12

トラシーウィザードは途中体力も魔力も限界に達してしまいその場に座り込む


「クソッ・・・・ここが限界かよ・・・・」


ぼんやり無機質な空を見つめるトラシーウィザード

そこに聞こえる聴きなれた声


「ユキちゃん!!」


「棗・・・?」


トラシーウィザードにクロが飛びつく

ひ弱なトラシーウィザードはその勢いに突き飛ばされる


「ゴフッ!!!」


変な叫び声を上げるとトラシーウィザードはその場にうつ伏せで倒れた

何とか体を起こすと安心したように微笑んだ


「よかった、無事だったんだな・・・うっ!ゲホッ!!ゴホッゴホッ!!!」


むせるトラシーウィザードにクロが必死で謝る


「わーっ!!!ユキちゃんゴメン!!ごめんね!!!」


「えほっ!!!」


変な音のする咳をすると口元を押さえる手から血が噴出した


「え?」


「はっ・・・・はぁ・・・・・はぁ・・・」


荒い息をしながらトラシーウィザードが手を見つめる


「シュンヤ・・・・頼むから早く・・・・・」


そうつぶやくとその場に倒れた


「ユキちゃん!?」


クロはトラシーウィザードを抱き上げるとその異常な状態をすぐに察した

燃えるように熱い体、直接心臓を抱き上げているかのように伝わる心音、浅く荒い息

辛うじて意識はあるがそれも途切れ途切れらしく返事が弱く力ない

Dr.バルチャーはそっと首に指を当てる


「・・・脈が弱くなっていんす・・・・危ない状態でありんすね・・・・」


「そんな!!」


「大丈夫だってこれぐら・・・・あれ?」


「ユキちゃん!?どうしたの?」


「メガネ・・・メガネどこ・・・?なんか目がよく見えないんだけど・・・・」


「え?」


トラシーウィザードのメガネはちゃんとかかっていた


「トラシーさん、血液型は何型でありんすか?」


「え・・・?A型・・・・」


「A型でありんすね、わっちのお部屋に来てくんなまし」


「あ・・・うん」


クロがトラシーウィザードをおんぶしDr.バルチャーの部屋に来た

そこには大量の薬品が置いてあった


「そこに寝かせてくんなまし」


クロがトラシーウィザードを寝かせるとDr.バルチャーが冷蔵庫から取り出した輸血パックをトラシーウィザードと繋いだ

一瞬痛そうな顔をしたトラシーウィザードだったがすぐにその表情は消えた


「・・・悪いな」


「気にしないでくんなまし」


「・・・・お前なら分かるんだよな?ボクあとどれぐらい生きられんだ?」


「っ・・・・」


Dr.バルチャーが振り向く


「わっちがいる限り死なせませんので、安心してくんなまし」


「そうか・・・・?じゃあ・・・・期待してる」


トラシーウィザードがそういいゆっくりとまぶたを閉じた


「・・・ユキちゃんマジで目悪かったんだ」


トラシーウィザードがメガネをはずしクロの方へ投げた

クロがメガネを受け取りかけてみるが、特に視界はぼんやりとせずはっきりしていた


「・・・伊達だよ、それ」


「え?でもさっき」


「自分にああでも言わないとやってられなかったんだよ、認めたくない現実ってあるだろ?」


「・・・そうだね・・・ねぇ・・・ユキちゃん」


「・・・・ん?」


クロがそのそばで問いかける


「もう頑張らなくて良いよ・・・棄権して帰りなよ・・・・ね・・・・」


薄く目を開けたトラシーウィザードは言う


「・・・・それは出来ない・・・・だって、あっちで死んだらさ・・・ゲホッ・・・・」


クロが口からたれる血を拭く

トラシーウィザードは呼吸を整えながら続ける


「・・・・だってあっちで死んだら・・・もう二度と兄さんには会えないんだ」


「え?」


「元々ここへ来たのは、生きて家に帰るためでもあったんだ・・・だからさ・・・・」


トラシーウィザードがベッドのシーツを強く握る

吐き出すような絞り出すような声で言い放つ


「ボクは・・・・死にたくない・・・・」


「え・・・・?」


「死にたくない・・・・まだ生きたい・・・・そんな些細な事なんだけどさ・・・・ボクの願いって」


「・・・・」


「でも無理かもしれないんだね・・・・」


