地球環境激変の21世紀

 何をなすべきか、近未来の地球的危機の克服のために

――成長の限界と社会の縮小を前にして、将来世代の平和で幸福な持続的生存のために、

   我々はどのように「意識」を変え、何をするべきか――

                      ☞ 「人間にとっての不都合な真実

    ☞ なぜ人間の意識は容易に変わらないのか. どうすれば人間の「意識を変える」ことができるか

「意識」はさまざまな意味や捉え方がありますが、ここでは、意識とは、対象に対する言語的な認識能力(意とは覚醒状態、識とは言語的に区別して明示すること)であり、「心」の一部であるとします。というのも「心」は、無意識的な欲求と感情に、意識的な言語的思考と構想(創造)力を含むと考えるからです。動物に特徴的である無意識的な思考(選択判断・問題解決能力)に対して、人間に特有な言語的・知性的問題解決能力は、個人や社会の意識的な変革や抑制・制御を行う創造的な能力であると言えます。だから「意識を変える」というのは人間の創造的な能力の発現でもあるのです(変えるとは創造すること)。

しかし、「意識を変える」のは容易ではありません。意識を変えることは「価値観」を変えることですが、それは単なる言語的科学的知識だけで行われるものではなく、無意識的な欲求や感情の反応様式(習得的価値観)をも変えねばなりません。そのためには、よほどの説得力(危機意識)と教育的時間を必要とします。意識の変革とは、新しい人間を創ることであり、自ら成長することでもあるのです。これには教育が決定的な意味を持ちますが、ここでは単に意識を自己変革する条件と見通し に触れておきます。

1.意識を根本的に変えるには、意識について知ることが必要

① 人間の意識を、心の一部であり、言語的な認識能力とみなす。

② 意識は、知的言語的な覚醒状態、無意識は欲求や感情の機能とする。

③ 意識は、自らを知的に変革でき、無意識を知的に制御できるが、強制不可である。

④ 意識を変えるには、意識を含む心の構造と働きを知ると容易になる。

2.意識(心)を変えるだけの説得力を持つためには

① 地球的危機の問題意識を持ち、自分の無知・偏見に気づくこと

② 現代文明が成長の限界という歴史的転換点にあり従来の常識が通じないこと

③ 人間の意識が成長や拡大の偏見をもつ根源と、そのものの見方考え方を知ること

④ 欲望拡大の問題性を解決する方法や理論に、疑問の余地なく確信を持てること

3.社会縮小への問題意識を持つには、問題の重要性に気づくこと

① 近未来に地球を襲う最悪の事態を想定すること(危機意識)

② 想定可能なことは、地球温暖化による氷床の融解と海面上昇・気候の激変

③ 資源の偏在・枯渇と人口密集地・耕作地の減少等をめぐる対立

④ 土地と資源を巡る目先の利害対立によって、大局的危機を見失わないこと

4.人間についての知的対立の根源を可能な限り縮小すること(共通性の確認)

① 認識論上の対立の克服 : 検証可能な科学的認識による共通の人間観の確立

② 人間の本質である言語の意義 ⇒ 学問・知識、思想・宗教の基盤解明

③ 哲学的宗教的な思想上の対立の克服、疑問は留保(生命言語説も)

A) 宗教的知識・信仰は人間の創造物であること

⇒預言者・司祭者・創始者による人間の有限性に対する言語的意味づけ、

宗教による権力者の権力の正当化

B) 現代哲学の限界は言語理解の限界による:現象学、言語哲学、マルクス主義等は

西洋合理主義の限界から言語解明に失敗している。

④ 近代から現代の主流政治経済学の欺瞞の是正:

経済成長を前提とした競争市場の等価交換理論と一般均衡理論(パレート最適)の欺瞞を明らかにし、

運命共同体的社会道徳を欠いた福祉政策の欠陥を互助・互恵の精神で是正する。

⑤ 国家主義的競争を抑制し、共存共栄の地球的経済をめざす。

⑥ 次世代のための低炭素循環型社会、資源エネルギーの節約

5.地球生命的視野と世界政府の樹立

・国際連合の改組・再編(第二次世界大戦の戦勝国体制の克服)

・組織強化のための財政確立と世界警察軍の設立

・地球環境問題への取組の強化(地球温暖化の及ぼす人類的危機への対応、

人類共通の資産である資源・エネル ギーの世界的管理と分配)

・その他人類の平和と福祉の向上、利害対立の調整等を行う

(【補足】現代の物質文明(資本主義経済)を築いてきた物欲・利己心・成長・進歩・競争等の人間の本性を変えるのは、「意識を変える」だけでは難しい。これらは人間の本性として「無意識」の領域に本能的に組み込まれており、また習得的な行動様式・価値観として形成されてきた。無意識つまり欲求や感情はその本質を理解しないと意識によっても容易に変えることはできない。)

【縮小社会のめざす3つの正義と実現の前提】

―今まで常識とされてきた欺瞞的知識からの解放―

私的利益追求を基本とする「市場の欠陥」への自覚なしに、社会の健全な運営と経済の望ましい縮小はありえない。グローバル市場の欠陥の是正のために、基本的人権の実現を前提とした3つの正義にもとづくルールや制度が必要である。またその前提としては、人間が他の動物同様生きてゆくための欺瞞可能性を持つ存在であることを自覚すること(人間の認識能力の欠陥・限界)。

