08
「ユキちゃん・・・こいつは殺せないって・・・?」
「・・・・最も遭遇したくない相手・・・って言うのが分かりやすいか?」
トラシーウィザードが箒をかまえ言う
クロも絵筆をかまえる
「ふふっ・・・・感じるよ、表面上は真っ白だけど、心の中は黒いものでいっぱい、表面上は真っ黒だけど、心の中は真っ白い」
「あぁん?お前何言ってるんだ?」
「あぁ、気にしないで、君たちの過去をちょーっとばかし調べさせてもらったんだ
クロがその言葉に落ち込み始める
「・・・・」
「棗、ここは何とかして勝つか逃げるぞ、まぁ防御系でもちょっと努力すりゃ何とかなんだろ、だから援護を」
「見透かされちゃったんだ、ユキちゃん以外の人に」
「はぁ?」
クロがその場に座り込む
「・・・・ユキちゃん以外の人にも分かるぐらい・・・私・・・・私・・・」
「棗!!今はそんな事言ってる場合じゃない!!愚痴ならあとでいくらでも聞くからまずは何とかすることを考えてくれ!!」
「・・・逃げてどうするの?人間、根本的なものなんて変わらないよ、それにたとえ変わったとしても、回りからの評価なんて変わらない」
「っ!!バカ!!じゃあ今まで何のために頑張ってきたんだよ!!」
「・・・ユキちゃんには分からないよ!!私のことなんて!!」
「そりゃ分からないけどな、お前は・・・」
「クロちゃんが、なんだい?」
トリックスターがトラシーウィザードに微笑みかける
トラシーウィザードがぞっとした顔をし箒を構える
「あれ~なんで俺に向かってそんなの構えてるの~?酷いなぁ、俺は非武装なのに」
「お前マジシャンだろ?どこにでも武器は隠し持てる」
「あぁ、ばれてたのか、でも・・・その魔力の付きそうな体で何ができるの?」
「!?」
「知ってるよ、君本当は腕を上げるのもしんどいぐらい弱ってるのを魔法で補ってるんだよね?でももう魔力足りないんじゃないの?」
「黙れ・・・・」
「目の下、真っ黒じゃない、魔法使いの魔力回復は睡眠からしかできないんでしょ?それに」
「だっ・・・黙れ狂人!!なんでお前がそんなこと知ってるんだ!!お前狼かよ!!」
トラシーウィザードが叫んだ
トリックスターから笑顔が消える
「へぇ・・・俺のことよく分かってんじゃん・・・」
「やべっ!!」
トラシーウィザードが逃げ出そうと構えたがクロの状態を見直し箒を構えなおした
本能レベルで恐れ、体が震え歯を鳴らし、トラシーウィザードは恐怖に耐えていた
ゆがんだ笑顔をトリックスターに見せ、必死に余裕を装っていた
「弱い犬ほどよくほえるって言葉知ってるかい?」
「はっ・・・・この場合弱い犬はお前ってわけか?」
「えー、俺はそんなに怖がってないよー怖がってるのは君の方でしょー?」
「・・・・」
「そりゃそうだよねー、君は狼である俺を殺せないもんねー、今ここで攻撃食らったら死んじゃうもんね、アイスミストくん」
「その名前で呼ぶな!!この愚民ふぜいが!!」
その言葉を聞いた瞬間トリックスターがトラシーウィザードを突き飛ばし首を絞める形で押さえつけた
トラシーウィザードがその手を空いている手で握り苦しそうな顔でトリックスターを凝視する
「うるせえんだよ、何も知らない反抗的なクソガキの癖してえらそうな口きいてんじゃねえよ」
「っ・・・・・ぁっ・・・・!ボ・・・クは・・・・何も知らない反抗的なガキじゃ・・・・ない!!!」
トラシーウィザードが箒でトリックスターの足を刺し凍らせるとトリックスターが手を放した
その隙を見てトリックスターの束縛から抜け出すとその場でむせ返る
「ゲホッ!!!!ゴホッ・・・・・」
荒い息を整えると再度箒を構えた
「あーあ、まだ生きてたんだ、俺は全員死んでくれないと困るのに・・・・」
「ふざけるな!!」
トラシーウィザードが叫ぶ
「ここにいるやつらはみんな何かしら自分を変えたいからここへ来たんだ!!自らの墓前に祈りを捧げるつもりで、自ら首をつるつもりで!!!」
トラシーウィザードが箒を振るいひたすら攻撃を続けた
トリックスターはそれを全て何事もなかったかのように避けた
「君の魔法、新人のナイフ投げみたいだ」
トリックスターがそうつぶやくと眼帯を外し、髪を下ろした
