺激で解消しよ
うとする。言葉は、外的刺激反応であるとともに、内的な刺激となり、欲求と感情のコントロールに
つながる(外言と内言)。
★ この悲劇を読む私たちの心
オリビア・ハッセーの映画なら、なお印象的です。全編を流れるニーノ・ロータの哀愁のこもった音楽がすばらしいです。愛の悲劇は、常に哀愁(の感情)を伴います。否定的感情としての悲しみは、涙を誘いますが、それは共感と同情をもたらし、不快であるはずなのに人々を引きつけます。他人の悲しみを共感できるのは、同胞の連帯をもとめる種族保存の欲求でしょうか。恋の激しい欲求と愛の感情は、言葉(掟・法・理性)による抑制を越えるものです。
③ 不快刺激の心的処理――心は不快なことにどう対処するか
◇ 「ああもう嫌だ、あんなこと(不快刺激)見たくもない、考えたくない、思い出したくもない。」
そのような経験はありませんか。大人なら「そうは言いながらも」不快な感情(ストレス)を適当に処理(解消・発散)して、言語的な思考(理性・道理)によって問題解決の方向を見いだします。しかし、子どもには、それがとても難しいのです。幼少期に与えられた不快な刺激(躾けや大人のもめ事、事件など)は、子どもの問題解決能力や適応力を低下させ、無意識のうちに抑圧され、歪めて学習・記憶されます(心的外傷・トラウマ)。その影響は成人になっても続き、不快な刺激に対する異常な反応となって、神経症や身体症状として現れることもあります。
さてこのような問題は、どのように解決されるべきでしょうか。フロイト的な精神分析は有効なのでしょうか。 (フロイト批判)
(※) 上の図は仏教の根本原理である人生苦を不快刺激と考え、それが通常どのように内的に処理されるものであるかを、簡潔に示したものです。不快な刺激(欲求の充足を傷害し、否定的感情を引き起こす要因)が過大(心的外傷)であったり、処理に失敗すると、心に欲求不満や不快感情が充満し、問題を解決しようとする心の合理的(言語的)処理能力が衰えます。
その結果、自己を防衛するために、攻撃や退行のような問題をこじらせる非合理的で不適応な行動となりがちです。このように不快な刺激によって起こる内的過程(煩悩)は、心の構造と心的過程を理解し、その人の個性にあった正しい訓練・治療を行えば必ず克服できます。仏教の明智は非科学的で目標が高すぎる面もあるのですが、カウンセリングや心理療法の知識とも結びつくものなのです。
なお、仏教における「明智」は、「三毒」 (貪欲、憤怒、愚痴―それぞれ欲求・感情・言語に対応)を克服するもので、欲求や感情を抑え、悟りにいたるきっかけを作ります。
④ 子どもの不安な心
子どもの心を不安にし、歪める人間関係のメカニズム
【欲求】 養育者に保護され、信頼でき、安心していたい。
(養育者間の不信と子ども無視は、子どもの心の成長に必要な基本的信頼感を損なう)
【感情】 不安と不信、怒りと恐れ、孤独と空虚
(否定的刺激・ストレスは否定的感情反応を生じる――人間は多くの感情反応を、人間関係によっ
て学習し、分化・形成する)
【言葉】 「いやだ」 (現実からの逃避、言語的認知の拒否、非現実的空想、反抗・抵抗)
「ママはいない」 (現実の歪曲: 人間一般への不信般化、退行または攻撃、うそ・欺瞞・偽善)
「・・・・(無言)」 (言語の混乱、言語化できない、思考の停止、抑圧・無意識化、不安の持続)
(※) 養育者(両親)に、心身ともに依存しなければ生きていけない幼い子どもにとって、養育者の否定的感情は、確実に子どもの肯定的感情の成長にマイナスになります。
否定的な叱責(「それしちゃだめ!」)でも肯定的に受容されれば、欲求不満耐性を高めますが、持続的に人格を否定するような叱責(無視・不安・脅威)は成長の芽を摘んでしまいます。成長とは未来への希望があってはじめて達成されます。
