P-F 08

「えー、はい、君の名前は何ですか?」

「神楽坂紫苑です」

「君の立場は?」

「あんたの息子です・・・って父さん、この質問何?」

「はぁー・・・あのね」

紫苑の父親が椅子に座らせた状態の紫苑に説教を始める

「もー!心臓止まるかと思った!!何?出勤しようとしたら鍵がなくて仕方ないからそのまま出勤、管理室の鍵がかかってないと思ってあけたら高熱出して意識のない息子!!とりあえずゲートだけ開けてその足で病院行ったら体力の消耗のしすぎ!!はい、ここでの父の心境は?」

「パニック?」

「正解だけど俺は言いたいのはそういうことじゃない!!」

「わー・・・じゃあ何が言いたいの?」

「2年前自分の管理不足で息子のそんな体にしちゃった上にその息子がまた無理して隠蔽してって・・・頼むからもう少し自重してくれ・・・了承できないならバイト禁止にするぞ」

「えーっと・・・まずは面倒ごと押し付けてごめん、バイトは続けさせて、あと2年前の事件はボクが勝手にやったことで父さんは」

「10歳の子供が下手したら死ぬ事態は俺の責任だろう・・・はぁ、もういいや、とりあえず無許可でゲート作らないで、他の王族に合わせる顔がない」

「はい」

「あと、今回の件は俺がちゃんと何とかするから良いけどもう二度とこんな無茶しないで、俺ですらゲート作るの大変なんだから」

「はいはい分かった分かった」

「今背中で指クロスしてないよね?また無茶するつもりだよね?」

「はぁ・・・お見通しってわけね」

紫苑が両手を見せ言う

「俺の家族はもうお前だけなんだから頼むから・・・頼むから無理しないでくれ、それにお前の命は一人の命じゃないんだ」

「「死神族全員の命をいずれ背負うかもしれない」でしょ?耳にたこが出来るほど聞いたよ、でもぶっちゃけボスがいなくてもリーダーがいれば国は成り立つものなんじゃ?事実天使族は王様がいなくても成り立ってるんだし・・・あ、いっそのこと全種族の王様やりなよ父さん」

「無理言うな、死神族の業務と天使族の業務半分でお前と一緒にすごす時間すら取れないんだぞ一人で背負えるか!」

「いや、だからメイン一人にサブ二人みたいな」

「はぁ・・・その話はもういい、それで、何で今回そんな無茶をしたんだ?」

「あぁ、皇霧斗の見つけた子が「絶対天使プロジェクト」の「ベノムキッズ」だったからね、このまま天使に捕らえられてたら「絶対天使プロジェクト」が実行されちゃうと思ったからだよ」

「何で父さんに相談してくれなかったの?それって重要だよね?」

「百合子さんには相談したよ」

「そういう問題じゃない!!って言うか何で親の俺より先に百合子を頼ったんだ?」

「だって、地上が一番安全じゃん、小さいころから百合子さんにはお世話になってるし・・・」

「はぁ、まぁお前の言い分は分かった、だがお前は時期死神族王であることの自覚を持って行動してくれよ」

「はーい、これからも創造世界の住民全てが平等にすごせるようにがんばりまーす」

「紫苑!!」

父親が少し後ろを向いたスキに紫苑は部屋から出て行った

「はぁ・・・まったく・・・2年前の事件のこと少しは意識してくれよ・・・」

父親がそうつぶやいた



「絶対天使プロジェクト」今は行方不明の天使王が企てたろくでもない計画
簡単に言うと、すべての生物を天使の奴隷にするための計画
どうやら、父さんが即位した時点ですでに計画は始まっていたようで、父さんもどこかで何かおかしいと勘付いていたらしい
って言うのも、天使の妊婦が次々行方不明になっては流産をして帰ってくる、死神と悪魔にそんな現象は起こらないのに、なぜか天使だけ
不審に思った父さんは、不可解な事件を担当する警官、特殊警官を使って調査をしたんだけど、どの人も行方不明になるか死体になるか、何の情報も得られないかで帰ってきた
当時、特殊警官をやっていた母さんも反対する父さんを押し切って調査に出向いたらしい、そしてひとつの情報を持ち帰ってきた、ただし命と引き換えに、体内に情報を入れて、だけどね
母さんは決死の覚悟でこれを飲み込んだのだろう、体内から取り出されたノートの切れ端には有益な情報が入っていた