① 交換的正義:未来的社会契約

・交換関係の欺瞞性の是正:信頼と互恵、互酬的正義、等価的正義、

・地域共同体、持続的単純再生産社会、互助互恵・共存共栄社会

・人間の相互理解と偏狭な心の解放・コントロール

② 分配的正義:近代的社会契約

・市場の利害調整:政治経済学⇒交換の欺瞞性の正当化、社会福祉

・資本主義拡大経済:経済成長万能、強者支配の社会福祉(トリクルダウン)

・資源浪費と環境汚染:私的利益の追求と公益の毀損、自然破壊、

③ 環境的正義:地球的(新)社会契約

・地球共同体の利害調整:地球生命的正義、資源循環的正義、

・共生・福祉社会、共存共栄社会、世界政府の実現

・個人・家族・地域・集団・国家そして世界への自己の位置づけ

④ 人間的正義実現の前提

・基本的人権の保障 : 平和、自由・平等・幸福追求の権利

・人間の本質と心の理解 : 認識・言語・意識の理解、心の抑制制御、可能性と限界

・基本的知識の共有 : 地球的環境知識、人間的知識、世界文明史理解

・人間的善性と幸福の実現 : 精神的文化伝統の継承、善性と幸福育成の条件整備

・「市場の欠陥」と社会的責任への自覚、市場の非道徳性がもたらす人類社会の閉塞状況

■ 社会の縮小は文明の転換、人類の生き方を変えるものとなる

――危機と混乱の時代に対応する人間存在研究所の提案――

縮小社会の在り方は、現代の拡大成長社会の本質を研究することによってはじめて明らかになります。現代社会の捉え方には様々あります、私見では、現代の文明社会を成立させた要因は人間の言語的本質にがあり、その問題の解決のためには、言語と欲求・感情によって構成される「人間の心」を解明する必要があると考えます。そのために生命の本質を科学的に明らかにし、人類の精神的・物質的文化や文明社会についての捉え方を見直し、現代社会・文明の特質を解明します。

それが問題解決の第一歩となります。

① 生命の本質

生命の本質には質的量的「拡大の傾向」がある。質的な拡大とは多様な環境への適応能力の進化的拡大、量的な拡大とはその種にとって快適な環境になれば必然的に拡大・増殖することである。環境が悪くなれば、自ら適応的に変化するか、また最適の環境を選択し、環境そのものを変えようとする傾向がある。不断に変化する環境の変化への適応に失敗すれば、その種は滅亡する。

② 人間の本

人間の本質は、「言語の創造的な構成能力」にある。一般に言語の機能は意思伝達に限定されがちである。しかし、言語は、伝達内容の認識・構成・創造(言語的思考)に全面的に関わっている。文明の発展や社会経済の成長・拡大、それを支える科学的知識や貪欲・あくなき利潤の追求は、人間の言語的本性によって起こる。人類社会の富の蓄積、「生産力の発展」は、単に「生産労働」によってなされるのではなく、人間の言語的知性による発展・拡大的傾向が必要だったのである。

③ 人間社会の本質

人間社会は、親子・家族・隣人等のような生得的な関係だけでなく、言語的に獲得された「習得的知識・観念・約束(社会契約)によって結合」している。呪術的観念の支配する部族的社会から、都市文明を代表とする階級社会の神権政治、そして封建的身分社会、さらに近代の民主主義的契約社会と展開してきた。近代社会は、「市場」を中心とした利害対立を、政治的な民主主義と経済的な資本主義の原則によって調整・支配し、多数者の支持を得る政党や企業、団体等の組織が社会の動向を方向付ける。

④ 成長の限界と社会の縮小への対応

以上の考察にもとづいて、人類は「成長・拡大の限界」からもたらされる社会的危機と混乱にどのように対応していけばよいのでしょうか。

取るべき道は一つ、成長拡大から縮小成熟の道を進むことです。

人類は、浪費・貪欲をめざす成長・拡大の進歩的経済が永遠に続くことを前提としてきました。しかし、私的利益追求の資本主義が全世界に発展するにいたり、成長・拡大の限界――資源エネルギーの枯渇、地球温暖化の危機に直面しています。そこで今や、貪欲・浪費そのものを見直し、地球環境を破壊する再生不可能資源や原発のように制御困難な技術を抑制・廃棄する必要に迫られています。

人口の抑制と浪費の抑制はある程度可能ですが、すでに温暖化を食い止める限度以上に排出されたCO2は、今後も増加を続け持続的発展を不可能にすることが予想されます。氷床の融解が進めば、海面上昇によって人口密集地や耕作地の多くが失われます。

われわれ「人間存在研究所」は、このような混乱と危機の時代を前にして、人間の本質を言語であると考える「生命言語説」と道徳的社会主義を目指す「新社会契約説」を提案します。

参照:「危機の時代」をどう考えるか?