P-F 18

迎えたゴールデンウィークの初日


「じゃあ皇霧斗、松葉凪斗の事頼んだよ」


「うん・・・でも紫苑が行ったほうが早いんじゃ・・・?」


「元々地上の空気は体に合わないボクがこの貧弱な体のまま地上に行ったら途中でぶっ倒れるよ・・・」


「でも」


「よし、分かった、出発時刻を遅くしよう、あんたなんか隠してるでしょ?」


「うっ・・・やっぱ分かっちゃう・・・?」


霧斗がばつの悪そうな顔をする


「無理強いをする気は無いからね、あんた魂回収以外で地上に行く気無いでしょ」


「いや・・・実は死んでからずっと地上には行ってない・・・」


「・・・?あぁ、あんた元人間なんだね」


「うん・・・生前はマルチタレントをするマジシャンだったんだけど、多忙といじめとその延長の濡れ衣で犯罪者にされて自殺しちゃったんだ・・・」


「なるほど、それで転生を拒んで死神族になったと」


「うん、小さいころに両親亡くしててその両親も転生拒んで死神族になってたから余計にね・・・だからまだ地上怖いって言うか・・・」


「顔が割れてるだけにそれは確かにね・・・」


「人の視線が怖いって言うか・・・マジシャンだっただけに生存説が残ってないかとか心配すればするほど怖くて・・・」


「・・・分かった、じゃあ一緒に行こうか?」


「え?」


「百合子さんとは知り合いだから、そのほうが安心でしょ?」


「え?でも地上は合わないんじゃ・・・」


「合わないけど百合子さんと顔合わせて話もしたいし、こんなに怖がってる人を一人で行かせられないよ、手続きしてくるからちょっと待ってて」


紫苑がそう言うと手続きを済ませる


「こういうときに王様の関係者だと便利だよね、手続きめっちゃスムーズだった」


「ありがとう・・・えっと・・・」


「大丈夫だから、ほら、行こう」


「・・・うん」


霧斗が紫苑の差し出す手を握り扉をくぐった


「おっと、一応百合子さんに連絡入れておいて近くに行くまでは姿を消しておこう」


「あ、そうだね」


ペンダントをたたき地上では一度姿を消すと百合子にメールを送りながら歩く


「ところで皇霧斗、あんたは地図は読める?」


「え?うん」


「じゃあはいこれ地図、ってことで案内よろしく」


「え?」


「ちなみに手を離すとボクどこ行くかわかんないから」


「待って!!普段どうやって動いてるの?」


「一回たどり着ければあとは大丈夫なんだけど最初の一回がね・・・初めての場所は普段ホバーシューズに行き先打ち込んで走ってるから」


「じゃあ何で今日は」


「出かける予定じゃなかったからだよ」


「ごめんなさい!!!」


「代償は道案内だ、OK?」


「OKOK!!!」


霧斗が地図を読みながら紫苑の手を引く



「まるで迷子を誘導している気分だ・・・」


「ははははは・・・」


「あ、ここ・・・?」


「よし、じゃあ姿を見せようか、同じ創造世界の人間なら姿は見えるけど、保護施設に人間いたらボク達の姿は見えないし・・・」


紫苑が少し考える


「いや、やっぱ皇霧斗はそのままでいて、いいって言うまで姿見せちゃだめだから」


「え?う・・・うん・・・」


紫苑がインターホンを押す


「紫苑様、お久しぶりです」


「はぁ・・・大衆の前以外では他人のフリしなくて良いって言ったでしょ、あ、この子凪斗の友達の霧斗ね」


「はじめまして、雨宮百合子、こう見えて悪魔族です・・・って君」


紫苑が人差し指を唇に当て「静かに」の指示を出す、百合子がその意味を悟ったように二人を家に上げる


「じゃあ紫苑は一階で私と話しましょう、霧斗くんはニ階の凪斗くんのお部屋に行って」


「はい、分かりました」


霧斗が二階に上がり、凪斗の名前のプレートの書かれた部屋をノックする
返事が返ってくると霧斗はドアを開ける、そこでは凪斗が一人本を読んでいた


「え!?霧斗・・・?」


「えっと・・・久しぶり・・・どう?」


「一応は快適だよ・・・えっと・・・久しぶりだし急に来すぎて何しゃべっていいか分かんないけど・・・」


そういいながらも二人は会話を交わし、以前のような他愛も無い話を繰り返していく
その部屋にノックも無く入ってくる人物


「あのさー凪斗、この本なんだけど・・・って誰?」


「えっ!?・・・あ・・・はじめまして、皇霧斗です・・・」


「ふーん・・・あー・・・君、何年か前にタレント業とかしてた?」


「・・・別人だよ」


「そう、でさー凪斗」


霧斗のスマホにメールが入る、それは紫苑からの呼び出しだった


「じゃあボクはそろそろ帰るよ、凪斗、久しぶりに会えてよかったよ」


「あ、うん、また来てよ」


「うん、バイバイ」


霧斗が玄関へ出向くとすでに紫苑が靴を履いていた
紫苑が口を開く


「ねぇ、あんたの姿、松葉凪斗以外の誰かに見られた?」


「え?うん・・・何か緑髪のポニーテールの子とちょっとしゃべったよ」


「え?ミカちゃんに?でもあなた姿見せない設定にしてるんだよね?」


「うん・・・でも霊感体質だとたまに見られたりするし・・・」


「はぁ・・・百合子さん、近いうちに凪斗を保護させてくれる?」


「そうね、準備が出来たら言ってちょうだい」


「え?え?え?」


そういい残すと紫苑が施設を後にする


「ねぇ、説明して!!どういうことなの?」


「百合子さんにお願いして設置した監視カメラは無駄だった、全部壊されてたしメモリーカードも内臓メモリーも粉々にね」


「だけど」


「・・・そして皇霧斗、君は地上の人間に姿が見えない状態にしたのにその子には見えていた」


「でも霊感体質の人かも」


「霊感体質だとしても、そこにいるかのように話しかける人なんていると思う?偶然が重なった?それってどんな確立なの?」


「でも」


「一番最悪のパターンはその子が「絶対天使プロジェクト」に関っている創造世界の住民ってことだね、創造世界の人間じゃ翼を隠されるともう人種が分からなくなるし・・・」


「そっか・・・」


「とにかく帰って作戦立てなきゃ・・・どこが一番安全だろう?ボク実家か?いやそれとも・・・」


「紫苑」


「ん?」


「いっそのこと誰か住んだほうが早くない?」


「地上に?いや・・・地上に住みたがるやつなんていないから・・・」


「じゃあボクが住む」


「学校どうするの?中3でしょ?高等部への進学にしろ別の高校への進学にしろ大事な時期じゃん」


「それを何とかするのが君の仕事だよ」


「あぁー・・・なるほど・・・分かった、もうちょっと話し合ってみる」