P-F 22

何の発展もないもどかしかを抱えながら6月が過ぎた
7月に入り凪斗の15歳の誕生日も3週間を切ったとき、紫音が歓喜の声を上げる


「当たった・・・!!ブルーム館ブリヘブのチケット2名様分・・・!!」


「おぉー!!!さすがファンクラブ会員ナンバー1の紫音様!!!」


「まぁ、行けるかどうかわからないけどね」


「二重の意味でな」


「でも、取れたってことが大きいんだよね、行けたら行きたい」


「そうだな・・・」


「・・・凪斗と仲直りしたい?」


「・・・うん」


紫音が凪佐の頭をなでながら言う


「誠意をもって接すれば大丈夫、ボクは兄弟いないから分からないけど兄弟ってそういうものでしょ?」


「・・・映画の見過ぎじゃない?」


「ざんねーん、体力が持たないから映画なんて見られませーん」


「じゃあフィクションの見過ぎ」


「あははは・・・」


「そういえば、俺の抗体の解毒剤ってどうなった?」


「ん?あぁ・・・まだ実験段階だね、なんせ解毒対象がボクしかいないんだし」


「へー・・・え?じゃあ自分の体で試してるの?」


「そうだけど?」


「マジでお前のそういう気合どっからくるんだ?」


「母へのあこがれと父へのリスペクト」


「度が過ぎてる、命大事に」


「・・・こんなこと言ったら怒られるかもしれないけどさー、正直この世界守れるなら死んでもいいよ」


「それ絶対父親に言うなよ」


「自己犠牲の精神ってわけじゃない、ただ特別な自分が嫌なだけ、君たちみたいに種族に属してただあるがままの日常を過ごしたかっただけなんだ」


「・・・いやいやいや、意味が分からない」


「何でもない自分になれないのならいっそのこと思い切り特別な存在になってやろうと思ってね」


「あー・・・まともそうに見えてお前って案外拗らせまくってるよね」


「拗らせまくってるよ、身体的なものはもちろん中二病的なものもね」


紫音が笑いながら言う


「でもさ、事態が早く解決して二人仲良く行ければ一番だよね」


「・・・そうだな」


凪佐が相槌を打つ
その一方で困っていたのは霧斗もだ
凪斗と会って話がしたいのにも関わらず、追い返されるばかりで理由が分からない
バイト先の先輩のアドバイスを取り入れてもうまく会話につなげることはできなかった


「あー!!もう本当何なの?なんでダメなの?」


「霧斗くんうるさい」


「でも保護する準備万全なのに何でおとなしく保護されないんだろう?そのほうが安全なのに・・・」


「んー・・・その件で私なりに考察してみたんだけど、私たちがこの創造世界に生きたまま入ることができるのは身分証のおかげだよね?」


「そうだね・・・」


「もし地上で無くした場合どうすれば良いんだっけ?」


「えっと・・・確かゲートの前で再発行手続きをするんだっけ?手続きと本人確認のために再発行までは1か月以上かかるけど・・・」


「それが私の考察」


「それ先月も言ってなかったっけ?その節ボクはないと思う・・・」


「それでもし地上で故意に身分証が破壊された場合はどうなるんだっけ?」


「それも同じなんじゃないの?」


「違うんだよ、意図しない破損や紛失は再発行が可能だけど、故意の破損はその対象外、いわゆる堕天って状態になって二度と創造世界には戻れないの」


「え?じゃあ今まで人に破壊されちゃった人はどうしてるの?」


「君と同じコースかな?ただ、君は事実上人間から死神に種族を変えたことになってるからうまくいったけど、堕天した子はそのまま死んじゃうわ」


「それって救いがなさすぎじゃ・・・」


「まぁ、それだけ証明が難しいことだから疑わしきはすべて罰するしかないのが現状なのよ、一応これ頑丈だから意図的に壊そうとしなければ壊れないって認識も強いし」


「意図的に壊すって・・・?」


「例えば、紫音くんみたいにスタンガンが武器の子の最大電流を流すとか、柳先輩の打ち込んだ文字でバグらせたり燃やしたりとか、その次元のことをしないと壊れないんだって」


「あー・・・つまり創造世界の武器じゃないと壊せない・・・的な?」


「そう言うこと」


「つまりもうすでに天使族に捕まってて身分証を人質にされてると?」


「私の考察だけどね」


「・・・」


一瞬の沈黙の後霧斗が叫ぶ


「ああああああ!!!じゃあもう迎えに行かなきゃやばいじゃん!!!」


「いや、たぶんこれがばれたって分かったら身分証壊されかねない・・・紫音のお父さんが動いてくれるの待つしか・・・」


「イブ?何考えてるの?」


「んー・・・ちょっと君には内緒の相談相手に相談しようかなって思って」


「何それ・・・」


イブが静かにほほ笑んだ