避けられない否定的な刺激(人生苦)を克服する肯定的感情と創造的な思考力(問題解決能力)を育てることが、養育者の義務です。
その際に、不安を解消させるための物質的な一時的安楽(おやつ・小遣い等)は、言葉による抑制的意味づけが望まれます(意味づけ)。「いただきます」「ごちそうさま」「ありがとう」等々言葉に出なくとも、心に現れること、その気持ちが子どもの心を支え成長を促していきます。
生きていることは善いことだという「生への信頼」が、強い心を育てます。
⑤ 鬱病で不登校の女子生徒の心
【欲求】 強い抑うつ感情の支配による欲求低下、非言語的自己表現
自殺願望と被援助願望(昔の活発な状態に戻りたい―運動クラブで活躍)
【感情】 抑うつ感情(不安・絶望・空虚・恐れ)、意志的感情の衰退(肯定的感情の裏付けのない期待)
【言葉】 無口(自己表現の低下)、発話に気力がない、問いかけには考えて発話するのが辛い
(※) 家庭訪問をすると、自室の隅に足を投げ出して座り、うつむき加減に漫然と過ごしている。一日中殆ど動かない。刃物類は取り上げられており、足の爪をはがしている。精神科の医師より抗うつ剤を処方されているが、親の話では、注意していないと服用せず棄てているとのことである。自傷行為については、したいわけではなく、受容的に接して次回の訪問までは身体を大切にする約束ができた。良い返事ではなかったがその後約束は守られた。
高校入学当初、授業中に一人笑い、不規則発言等の躁的状態があった。友達は多かったが、「変な人」という陰口が本人に伝わり、以来不登校になった。
食欲等の基本的欲求については問題ないが、直接確認できない。言葉や観念・登校等について、関心は向けても意志的創造的思考はできない(主体的興味関心が生じない)。快・楽の感情(脳内物質―アドレナリン、ドーパミン等―の作用)がおこらず、全身を不安感が襲い、発話も生気がない。苦しみを解くのは、休息と薬の服用であることを自分に言い聞かせる(言語化・内言)ことをすすめる。その後安定はしたが、登校できず、結果としては、休学と通信制への転校ということになった。
6人のうつ病生徒(いずれも女子)と関わったが、いずれも母親は気丈であり、父親の存在感が薄い。夫婦仲は良くない。家族療法の必要性を感じたが、十分踏み込むことはできなかった。(t.yamada)
⑥ いじめる子どもの心――中心の子ども、周辺の子ども
【欲求】 個体維持>自己主張>自尊心>支配欲、仲間への自己顕示欲
陰口・悪口への怒りと欲求不満 ⇒⇒ 適応機制としての復讐・攻撃欲求
【感情】 否定的感情としての屈辱・怒り・憎悪の増幅、いじめ計画・思考における憎しみと喜び
【言語】 「どんなこと言ってた? わからない? 私が確かめる!」⇒ 妄想と憎悪の悪循環
「どうして落とし前をつけるか」⇒⇒不快感情の発散・収拾⇒ 露見しない巧妙ないじめの計画
(チクラせない、犯罪にしない、対マンを張らせる、じわじわ責める)
(※) いじめは、自己顕示と権力欲の強いものが、自己の権力を仲間(集団)に認知させ、また自己の欲求不満を解消するために、弱いものをターゲットに行なわれる。学校、会社など集団内の力関係が歪んだり、ストレス(競争など)が強いと起こりやすい。弱いものいじめは、自己の欲求や感情を理解できず、自己主張ばかりが強い競争的な集団で起こりやすい。自己理解の不十分な個人や集団には、心の三要素をふまえた言語的・理性的コントロールによって、いじめの愚かしさを理解させ抑制することができる。
※ さて皆さんも様々な心の分析を試みてください!(^_^)v
⑦ 積極的で適確な判断のできる強い心
⑧ 金銭・地位・名誉に執着する野心的な心
⑨ 左右の政治的極論を主張する人の心
⑩ 宗教に救いを見いだす純な心
⑪ 大乗の菩薩信仰における解脱を求める心
⑫ 仏教における禅定・瞑想の心
⑬ 釈尊の悟り(解脱)の心 ⇒⇒参照