トラシーウィザードが大きく息を吸う


「出来ることならさ、世界の色んな事知りたかったな」


「色んな事?」


「本の中だけでしか知らない海とか・・・森とか・・・本物の花なんて見たこと無いし・・・あいつの言ったとおり、ボクは無知だ、どうしようもないほど無知だ」


「・・・・シュンヤがあいつを倒してゲームを終わらせてくれたら絶対見に行こうよ!私素敵な場所いっぱい知ってるよ!!だからあきらめないでよ・・・ねぇ・・・」


クロがトラシーウィザードの手を握る

祈るように強い力で必死に握り締めた


「棗、痛い」


「ゴメン・・・・」


クロが手を放した

その様子をトラシーウィザードは微笑みながら見つめた


「ねぇ棗、ちょっと抱っこしてもらっていいかな?」


「え?うん良いけど・・・」


クロが静かにトラシーウィザードを抱きしめる

折れそうなほど細いからだとそこから発せられる熱い体温に心臓を直接抱えているかのような感覚にクロが戸惑う

クロの胸に耳を押し当てたトラシーウィザードが安心したように目を閉じる


「・・・あったかい・・・安心するな・・・兄さん・・・」


「・・・兄さん?」


「あっ・・・いや・・・寂しいときとか辛い時、兄さんがこうして抱きしめてくれたなって・・・」


「・・・そっか・・・」


「あのさ、シュンヤと初めて会った日、ホテルで「泣いてたの?」って聞いたよね?」


「え・・・うん」


「そうだよ、泣いてたよ、ボクは結構意地っ張りで、変なところで気を使うというか・・・

だからあの時もちょっとしんどくて、このまま死んじゃうんじゃないかとか思ったら不安でさ

無理してでも帰るべきだったのかなとか、こっちの世界の病院に行けばよかったなとか

色々考えちゃって・・・・」


「そっか、別に辛かったら言ってくれれば良かったのに、根本的な解決にはならないけど気は楽になるよ」


トラシーウィザードがクロの顔を見つめる

一瞬驚いた顔をしたがすぐにうつむき言う


「ごめん、頼り方知らなくて、その・・・プライドが許さないとかそういうわけじゃなくて何が迷惑で何がそうじゃないとかが分からなくて」


「本当にね、子供なんだからもっと大人に頼ってよ」


「・・・年上だけどお前もまだ子供だろ」


「・・・そうだったね・・・ユキちゃん?」


トラシーウィザードは眠っていた

クロがゆっくりと彼をベッドの上へ下ろすと部屋を後にした


「お願いだから生きて・・・」


祈るようにクロが扉の前に座り込んだ

そこにDr.バルチャーが声をかける


「大丈夫?」


「・・・・だって言いたいな」


「そっかぁ・・・」


座り込むクロの隣にDr.バルチャーが座る


「どうしたの?ドクター・・・」


「ううん、わっちもね、たまには年相応の行動が取りたくなるんだ」


「って言うか言葉・・・」


「クロちゃんたちのおかげで覚えたんだ」


そう微笑んで告げた

クロも微笑んで言う


「年相応ってドクターいくつなの?」


「わっち?わっちは8歳でありんすよ」


「え?私より11年下?ってもうすぐ年取るから12歳かぁ・・・」


「そうなるね」


Dr.バルチャーが微笑んでいった

そして深刻そうな顔で本題に入る


「いまね、彼に止血剤と痛み止め点滴してるけどもう本当に良くないんだ」


「え!?」


Dr.バルチャーが唇に指を当て「静かに」と声を出さずに言う


「臓器のダメージが大きいし、魔力も大分減っちゃってるから体を治癒する魔法も使えない・・・・そんな状態なんだ」


「そう・・・なんだ」


「彼が自分の国にいたころ、そこって相当医療技術の発達した国だったんだろうね、私の知識じゃ追いつかないんだもん・・・」


「・・・・・」


クロがDr.バルチャーに寄りかかる


「どうしたの?」


「ううん・・・・出来ればみんなで生きて帰りたいなって・・・」


「・・・・実は・・・ジャクリーンさんとブレーズさんとキンバリーさんは・・・すでに敗北して殺されてないにしろパワーもなく・・・」


「そんな・・・・」


「彼も早く運命が変わらなければもってもう・・・」


「っ!!」


クロがどこかへ走り出した