「天使に逆らうと苦しみながら命を落とす薬品の開発に成功した」

ただこれだけの文章だったけれど、危ない計画が立てられている証拠としては十分だった
これを理由に天使、死神、悪魔の警官総動員で研究所から人質を解放し、この事件は終わったはずだった
これはボクが10歳のときの話、死神王の親を持ち、子供であることを武器として自覚していた上に同年代の中では強かったから調子に乗ってしまった
数年前に保護された妊婦の子供が次々と死ぬ事件が発生した、と同時に同じように妊婦が行方不明になる事件が発生した
無断で事件の調査書を読み漁っていたボクはなぜか、自分がこの事件の尻尾をつかめる、そう思っていた
そして早速父さんに直談判をすることにした

「あのさ父さん、この事件って場所まで割れてるんでしょ?だからボクが潜入調査したいんだけど」

「ダメだ!これがどんなに危険なことなのか分かっているのか?下手すると死ぬんだぞ」

「大丈夫だって、だからさ、ね、お願い!!」

「はぁ・・・紫苑、いいか、このことは見なかったことにしろ」



といわれて引き下がるような子供ではなかったから当然潜入したよ、今思うと何で忠告を聞かなかったのか本当に謎だ
その場所が雑貨屋の地下室だったから迷子になったって言えばごまかせる、なんて軽い気持ちで潜入した
そこに広がっていたのは牢屋とよく分からないマシン、それからおびただしい量の薬品と呼吸が止まるほどの強い臭い
物陰に身を隠しながらボクはひとつのメモリーカードを手にした、そこに戻ってくる研究員

「あれ?ここにおいておいたメモリーカードは?」

「しらねーよ」

「おい、やばいって、あの中には重要なデータが」

「何でそんなもんおきっぱなしにしたんだよ・・・」

その言葉を聞いてボクは、母さんと同じ道をたどる決意をした
メモリーカードを無理やり飲み込むと息を潜め出口を目指す
まぁ、ここで逃げられるほど甘くはなかったけどね、むしろ潜入できたことが奇跡だ

「おいお前!!どこから入ってきたんだ!?」

「ふぇっ・・・ごめんなさい・・・パパと雑貨を見にきたら変な臭いがして入ってきちゃったの・・・」

「はぁ・・・で、どうするよ」

「どうするってこうするしかないだろ」

研究員の手にもたれる注射器、押さえ込まれる体、当たり前だ、子供だからこそ口封じではそうするしかない

「やだ!やめて!!」

「ごめんな、侵入者はこうする決まりなんだ・・・」

小さな痛みと共に発せられる爆発的な熱さと痛み、体内から体が破壊される苦しみ、叫んで暴れまわった
そのうち意識が朦朧として・・・そこから先の記憶はない
ただ目を覚ますと大量のチューブにつながれて身動きが取れなかった
目を覚ましてある程度体調が回復して面会が許されたら、父さんには思い切り泣かれて叱られた、と同時にほめられた
どうやらボクが持ち帰ったメモリーカードの中のデータは、計画の全貌と被験者のリストだったらしい
そこで発覚したのはおぞましい事実「天使の胎児に投与された毒は、15年かけて熟成され、命を絶つことで世界に毒薬が散布される存在、「ベノムキッズ」」と言う存在がいるということだ
そしてこの実験で生き残ったのは今のところ、ただ一人「松葉凪斗」という少年だ
たとえ15歳を迎える前に死んだとしても、15歳に近い年齢であればあるほど毒の被害は大きくなる、年を取る前に死なれる事を恐れた天使は松葉凪斗を監禁したという
まったく、創造世界の人間は死んだら遺体を残さず霧になるという特性を生かした嫌な方法だ
それからボクは、「松葉凪斗」の行方を追いながら、アルバイトが出来る年齢に達したら魂回収関連のバイトを始めて情報を探った
そして思わぬ収穫があったのは皇霧斗がこの松葉凪斗と交流を持ったことだった
だから、多少無理をしてでも、強引にでも逃がすことにした
その場でゲート作るなんて健康体の父さんですらかなり心身にダメージが来る方法、それを毒で体がぼろぼろのボクがやったんだから案の定ぶっ倒れて病院へ
どっちにしろ父さんに言うつもりだったけど言う前にばれて冒頭へ

「とまぁ、怒られたし注意されたけど何とかなったよ、今はその百合子さんから連絡待ち」

「ってさらっと色々と言ってるけど要するに紫苑は死神王の息子だからゲートを故意に開けられたってこと?」

「ごめん、王の子供だってばれたら対等に接してもらえないと思って・・・でも、話さなければ怪しいままだなって方が勝ったから話した」

「まぁ、びっくりしたけど納得」

「ちなみに父さんの堪忍袋メーターは2まで来てるから次で家庭教師で家に監禁だって」

「まぁそんな無理を平気でする息子ならそうするかも・・・」

「あはは・・・」

苦笑いを浮かべる紫苑のスマートフォンから流れる電子音

「あ、百合子さんから連絡・・・」