P-F 05

「柳先輩ー、ホバーシューズ壊れちゃったんで見てもらえませんか?」

「いいよ、あぁ・・・これちょっと修理必要だな・・・時間かかるから持ち帰っていい?」

「え?直してくれるんですか?」

「うん、これぐらいならうち直せるよ」

「じゃあお願いします」

「よし、ついでに改造していい?最速で音速ぐらいの速度が出るやつ」

「常に使うものなのでやめてください、そんな改造するなら電池のもちをよく・・・っていうか、皇霧斗は何でそんなに頭抱えてるの?」

「あ、いや、大丈夫」

「この間一緒にお見舞い行った天使族の・・・凪斗くんだっけ?彼に何かあったの?」

「白夜さん・・・いや、そうなんですけど」

「あぁ・・・あのいい子そうな子ね、病院にいるほど不健康そうには見えなかったけど」

「それです!!本人も自分の病気の事知らないんですよ!!」

「患者は知る義務があるんじゃないか?」

「だからよく分かんなくてもやもやしてるの!!」

「じゃあちょっくらうちが病院にハッキングしてカルテ盗もうか?」

「柳さんは簡単に法を犯そうとしないでください」

そんな会話を霧斗がバイト先でしている今はすでに夏も過ぎた秋
凪斗は未だ自分の病気もよく知らず日々をすごしていた
霧斗は定期的に来るものの、凪佐が来る頻度は減り、タブレットと本が友達になりつつあった
その日の夜、凪斗は寝付けず飲み物を購入しようと廊下に出る
廊下の隅のほうで医者が歩いているのを見かけると、その医者が何かを落とした事に気づき凪斗はそれを拾うために廊下を小走りで走る
落とされたのは自分のプロフィールの書かれた書類だった
自分の主治医だったのかな?そう思った凪斗がカルテを届けようと医者を追う
たどり着いたのは地下室であり、そこは普段鍵をかけられ厳重に管理されている部屋であり、患者が立ち入れないような部屋だ
凪斗が半分あきらめながら扉に手をかけると運の良いことに鍵がかかっていなかった、嫌な予感はしたが凪斗は部屋へと入ろうとすると声が聞こえる

「で、あの子はどうなんだ?」

「順調だよ、順調に毒が仕上がってきている、これなら15歳の誕生日に無事目的は達成されるだろう」

「あぁ・・・楽しみだな、すべての生き物が天使族にひれ伏す日が」

「しかしまぁ、この子もかわいそうだよな、天使族のために殺される羽目になるなんて」

「まぁ、毒の散布の仕方が俺たち創造世界の住民が死んだら肉体が霧になるって言う性質を利用したものだからな、・・・そういやあの子なんて名前だっけ?」

「あぁ、松葉凪斗だよ」

名前を聞いた瞬間凪斗は息を飲んだ

「あれ?カルテがない・・・」

近づいてくる足音、履いていたスリッパを脱ぐと出来るだけ足跡を立てないように凪斗は全速力で走り病室へと戻った
その日は、眠れなかった
翌日、血を抜かれた凪斗は針を刺された瞬間生きた心地がしなかった
このまま針のずれが起これば殺されるのではないか?
何事もなく終わった瞬間、凪斗はため息をつきながらベッドに倒れこむ
その瞬間ノック音がし、返事と共に凪斗が身構えると入ってくるのは凪佐だった

「久しぶりー・・・ってずいぶん顔色悪いしクマもやばいけどどうしたの?」

「凪佐・・・凪佐あああ!!!」

「どうしたの!?」

凪斗が言葉を詰まらせながらすべてを説明した

「どうしよう・・・このままじゃ殺されちゃう・・・」

「・・・何とかしてあげたいけど俺には無理だよ、課題が多すぎる・・・」

「凪佐・・・助けて・・・」

「・・・学園もちゃんと脱走できなかったのにもっと厳重なここなんか無理だろ!!もうなんで!!!こんな事ならいっそ一人っ子が良かった!!」

「・・・そうだよね、ごめん」

「あっ・・・違・・・っ・・・」

凪佐がその場から走り去った
この事がきっかけか凪斗はしばらく眠れなくなり、外見にも気を使わなくなった結果、髪もぼさぼさになって行った
凪斗がどれほどやつれても凪佐はやってこなかった
霧斗が訪れると凪斗の変わりように驚いたように声をかける

「凪斗!?何でそんなにやつれて、髪だって、目の下だって・・・」

「あぁ・・・霧斗・・・実は・・・」

凪斗がすべてを話しきると乾いた笑いを浮かべて言う

「もう死んじゃおうかな・・・?」

「ダメ、死んだらボクが嫌だ」

「でも」

「大丈夫、だから何とか逃げよう、それで生きよう」

「うん・・・」

その後霧斗がバイト先に顔を出すとあまりに深刻そうな顔をしていたのか最年長の白夜が声をかける

「霧斗、どうした?だいぶ顔がやばいけど・・・」

「実は・・・」

霧斗がすべてを話すと真っ先にイブが口を開いた

「それって、15歳の誕生日までにあそこから逃げ出さないと霧斗くんの親友が殺されてすべての生き物が天使族にひれ伏すようになると・・・」

「そういうことだね」

「正直意味わかんない話だけど・・・」

「でもま、それが本当だったらやる事は一択だな」

白夜が言う

「助けよう、凪斗を、だってこっちは悪霊をぼこぼこに出来るぐらい強いイブにコンピューターに強いヤケイ、それと顔が広い紫苑がいるんだぜうちとお前はまぁ・・・」

「待って、俺は助けるなんていってない」

「ヤケイ・・・」

「手伝いはするけど、直接助けには行かない、顔を見られたらやばい年だし、白夜だってそうでしょ?」

「それは・・・うん・・・」

「・・・よし、悪用するか、少年法」

「紫苑・・・」

「人命がかかっている以上悠長な事は言ってられないでしょ?父さん顔広いから後の事は何とかしてくれると思うし・・・」

「分かった、そういうことなら裏から動くよ」

「う・・・うちも!」

「とりあえずスタンガンと見張りさえ何とかなればいいよね、柳先輩写真でナンバリングとか分かればスタンガン解析出来る?」

「あー・・・なんとなくは」

「イブは見張り何百人とボコれる?」

「もちろん!」

「じゃ、決まりだ、決行日を決めてやるよ、大脱走」

「おー!あ、でもどこに逃がそう・・・」

「地上はどうかな?そっちにも知り合いいるし」

「でもゲートは?今はなぜか天使族の扉は開かないから死神族か悪魔族の扉を使わないといけないよね、どうやってどこまで連れて行くの?」

「・・・がんばればその場でこじ開けられると思う・・・からそこは任せて」

「え?本当に大丈夫なの?紫苑」

「・・・がんばる」