10

「ン?Dr.!!あれ!!」


クロはしばらく流されると腕を引かれる感触で意識を取り戻した

そこにはエリクシルとDr.バルチャーがいた


「大丈夫ですか?クロさん・・・」


「私・・・ユキちゃんを殺しちゃった・・・・」


「え?」


血の付いた絵筆を見つめながらクロが泣く


「でもこれで安心してる私がいるのが許せない・・・私はどこかでユキちゃんに嫉妬してた・・・」


「それは・・・?」


「私はいつだってそうだ、他人の優れた点に嫉妬して、汚点探しに必死になって、その人が不幸になったり汚点を見つけたら安心して・・・」


クロがつぶやく


「・・・私、最低だ、自分のつまんない嫉妬なんかで他人を犠牲にして優越感に浸って生きてるなんて」


「クロさん・・・・」


「ねエ、クロはトラシーウィザードの秘密知ッテるンだヨね?」


「え?あれ・・・・?」


クロは自分の記憶を整理したが、自分が最初に与えられた秘密以外分からないことに気がついた


「そういえば分からない・・・・」


「ジャあ、まダ大丈夫!!殺シてナンかないヨ!!トラシーウィザードは生きテるヨ!」


エリクシルがクロの手を握りながら言う


「そうだよね・・・・きっとそうだよね・・・・!」


クロが涙を拭きながら言った


クラウンヘッドとの戦いを終えたシュンヤは二人を探し走っていた


「クロー!!!!トラシー!!!!」


シュンヤが叫ぶ

曲がり角を曲がったところで血まみれで倒れているトラシーウィザードを見かけるとシュンヤは近づいた


「トラシー、トラシー!!」


シュンヤが声をかけるが氷のように冷たくなった体のトラシーウィザードは一切リアクションを起こさず目を閉じていた


「あー・・・し・・・んじゃったのかな?だとしたら・・・」


「だとしたらなんだ?」


シュンヤに抱えられた冷たいからだのトラシーウィザードが目を覚ました

シュンヤは驚いて両手を放すがトラシーウィザードはすぐに対応できなかったためその場に倒れ後頭部を強打した


「痛っ!!」


「わああああああ!!!すいません!!!」


「いや、いい、それより起こしてくれる?死後硬直まだ解けてないから自力は無理だ」


「は・・・はぁ・・・・?」


片手を伸ばしながらシュンヤをイライラした表情で見つめた

シュンヤがトラシーウィザードを起こすとトラシーウィザードは準備体操をしながらシュンヤの質問に耳を傾けた


「あの・・・あの失血量と胸の血・・・なんで生きてるんですか・・・?」


「何?生きてちゃ悪い?」


「あ、いえ、純粋な好奇心です」


「好奇心な・・・・ボクみたいに魔力の強い魔法使いは、何かと命を狙われやすい、だからああやって自分を仮死状態にして身を守る魔法を使うんだ」


「あぁなるほど・・・」


「で、あの時は致命傷負ったから、仮死状態のまま体力を回復する魔法を使ったってだけの話だ」


「いい作戦ですね」


「あながちそうでもない、トリックスターに負けたからボクの勝率下がった、今まで何度か負けてるからもう後が無いかも知れない」


「大丈夫ですよ!!」


「いやいや、大丈夫だったらこんなに取り乱してねえし・・・あーっ!!ニコチン切れ!!あの野郎!!」


「あ、それ取り乱してたんですか・・・・あ、そうだ、これ差し上げますよ」


「これ?」


シュンヤがポケットからタバコの箱を取り出すとトラシーウィザードに渡した


「はい、どうぞ」


「おぉ!!これはボクの愛用タバコ!!でもなんでこれを・・・?」


「あ・・・・いえ、たまたまですよたまたま」


「ふーん・・・まぁとにかく助かった」


トラシーウィザードは嬉しそうな表情でタバコをくわえるとそれに火をつけゆっくり吸い、煙を吐き出した


「あー・・・・・やっと落ち着いたわー・・・・」


「そうですね、表情も明るいですし」


「・・・シュンヤ」


「はい?」


「ボクは、お前の口調が一瞬変わったの聞き逃さなかったからな」


「っ!!」


シュンヤが声にならない声を上げた


「・・・・だったら何?」


シュンヤが戦闘体制に入る

トラシーウィザードは平然と首をかしげながら「何でそんなに抵抗するんだろう」とでも言いたそうに言う


「いや、別に、ただ何かしら理由があるんだろうなって」


「え?」


「今は話さなくていい、でもいつか話せるときが来たら、シュンヤのこともっと教えてくれよ、ボクのことも出来る限り教えるからさ」


「・・・・はい」


「でもな、これだけは言っておく、自分が1分後には生きていないかも知れない体だっての思い出したからな」


「え?」


トラシーウィザードがシュンヤに告げる


「トリックスターが倒せるのはお前だけだ、だから、お前だけは死ぬな」


「へ?」


「ゲホッ!!ゲホッ」


「うわっ!!トラシー!!!」


盛大にむせて口から血を流ししゃがみこむトラシーウィザードにシュンヤが声をかける

荒い息を整えながらトラシーウィザードが手の平をシュンヤに見せる

真っ赤になった口周りと同じ、赤い血が付いた手だった


「ほら、ボクに残された時間は少ない、正直さっきの戦いはボクにとっての限界だったんだろうな・・・」


「・・・分かりました、一刻も早くトリックスターを殺します!!彼を殺せばゲームは終わりますもんね!!」


「あぁ・・・頼んだ、じゃあボクは休んでるからな・・・」


「はい」


走り去るシュンヤの背中を見つめトラシーウィザードは疑問を口にした


「あれ・・・?ボクはトリックスターを殺したらゲーム終了とは言ってないよな・・・?」


トラシーウィザードが考える


「みんなが知ってるルールにはそんな事書いてないはず・・・じゃあシュンヤは・・・?」


トラシーウィザードが疑問を飲み込んだ