【14】
その本性

「出て来て下さい!! トリックスター!!」

シュンヤが叫ぶと、トリックスターがあざ笑うかのように背後に立った。

「やぁ、シュンヤくん」

「でましたね……、トリックスター」

「ねぇ、敬語きつくない?」

「え? 俺はいつでもこんな口調ですよ」

「嘘吐き。まぁいいけどさ」

ふざけた口調で話していたトリックスターだったが、一転真剣な雰囲気となり、言う。

「君は、俺を殺しにきたんだろう?」

「はい」

簡潔に答えると、シュンヤは道路から街灯を引き抜き宙に浮かせた。トリックスターはため息をついてステッキを取り出した。

「黒瀬俊也、物体浮遊。で合ってる?」

「はい、あなたは……?」

「……トリックスター、マジシャンさ」

「マジシャン……あぁ、そうか」

シュンヤは静かに呟き、そしてしばらく考え事をしているかのように動きが止まった。

「……でも……あぁ……んー……」

「ねぇ、さっきから大丈夫?」

「えぇ……少々いいですか?」

「ん? 良いよ、何?」

シュンヤが自分の目を指しながら言う。この世界に来てからのグレーの瞳に黒い白目のほうの目は、相変わらずだった。

「あなたの目、見せていただけますか?」

「目……? 良いよ」

トリックスターが眼帯を取り前髪をかき分ける。そこには金色の瞳をした黒い目が三つ存在している。

「やっぱり」

「え? でも君秘密を知らないはずだよね……?」

「……もう、終わらせましょう」

シュンヤが宙に浮かせていた街灯を握った。

「『Mine Funeral』……、『自分の葬式』ね……。本当にその通りですよ……」

「あ?」

シュンヤが街灯を投げ、トリックスターはギリギリでそれをかわす。わずかにかすったらしく髪が何本かさらりと落ち、頬に赤い線が刻まれる。

「君は何を言ってるんだい?」

「そのままだよ、そのまま」

シュンヤは投げて遠くに行った街灯を浮かせると、猛スピードでその街灯を引き寄せた。トリックスターはそれを避けられず、彼の太ももに命中する。

「ぐっ……!?」

「プッ」

シュンヤが抑えきれないという様子で少し笑う。トリックスターが怪訝そうにシュンヤを警戒しながら街灯を引き抜き、傷跡を焼いて止血した。

「何が……そんなに面白いんだ!!」

トリックスターがトランプを投げるが、シュンヤは新たにその辺から手に入れた街灯でその全てをはじく。
トリックスターが傷跡のハンデを気にしながらシュンヤに迫る。迫りくるトリックスターをシュンヤはバットを振る動作で街灯を振り、思い切りトリックスターをはじいた。その衝撃でトリックスターは壁にめり込み、シュンヤはその様子を見て大笑いを始めた。

「ふっ……アハハハハハハハハハッ!!!! なんて酷いざまなんだよ、これは傑作だ! プッ……ハハハハハハッ」

「……さっきまでの敬語キャラはどこ行ったんだよ……」

「敬語キャラね、プッ……にしても笑える、俺が狩人じゃなきゃこんな攻撃効かないもんな」

「え?」

「じゃ、その目いただきます」

シュンヤがトリックスターの三つ目の目に向かって街灯を投げた。トリックスターは間一髪でそれを避ける。ギリギリだったためそれは帽子に刺さってしまったが、体に触れていないため新たな怪我はないようだった。

「チッ……さすがに無理か」

「君は……なんで……? え……?」

「疑問は色々あるだろうけど、知らなくて良いんじゃね? だってお前これから死ぬんだし」

「……」

「そりゃ、トラシーとかクロとかの運命変えなきゃなんないのはおっそろしく面倒くさいさ! でもさ、あんだけ期待させておいて今更ってわけにも行かないだろ?」

「さっきからお前言ってることが……」

「ふふふっ……とっとと負けてくれればよかったんだけどなー。クロはいい体してるからいいモルモットになるし、トラシーはすごく強い魔法使いだから殺してばらしたらいい武器が出来そうだしね、ふふふっ」

シュンヤが楽しそうに続ける。その表情は無邪気な子供のようで、それ特有の不気味さを放っていた。トリックスターはナイフを両手に構えると、シュンヤに向けて投げた。ところがそのナイフはシュンヤの表面に当たると地面に落ちた。

「!?」

「驚くのも無理はないよね、うん分かってる。自分でもびっくりだもん、あんな反吐が出そうないい子キャラを演じきれたなんてさ」

「……!?」

「じゃ、そろそろ終わりにしよっか」

シュンヤは直接トリックスターを物体浮遊の力で持ち上げると、その喉の前に街灯を構えた。

「なんで……?」

「ん?」

「なんで、俺の攻撃が効かないんだ?」

「あぁ、それはね」

シュンヤはそこまで言って指を鳴らした。街灯がそのままトリックスターに刺さる。

俺がこの世界の創造神であり主催者だからだよ

話の続きをしていたシュンヤだったが、もがいていたトリックスターの動きが鈍くなっているのに気づいて、気を取り直してこう言った。

「って最後まで聞いてないか、それはそれでいいんだけどさ」

最早誰も聞いていない呟きと共に物体浮遊の力を抜くと、一仕事終えたとばかりに伸びをした。

「さて、最後ぐらい良い子のシュンヤでいるか」

べしゃりと落ちるトリックスターには目もくれず、他のメンバーの待つ場所へと足を向けた。