P-F 30

ミカに敗れたイブが百合子の治療を受ける


「足止めにはなったかなぁ?」


「むしろよくやってくれたわ・・・私は戦闘員じゃないからごめんね、全部押し付けて」


「ううん・・・それにしても純には無理言っちゃったなぁ・・・」


「・・・あとは信じるだけね」


「そうだね」


「・・・紫苑は大丈夫かしら?」


「・・・大丈夫だよ、あの子、めっちゃ強いから」


イブを倒したミカが創造世界に戻る


「さて、指名手配もしたことだし、もうすでにあの子は捕まってるだろうなー」


そう言いながらゲートを潜ったミカの視界に飛び込んできたのはとんでもない展開だった
人々が二人を逃がそうと襲う人を倒し、それを突破しようと追う人が阻止する人を倒す、そこに種族は存在していなかった


「何・・・何これ!?なんでこんなことになってるの?」


「まぁ、あんたのいない間に出来たインフルエンサーの一声さ」


「紫苑・・・お前」


背後に立つ紫苑が言う


「それより良いの?あいつら追わなくて」


「お前に言われなくても!!見てろよ、もうあと数時間すればお前も俺の奴隷だ」


「はいはい、あんたが反省してないことは分かったよ」


「ハッ!!反省なんかするわけないだろ!!」


「・・・これが最後のチャンス、今計画をやめれば見逃してあげる」


「お前からの指図、受けるわけないだろ!!」


ミカが走り去る、紫苑がため息をつくと自身の身分証を見つめ言う


「・・・最終手段に移るしかないか・・・」


突然の状況に凪斗も凪佐も混乱していた
自分たちを逃がそうとする人、襲おうとする人、それからかばってくれる人、それを倒す人
現場は大きな喧嘩会場とでもいうべき勢いであちこちで争いが起きていた
その混沌の中二人は誘導されるまま人気のない場所へとたどり着いた
廃ビルの一室で息を整えると凪佐が隠し持っていた注射器を取り出す


「凪斗、ちょっと我慢してね」


「え?」


凪佐が凪斗に解毒剤の入った注射器を差し込む


「痛っ!!」


「ごめん、でもこれ解毒剤、これで凪斗の体内の毒の効果が無くなるから今度こそ一緒に暮らせるよ」


「・・・そうなの?」


注射器の中の液体が無くなったこと確認すると注射器を抜き凪佐が言う


「・・・やった・・・やったね凪斗・・・これで自由だよ・・・」


「凪佐・・・」


「自由?自由だって!?」


ミカが叫ぶ


「もう計画がどうとかどうでも良い!!何なのもう!!!腹いせと言われようともういいお前を殺す!!」


自身の武器である大砲を構えると凪佐が凪斗をかばうように強く抱きしめる、それに応えるように凪斗も凪佐を抱きしめ返す


「バイバイ、双子ちゃん」


「そこまでだよ、天子帝」


二人をかばうように紫音が割って入りミカにスタンガンを打ち込むと同時に大量の警察官が入り込みミカをとらえる
ミカは抵抗するもさすがに電撃と人数に押されて動けない


「もうあなたの座る玉座は存在しない、これからは更生施設で生まれ変わることだね」


「ハッ、まだ王子の分際でよくそんな口が利けるね」


「王子?あんたはこの翼を見てもそう言えるのか?」


「はぁ?」


紫音の背中に生える一対の白い翼
それは紛れもなく天使の翼だった


「死神王と悪魔王と相談した上で天使族達にも宣言した上で、今現在ボクは天使王だよ」


「は・・・はぁ!?」


「もちろん反対意見もあった、だけど大半の人に事実をすべて話した上で頭下げたらボクの即位に賛成してくれた」


「この短時間でそんなことができるわけないだろ!!」


「だから時間をかけて最後の手続きまで事前に済ませておいた、あんたが計画を実行したらすぐに行動できるようにね、天使王がいないこともその理由も全部昨日のうちに会見してボクが王位についていいかどうかもこの期間で投票して決めた、ギリギリだけど賛成が上回ったよ」


「なんだよそれ・・・なんだよそれ!!!」


「むしろ遅すぎたぐらいだよ、あんたのいない間国を何とかしてたのはうちの父と百合子さんだしね、だからこれも国民に投票してもらって、父さんが創造世界の王様で、ボクと百合子さんも含めて仕事を分担することにしたんだよ、この世界の仕事をね、しかし皮肉なもんだねー、一番引き裂きたがってたやつの行動で世界が一つになるとか・・・」


「はぁ・・・でもやれるだけのことはやったし、もういいか」


ミカが連行される


「・・・遅くなってごめん、改めまして、新天使王の神楽坂紫音です」


「紫音・・・何もここまでやんなくても」


「・・・言ったでしょ?特別な存在なら、とことん特別になってやろうと思ったって」


「紫苑・・・」


「あ、でも国自体は元々父さんと百合子さんがやってたからそこはこれまでとそんなに変わらないよ、だから安心して」


「ねぇ紫苑、本当に後悔してない?」


「後悔?なんで後悔する必要があるの?ほら、見てよ」


紫苑がスマホを見せる
そこに書かれていたのは種族を問わず凪斗を助けようとする声の数々


「ブリヘブが呼び掛けてくれたんだよ、そうしたらみんなあんたを助けたいって、こんな風に種族を問わずに一緒にいられる世界であるのなら、ボクが天使族か死神族かなんて大きな問題じゃないんだよ」


「え!?それってブリヘブ大丈夫だったの?」


「・・・白亜伊吹経由で聞いた、バニーJ、引退するつもりでこの行動とったって、だからどうなるかはまだ分からないよ」


「ボクのせいだ・・・」


紫苑が凪斗の頭をなでる


「何言ってんの、種族差別がない世界はすぐそこなんだよ、君が逃げるって決断してくれなかったら今回のことはできんかった、今回の行動を咎められないように頭下げておくから大丈夫、気に病まないで」


「・・・うん・・・」


「大丈夫だよ、松葉凪斗、君には支えてくれる弟がいる、一緒にいてくれる友達がいる、分からないならこれから分かっていけばいいんだよ、君はもう自由なんだ」


「自由・・・?」


「やりたいこと、何でもできるってこと、分かんないならその弟や友達と探しなよ、じゃあボクは仕事があるから」


「やりたいこと・・・」


凪佐が凪斗の目をまっすぐ見つめ言う


「まずは、去年できなかったお誕生日お泊り会をしようよ、それからのことはこれから考えよう、お誕生日おめでとうございました!凪斗」


「・・・お誕生日おめでとうございました、凪佐」