自分自身を研究しよう(汝自身を知れ)――心とは何か

まずは、自分の身体と心を統合している 脳 についてネ。


(※ 別稿で表示した図と説明の再録です。自分理解の基本になります。)

「人間の心(精神)」は上図の身体生理構造の基礎のうえに成立しています。生命活動も精神活動も、上図の機能モデルのように生存維持(視床下部・生理的欲求制御)のために、ホルモンや自律神経系によるバランスを保ちながら行われます。その上で、外界の刺激に対する感覚や大脳中枢を通じた反応が、快・不快の情動・感情として起こり、思考や判断という精神活動となり、外界への行動として表れることになります。

図は、脳のようには見えないけれど、人間の脳と身体(心と体)の模式図なのです。

手足はないけど筋肉の所に手足があるのです。でも、どうも格好つかないので、皆さんの想像力で人間らしい姿を考えてください。

でもこの図は、高等動物に共通するモデルで、まだ人間の言語が組み込まれていません。言語を組み込み言語的思考をする基板(神経系)とそれを支える身体との関係を図示しています。

まず注目して欲しいのは、図の上の左右、【刺激・知覚】と【環境・反応】についてです。すべての生命(単細胞からその集合体である高等な植物・動物まで)が、化学反応のように、また作用があれば反作用があるように、さらに縁起の現象ように、生命の基本の行動パターンは、無限の<刺激反応性>なのです。

次は、刺激とは何か?ということです。刺激は無限の環境情報であり、生命にとって有益な刺激もあれば、有害な刺激もあります。生命は、常に環境から与えられる刺激が、有益かどうかを選択・判断しなければなりません。

そこで、動物では、結合した細胞が機能分化して、知覚器官で受容し、選択・判断し、それを反応器官(筋肉等の効果器)に伝達する神経系を進化・発達させました。神経系の中でもっとも発達したのが人間の大脳です。

人間の特徴が大脳の発達にあるとは言っても、人間も動物なので他の高等動物と同じく欲求感情・行動の中枢があります。生命を維持するのは視床下部・脊髄で、基本的欲求をコントロール(内的恒常性を維持)します。運動は小脳が支配するのはよく知られています。

環境の刺激にまず反応するのは、欲求と感情・情動(自律神経系の活動)です。 さてこれらの反応はどのように脳内で処理されるのでしょう。例えば次のようです。

内的欲求 ⇒ 外的刺激 ⇒ 知覚受容 ⇒ 情動反応 ⇒生理反応(自律神経系)→ 捕食行動 ⇒欲求充足(快的情動反応)

(例: 空腹 ⇒ ビフテキ ⇒ おいしそ~、ワクワク ⇒ 唾液が出る ⇒食べる うま~い、満足!)

安全欲求 ⇒ 外的刺激 ⇒ 受容・情動反応 ⇒ 欲求不満 ⇒生理反応(自律神経系)→ 適応行動(意志的感情反応)

(例: 友達・安心喜び ⇒ 裏切り・ショック ⇒ 失意・怒り(心臓パクパク) ⇒ どうする?⇒ 旅に出よう!ルンルン♪ )

⑥ 情動・感情についての脳内のメカニズムは、よくわかっていません。上図では<大脳辺縁系>にある【扁桃体】や【帯状回】が関係しています。辺縁系の一部である【海馬】は記憶と関係し、海馬を興奮させる情動刺激は記憶されやすいとされています。

⑦ 視床下部の興奮は、自律(交換・副交感)神経系やホルモンを通じて内臓や分泌腺に伝えられます。情動反応によって<心臓の鼓動が高まり冷や汗が出たりする>のは、適応反応・行動への生理的準備反応です。

以上が、私たちの日常的な生活で起こる、欲求と情動・感情に関係する脳と身体の生理的反応です。これらの刺激反応性は、高等動物でもほとんど変わりません。しかし、人間の本質となる刺激反応のメカニズムは、<大脳皮質連合野>で起こり、言語刺激が関係する感情・思考・意志による自己制御的・理性的な働きです。

言語(刺激・情報)は、対象(情報)の認知と情報の記憶・伝達の必要から進化発達しました。そして、その認知・記憶・伝達の情報処理の過程で、対象が(what)どのように(how)あるか(be)という論理的過程が出現し、その言語的思考による感情と行動の抑制とともに、新たな対象の想像・創造が可能になりました。

私たち人間が、自分のことを理解するというのは、まずは上記のことを知ることです。その上で、さらに理解すべきなのは、人間は常に新たな世界を創造し、自らの行動を抑制・制御し、幸福な人生を送れる可能性があることです。自分についてのさらなる研究はここから始まります。

