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天使族、死神族、悪魔族の三種族が地上の命の始まりから終わりまでを構築する「創造世界」
これは、その創造世界の物語
「ねぇ凪斗、凪斗は何でずっと学校にいるの?」

「凪斗」そう呼ばれた短髪の少年が答える

「知らない、でも王様がそうしろって言ったからなんだって」
「ずっと学校なんて退屈じゃない?」
「退屈だよ、でも毎日こうして凪佐が来てくれるから平気」

「凪佐」そう呼ばれた長い髪をした少年が問いかける

「じゃあ、来週の誕生日とうとう決行だね」

「うん、がんばろうね」

「はぁ・・・俺も頭がよければこの寮に住めるんだけどなぁ・・・」

「しょうがないよ、だって勉強ぜんぜんしないじゃん」

「あははー、ばれたか」

ほとんど同じ顔をした少年は他愛もない会話を繰り返す
その時が来るまで、何度でも

「あ、もうこんな時間だ・・・今日はもう帰るね、凪斗」
「うん、また明日」

手を振り髪の長い弟を見送る少年は松葉凪斗
生まれたときからこの学園内ですごし、外に出ることは許されない
学園自体全寮制も兼ね備えており、高額な資金や高い成績を条件に入れる特殊な場所だ
何度も双子の弟、凪佐と共に脱出を試みたがどうあがいても学園か出ることは出来なかった
なぜ?と問いかけたことは何度もある、けれどそれに帰ってくる返事はいつも王様の命令だから、だという
理不尽だと思っても、反発して逃げれば逃げるほど監禁が悪化するばかり、今じゃ体育の授業や避難訓練以外では施設の外に出ることすら許されない
長期休みで学園が空になる日も一人学園にのこり、病気になれば学園に医者を呼び、一人が寂しいとなれば教員がそばにいる、そんな状況が14年も続いているにもかかわらず、凪斗はあきらめずに脱走を試みていた
失敗してもこの学園は高等部まで、18歳になればここから出られる、あの瞬間まで凪斗はそう思っていた
そう、あの瞬間、14歳の誕生日までは・・・

「お誕生日おめでとう、松葉凪斗くん」

「おはようございます、ありがとうございます、校長先生」

「誕生日とはいえ気を抜かず勉強にスポーツ、全力尽くしてがんばりたまえ」

「はい、もちろんです」

凪斗がそういうと校長は部屋を後にした
それと入れ替わるように入る凪佐

「じゃあ、作戦開始と行きますか」

「うん」

慣れた様子で凪斗は身支度を始めた
とは言えども学園で暮らしている以上個人の荷物は少ない
せいぜいこの世界におけるあらゆる役割を果たすペンダント「身分証」凪斗の場合ハートの鍵の形のペンダントに着替えが数点がいいところだ
身分証は創造世界での自身の個人を証明するほか、戦闘時に自分の武器を取り出したり地上で羽を隠し姿を現すためのペンダントだ、それぞれ別の形と色をしているため同じものはひとつとない
すべてをかばんに詰め込むと駆け足で学園の玄関を目指した

「作戦はこう、凪斗のペンダントをつけた俺が学園から外に出て出来るだけ遠くへ行く」

「それでボクは教師が出払ったころを見計らって出来るだけ高く飛んで外へ出る」

「そしてある程度距離を稼いだら俺は教師にわざと捕まる、そしたら俺が凪斗じゃないって分かる」

「そしたらパニックだよね」

「「あとは家で落ち合おう!」」

浅い考えだが計画は実行された
授業中であり近頃大きなトラブルのなかった兼ね合いか、簡単に2人は脱出に成功した
作戦通り、教師たちは凪佐を追いかけ始めた
その姿が見えなくなったころを見計らい凪斗が出来るだけ高く飛び上がり学園を抜け出した

「わぁ~~~!!世界って広いなぁ!!」

ある程度の距離を飛んでいく
学園内をすいすい飛べる凪斗からすれば、この程度の飛行など簡単なものだ
出来るだけ距離を稼ぐために飛び続ける凪斗、学園がドールハウスのように見えてきたころ、凪斗の翼に鋭い痛みが走る

「痛っ・・・」

その痛みと共に凪斗は転落した
幸いなことに、学園を取り囲む森に落ちたことで命は助かった
痛みの原因を探ろうと痛みの走る翼を見ると、そこには鋭い矢が刺さっていた
立ち上がろうとしても、落下の衝撃で怪我をしたのか酷く腫れた足で立ち上がることが出来ず何度も地面に倒れる
匍匐前進をしながら凪斗が言う

「早く・・・早く家に行かなきゃ・・・」

「残念だけど、あきらめて、俺達には君が必要なんだよ」

「え?」

凪斗の意識は、誰かの裸足を最後に途切れた
目を覚ますと見覚えのない白い天井、羽と足に痛みが走る
病室にしか見えないその部屋にノックの音が響く

「はい」

状況は呑み込めないがとりあえず凪斗は返事を返す

「凪斗!!!」

「凪佐・・・」

「・・・ごめん、作戦失敗した」

凪佐がそういいながらペンダントを手渡す

「・・・仕方ないよ・・・ボクだって誰かに打たれて落っこちちゃったし・・・」

ペンダントを首にかけようとする凪斗は違和感を感じる
首にチョーカーのようなものがつけられている感覚がした

「凪佐・・・ボクの首何かついてる?」

「え?あ・・・本当だ、なんかデスゲーム系の作品でつけられてそうな機械がついてる・・・はい鏡」

「本当だ・・・何これ」

「簡単に言うとスタンガンです」

そこに立ち入った看護師が言う

「あなたがこの病院の敷地から一歩でも足を踏み出せばそのスタンガンから電流が流れ、気を失うことになります、くれぐれも脱出など考えないように」

「そんな・・・!」

看護師がその場を後にすると凪佐が泣き出す

「何で俺たちなの・・・?母さんいつも家にいないし、家事しないから一人で全部それやって・・・仲のいいお兄ちゃんはずっとこんなで・・・」

「ごめんね・・・」

「凪斗は悪くないのに・・・なんで・・・ほんとなんで・・・!」

凪斗が凪佐の涙をぬぐいながら言う

「・・・カフェスペースでケーキ食べよっか、場所は違っても、仲良し兄弟、誕生日パーティーしよう」

「・・・うん、・・・そうだねあ、凪斗はチョコにしてよ!俺はイチゴにするから」

「分かってるよ」

2人は仲良さげにケーキを食べに向かった
この裏でとんでもない事実や事件が発生していることも知らずに、幸せそうに