09
シュンヤが工場に足を踏み入れるとそこは工場とは思えない光景が広がっていた
「え・・・?な・・・・何これ・・・・?」
「わっちには病院に見えんす」
「病院・・・?」
「はい、個々に分かれた部屋、薬品の匂い、特徴的な白い空間、前にわっちの働いていた病院そっくりでありんす」
エリクシルが小刻みに震えだす
「エリクシル・・・?」
「ワ・・・・たし・・・・知っテる・・・・」
「え?」
「コこ・・・・シってル」
「知ってる?」
「わタシ・・・・ここかラ逃げテきた・・・・」
「え?」
シュンヤが聞き返す
「ここから逃げてきたって・・・?」
「よク思イ出せナいケド・・・・ここニいた気ガする」
「あの・・・これなんだと思いんすかぇ?」
Dr.バルチャーがいじった機械にはゲーム参加者全員のプロフィールと勝率が表示されていた
シュンヤはそれを見つめる
「ねぇ、これ勝率が20%下回ってると表示がグレーになってますよ・・・」
「敗北といわす事でありんすか?」
「多分」
「ジャクリーン・・・・?」
エリクシルがパネルの1つを指差し言う
そこにはグレーに表示されたジャクリーンのプロフィールが載っていた
「ジャクリーンもしかして・・・・」
「そう言えばペナルティってなんでありんしょう?」
「それは、こういうことだよ」
「ブレー・・・ズ・・・・!?」
シュンヤが驚きの声を上げた
そこには体の半分近くに縫いあとの付いたブレーズが立っていた
「それどういう事ですか!?」
「どういう事もこういう事も・・・・これだよ、勝率が20%を下回ると問答無用でここにつれてこられて、モルモットにされるってわけだ」
「な・・・なんてことでありんしょう」
「でも何でここにいるんですか?」
「お前らの姿が見えたからちょっと隙を突いて逃げてきた、他の2人がどうなったか俺にはさっぱり・・・」
「そ・・・うですか・・・・」
「生きていようが死んでいようがお構いない、どうやら主催者は能力採取とモルモット収集を目的としていたらしいな」
「え!?」
「悪い、俺もここまでしかわかんねぇわ」
「そうですか・・・・」
「なぁ、もし大会を棄権して逃げ出せるんなら今すぐ逃げろ」
「ナンでですか!?」
「この大会の敗者の結果がこれだからな・・・もしかしたら願いが叶わないかも知れねえ」
「そんな・・・」
「・・・・じきに追っ手が来るから、早く逃げろよ、俺はもう逃げられないからさ」
「あの・・・キンバリーさんの居場所はまことに知りんせんでありんすか?」
「ごめんね・・・・でも多分この施設のどこかにいるよ」
ブレーズがDr.バルチャーの頭をなでながら言った
画面を見つめ続けるシュンヤがクロとトラシーウィザードのプロフィールを見つけた
75%だったトラシーウィザードの勝率が下がる
「え?」
その瞬間、空間に響く爆発音
「み~つっけた~」
「あなたは・・・?」
「みーはクラウンヘッド、シュンヤってどの子?どう見てもゆーだよね?」
「だ・・・だったらなんですか?」
クラウンヘッドがクラブを構える
シュンヤが警戒しながらあたりを見渡す
「・・・・清潔すぎて持ち上げられそうなものが無い・・・・」
「スキありっ!!!」
クラウンヘッドがボールのようにシュンヤに飛び掛る
シュンヤがそれをギリギリで避ける
「避けないでよー!みーはトリックスターのために全力でやんなきゃなんないのにさー」
「え?」
シュンヤが立ち止まる
「シュンヤさん」
「え?」
Dr.バルチャーが言う
その手には怪しげな薬品が握られていた
「息を・・・・しないでくんなまし」
そうつぶやくとそのビンをクラウンヘッドに投げつけた
怪しげな液体がすぐに気体と化しクラウンヘッドの周りに充満する
「これ何!?」
「睡眠薬です、吸ったら眠ってしまいんすよ」
Dr.バルチャーが微笑みながら言う
そこにクラウンヘッドが殴りかかる
「キャァッ!!」
「ドクター!!」
「もーっ!みーがこんなことで眠っちゃうわけ無いでしょ?みーは、トリックスターの命令がなかったら眠らないの!分かる?」
「そ・・・・そんな事が可能なんですか?」
「可能も何もトリックスターのためだったらみーはそれぐらい出来ちゃうの!」
「そんな人間離れした・・・」
「だって、みーは人間扱いされたこと無いもん」
揺れた前髪の隙間から見えた顔を見てDr.バルチャーは言う
「単眼症・・・・でありんすね?」
「ピンポーン!この目のせいでみーはいっつもバケモノ扱いされたんだ!」
前髪を上げたクラウンヘッドがシュンヤのほうを向く
そこには真ん中に1つだけ大きな赤い目が存在していた
「じゃああなたはその目を治すために・・・?」
「もー!そんなつまんないことでこの大会に出たりしないよ!!」
「え?」
「みーの願いはトリックスターの願いをかなえること!」
「・・・・トリックスターの?」
シュンヤが首をかしげる
「うん、トリックスターはマジックに失敗して観客に火傷を負わせちゃったんだ・・・だからこの大会で不利な状況下におかれた」
「・・・・」
「そんな理不尽みーが許さない!!」
「理不尽なのはどっちだよ」
シュンヤがそうつぶやくと重そうな機械やビンを宙に浮かせた
「なっ・・・・!?なんで!?見た感じすごい頑丈に固定されてたのに!?」
「え~?俺がいつ持ち上げられないなんていったの?あーあ、あのキャラ演じるのも、楽じゃないね~」
不気味な微笑を浮かべながらシュンヤは言う
「さっきの話ってさぁ、所詮は自分のミスが原因なんじゃん?自分の不注意じゃん?じゃあ自分の責任でしょ?有利であれ不利であれね」
「でも」
「でもじゃないよ、こっちはさ・・・遊びで両親殺されて!!その後伯父伯母にこき使われて!!その上周りからいじめられて!!それでも理不尽だなんて嘆かないで生きてきたんだよ!!」
「っ!!」
一瞬ひるんだクラウンヘッドの脳天にシュンヤは思い切り薬品ビンや重そうな機械をたたきつけた
クラウンヘッドは下敷きになり、画面に浮かぶクラウンヘッドのアイコンが揺れる
「あの・・・シュンヤさ・・・・」
「すいません・・・お見苦しいところをお見せして・・・けれど、嫌な予感がするので俺はクロのところへ行きます、お2人は」
「わ・・・わっちはもう少しここを調べたいでありんす、だからもう少しここに残りんす」
「はい、分かりました」
シュンヤはそういい残しその場を後にした
「Dr.?どうしタの?」
「・・・・大丈夫でありんす、ただちょっと考えごとをしていたんでありんす」