◇人間の心、自分の心を「もっと」よく知ろう。

さらに心の理解を深めるには、「心の構造と機能」を参照して下さい。

◇ 心の形成と個性・人格――相互理解のために

心は、欲求・感情・言語の三要素によって構成されている。

② 心は、言葉や行動(脈拍・発汗等生理的反応、表情を含む)にあらわれる。

③ 心は、内面を正確に観察することができず、外面で欺くことができる。

④ 心は、遺伝と環境によって形成され、知的自覚によって変容できる。

⑤ 心は、個人の行動様式を規定する個性や人格の本質である。

心は、欲求や感情反応の強弱・敏鈍・粘淡等の遺伝的要素による個性をもち、

その個性は環境や教育の習得的要素(経験)によって拡大または縮小する

 心がどのような構造と機能を持っているかがわかっても、その働きの仕方・様式は人によってそれぞれ異なり個性的です。個性は、生まれつき遺伝的に規定される生得的要素(素質・気質)と、生後の生育環境によって形成される習得的要素によって多様な反応・行動様式となります。また習得的要素(性格・人格)では、幼少期の環境依存的・受動的形成と思春期以降の自律的・主体的自己形成によっても異なり、内向・外向、消極・積極など多様で特徴的な人格(価値観や判断・行動様式)をもつことになります。

 欲求について言えば、強さと弱さ(強弱)、敏感と鈍感(敏鈍)、粘着と淡白(粘淡)など個性的な反応様式は、内部知覚やホルモン調節、筋肉や臓器、神経系などの遺伝的要素に影響されます。言わば内的恒常性の維持・調節に関わる生化学的生理的反応様式の違いが、欲求についての心の個性(性格)として現れます。心の強い人弱い人、感じやすい人鈍い人、執念深くこだわる人潔く諦める人、愛想の良い人冷淡な人など、欲求の対象に対する反応は人それぞれで異なります。

 人格を形成する二次的欲求については、感情の反応様式が大きく関わり、快不快の強弱・敏鈍・粘淡や、言語による合理化などによって学習・習得され、対象に対する欲求(好み)の違い(好悪、肯定・否定など感情的要素)が、個性に反映されます。対人関係の中では、好き嫌いや会話の仕方などの社交性・指導性に個性があらわれ、運動や技芸の面でも得意・不得意の違いが目立つようになります。とくに、未来への夢や言語的目標を実現するために、欲求が意志的感情と結合すれば、目的を目指す「強い心(意志・信念)」を形成することができます。

 感情は欲求と深い結びつきがあり、欲求実現・充足の具体的選択と方向付けを行います。例えば、幼少時に音楽に関心を示し、保護者がそれを支持・援助することによって快感を得れば意志的感情を育て、生涯に音楽的才能を発揮することができます。また、宗教的雰囲気の中で育ち、肯定的感情を学習すれば宗教に親近感を持ちますが、逆に否定的な嫌悪感を抱いて学習すれば宗教嫌いになります。

 言語は欲求や感情を意味づけ(合理化)強化します。思春期には言語的思考による「心の吟味」が行われる場合が多く、欲求や感情自体をコントロールする言葉や知識を求めます。今までの親や社会のものの見方や考え方に疑問を持ち、確実な世界観や人生観を求め、自分の個性を実現できる主体的な生き方をしようとするのもこの時期です。

 心の三要素(欲求・感情・言語)は、成長の過程に於いて、相互に関係を持ちながら個性や人格を形成します。自分や他人の心の共通性を知ることができるようになれば、自分に自信がつき、意見の食い違いや対立への洞察がすすみ、もっと容易に問題の解決をもたらせるようになります。

人の望むこと(何を望むか)、感じること(どのように感じるか)、そして知識(言葉)の内容とはたらきを知ることは、個性や人格の違いや限界を克服し相互理解を深める第一歩になります。人間の心の相対性(限界)の理解は、内向・外向、消極・積極、深層心理や潜在意識、魂や神などのつかみ所のない非科学的概念をこえて、人間理解と持続的幸福を容易に得る条件になります。

◇ 心が、欲望や感情に支配されたとき――さまざまな精神疾患

(1) 欲望の肥大化 : 自己顕示欲の露出、派手さ、社会的配慮の喪失、暴力攻撃、ヘイトスピーチ、いじめ

(2) 肯定的感情の支配 : 躁状態、一方的おしゃべり、自己愛、性的依存・倒錯

(3) 否定的感情の支配 : うつ状態、転換ヒステリー、被害妄想、一方的攻撃、恐怖症、強迫症等

さらに自分の心を強くしようとすれば、「心を強くする方法」を参照して下さい。