P-F 10
凪斗の病院脱走から1週間、凪佐は落ち着かない様子で学校へと向かう
「ねーねー凪佐、お兄さん見つかった?」
「知らねぇよあんなやつ」
「あんなに仲良かったのに、急にこんな風になるなんて、はっ!!まさか天使族ともあろう者がほか種族と駆け落ちでもしたの!?」
「だから知らねぇって言ってんだろ、桜、いい加減にしてくれよ、あいつは俺とは無関係なんだ」
「無関係なわけねぇだろ」
「何が言いたいんだ?天子」
「お前とあいつは血縁者、ましてや双子の兄弟なんだぜ、もしほか種族と駆け落ちしたんならお前もほかの種族を愛する異常者ってわけだ」
「なっ!!そんなわけないだろ!!」
「あれあれ?そういえば凪佐は~、ブリヘブのバニーJなんてドブスがお好みだったよね?あの子も種族分からないしもしかして~」
「やっぱ異常者じゃねぇか、どうせ兄貴だって同じだろ」
「凪斗はそうかもしれないけど俺は違うんだって!!もう毎日毎日何なんだお前らは・・・!」
凪佐が苛立ったように言う
凪斗が脱走してからというもの、表ざたにはならずとも天使の間でうわさが広まり、凪佐に関わる学校での話題はそれをネタにしたものばかりだ
凪佐自身、距離を置いていたのもあり騒動の真実を知らない以上反論は出来ない
日に日に増える余計なうわさに罵声、凪佐の限界は近かった
「もういい、それ以上言うならマジでやんぞ!!」
凪佐が身分証をたたき武器を取り出す
宝石のついた青い大鎌、それが凪佐の武器だ
「あっそう、じゃあ桜も本気で行くよ」
桜も同じように身分証をたたきバラの花があしらわれたメイスを取り出す
2人は教室だというのに回りも気にせず本気でぶつかり合った
「ひゅー!面白くなってきた」
天子がそれを鑑賞しながら笑う
そこに近づいてくる足跡
「あ、先生来た・・・ま、このまま最後まで見ておいてやろう」
「何の騒ぎですか!!!」
教師が強く扉を開けると2人は本気の喧嘩をやめた
「だってこいつが根も葉もない噂を」
「凪佐のお兄ちゃんがほか種族と駆け落ちした異常者かもしれないからからかってただけでーすそうしたら喧嘩売られたので買いました」
「はぁ・・・凪佐、そんなことで怒らない、桜も売られた喧嘩買わない」
「そんなことって・・・だって俺と凪斗は」
「はい、この話は終わり、出席とるぞー」
凪佐が武器を片付けると桜が凪佐に向かって思い切り性格の悪い笑顔を見せた
凪佐は切れるのを我慢し着席する、改めて確認した引き出しの中は水浸しで、教科書やノートは全てびしょびしょだった
「あの、先生、俺の教材全部濡れてて・・・」
「そうか、じゃあ隣のやつに」
「先生!あの、彼のお兄さん異常者かもしれないんですよね?そんな怖い人と教科書共有したくないです」
「あー・・・それもそうか、凪佐、ほかの人に借りるか我慢してくれ」
「・・・分かりました」
凪佐は血がにじむほど強くこぶしを握りながら返事をした
散々な思いをしながらその日の学校を追え帰宅する道中でも余計なあおりや質問をぶつけられ凪佐は公園のベンチでぼんやりと座っていた
「はぁ・・・もうちょっと顔出して事情だけでも把握してあげればよかったのか・・・?」
そうつぶやく凪佐にかけられる泥水
お気に入りの水色の服が見る見る茶色に染まる
「何しやがるんだ!!」
「あ~ごっめーん、異常者でも泥で洗えばきれいになるかと思って」
「天子、これはちょっとやりすぎじゃ?」
「桜だってやってただろ?嫌がらせ」
「でもタイマン張ったからチャラだよ」
「てめぇっ!!」
凪佐が切れるのが早いか、2人が悲鳴を上げてその場に倒れるのが早いかは分からなかった
突然のことに凪佐は立ち尽くす
レーザーガンのような形の銃がワイヤーを巻き取り終わると声が聞こえる
「これ、何の冗談?同種族の癖にレベルの低いいじめなんかして・・・」
「し・・・紫苑!?何でこんな天使しかいない町に・・・?」
「あぁ、バイト先までの最短ルート考えるとここが一番近いんだよね、そうしたら同じブリヘブファンがいじめられてたからうっかり手が出ちゃった」
「死神族風情が天使族に何するのよ!!」
「おっと!復活早いね!」
紫苑がそういいながら桜のメイスをかわすと足払いをする
「きゃあっ!!」
「それで、ボクと本気でやりあうの?お姉さん、ボクが引き金引いたらビリビリ~ってして明日までここで寝ることになるよ?引き下がるなら引き金引くのはやめてあげるけど」
紫苑がうつ伏せで倒れた桜の背中に乗りスタンガンを構える
桜が悔しそうに口を開こうとする、そんな紫苑の顔面に入る天子の蹴り
蹴りを食らった紫苑は遠くへはじかれる
「うわっ!!紫苑!?」
「はぁなるほど、キック力を上げる靴の武器ね・・・油断した」
「はっ!!死神族が天使族にかなうと思うなよ!!」
「ちょっと、助けるなら最初から助けてよ!!」
「仕方ないだろ、お前が急に喧嘩持ちかけるんだから」
「さてと、どうやら本気でやらなきゃいけないみたいだね」
紫苑が流れる鼻血を拭きながら言う
どれぐらい時間が経っただろうか?
そこには息を切らしながら立つ紫苑と横たわる天子と桜の姿があった
「あ・・・ありがとう・・・で良いのかなこの状況」
「いや、どうってことな・・・ゴフッ!!!」
「しおーん!!!?」
紫苑が血を吐きその場にひざを付く
凪佐が紫苑に駆け寄ると紫苑は大きく息をしながら言う
「やばい・・・このこと知られたら父さんに外出禁止にされる・・・バイトもやめさせられる・・・」
「え!?今気にするところそこなの!?今おまわりさん来たらやばいから!!ってそれもちがくて血吐いてたけど大丈夫なの!?」
「ちょっと格好つけすぎたな・・・ははは・・・」
「言ってる場合!?あー・・・もう・・・しゃべる元気はあるな?バイト先まで案内してくれ」
「りょーかい・・・」
凪佐が紫苑を背負うとそのまま走り出した
「あー、それで紫苑くん届けてくれたんだ、ありがとうね」
「いや・・・こっちも助けてもらって洗濯まで・・・って言うか紫苑大丈夫なの?」
「お薬飲んで寝てるから大丈夫だよ、呼吸も落ち着いてきたし、顔色もさっきより良いし」
「そっか・・・良かった・・・それでここは何のバイト?」
「あー・・・死神組は魂の輸送、で俺達悪魔組が振り分けだよ」
「地上の魂のことだよね?」
「そうだよー、まぁ下っ端も下っ端だから出来ることなんてめっちゃ限られてるけどね」
「へー・・・そういえば、白い羽の人がいないけど天使族は何してるの?」
「天使族かぁ・・・何だろう?誰か知ってる?」
「知らない、そもそも天使族の友達いないし・・・ストーカーはいるけど」
「イブそのカミングアウト何!?って、ボクも凪斗しか天使族の友達いないしな・・・」
「ってことで誰も知らん」
「わぉ・・・」
「天使族・・・は多分運命と善悪の決定だね・・・アルバイトなら多分その書類の振り分けとかじゃないかな?」
紫苑が起き上がりながら言う
「あ、紫苑くん目覚めた?大丈夫?」
「まだちょっとくらくらする・・・」
「どうする?病院行く?」
「いや、それよりも・・・松葉凪佐と話がしたい」
「え?俺と?」