髪の隙間から金色の瞳と黒い目が3つ見える
「おっ・・・狼・・・・?本当に狼だったのか・・・?」
「へぇ・・・、4番目の秘密持ちなんだ君・・・って事は君、俺に殺されるわけには行かないんだね」
「うっ・・・」
「・・・おどろいた、もしかして9番目も知ってる?」
「・・・だったらなんだよ・・・・」
「・・・・子供を殺すのは気が引けるんだけど・・・本当に生かしておけない状況になったね」
「・・・・お前・・・・何でそんな悲しそうな顔してるんだ?」
「・・・・そりゃあ・・・殺したくはないからね」
「・・・・」
「でもこれで俺の願いはわかっただろ・・・・?俺は、この3つ目を治したいんだ、だから負けられない出来ればクラウンヘッドの1つ目も同時にね」
「・・・・・」
「それに、君の言うことは、俺も同じ気持ちだよ」
「あ・・・・」
トラシーウィザードが驚いた表情を浮かべたがすぐ冷静な顔に戻りタバコをくわえた
すかさずトリックスターがタバコを奪う
「なっ!!返せ!!」
トリックスターがタバコの箱を見せるとトラシーウィザードがとっさに自分のポケットを確認した
「おいストックまで取りやがって!!」
タバコを取り返そうとトラシーウィザードが近づき何とか取り上げようと手足をばたつかせるが身長の低い彼の手は届かなかった
「クソッ・・・・ニコチン切れでイライラする・・・・」
「じゃあこれあげるよ」
手渡されたのはミントガムだったがトラシーウィザードはそれを地面に捨てた
「良いからそれ返せ、常に吸ってないと落ち着かないんだよ」
「君、死にたくないからここにいるんでしょ?病気で長くないこと知っちゃったからさ」
「だったらなんだ?大会に勝って生き残ればどっちにしろ同じ話だろ?」
「・・・・それはすなわち・・・・俺をシュンヤくんに殺させなきゃいけないってことだよね?」
そうつぶやくとトリックスターは笑顔でタバコを握りつぶした
露骨に嫌そうな顔でトラシーウィザードがそれを見つめる
「なんでシュンヤのことを・・・?」
「んー・・・まぁ見てたからね、君たちの行動ある程度」
「マジかよ・・・タバ…あぁそうか・・・」
「ここに及んでまでタバコね・・・・でもま、もう吸う必要は無いよ」
「あ?」
「だって、もう数分後には息する必要すらなくなるからね」
「っ!!」
「まぁ生かしてあげても良かったんだけどさーそんなに生意気な態度取られて生かしてあげようなんて思うほど俺大人じゃないんだよね」
トリックスターが大量のナイフを投げつける
トラシーウィザードが箒を構えトリックスターの攻撃を防いだが、そのナイフの威力は協力で彼の氷のたてすら破壊してしまった
無防備になったトラシーウィザードの体にナイフが刺さった
砕けた氷の破片も体をかする
「痛っ・・・・!」
傷口を押さえた瞬間にトラシーウィザードの懐にもぐりこんだトリックスターがトラシーウィザードの腹部に殴りかかる
その衝撃で仰向けに倒れた彼の右腕を踏みつけ骨を折る、そしてその手のひらにナイフを差込固定した
「っ!!」
トラシーウィザードの声にならない悲鳴が短く聞こえた
その痛みにもだえる表情を見るとトリックスターは冷たく微笑み、トラシーウィザードのギリギリ手の届かないところまで飛ばされた箒を足で踏み折り始めた
何とかナイフを抜こうとしていたトラシーウィザードの左手が止まる
「箒が・・・!」
「残念、これで魔法は使えないね、だって魔力暴走してこの街ごと全破壊しちゃうかもしれないもんね」
「くっ・・・・」
トリックスターが冷静な表情で問いかける
「君はもっと生きたかったんだよね?」
「だったらなんだよ・・・・勉強たくさんしたいしもっと体動かしたい、ただ健康になりたいって言う些細な願い事を持つことは悪いことか?」
トラシーウィザードが問いかける
「ううん、人として当然だよ、俺は・・・・平凡な生活が欲しかったなぁ・・・・」
トリックスターがそうつぶやくとナイフを構えた
それをトラシーウィザードの胸の上に構える
「バイバイ、アイスミスト君、いや・・・こう呼ぼう雪波綾人君」
トラシーウィザードが厳しい目でトリックスターをにらみつけ、放心状態のクロのことを思い出す
とっさにトリックスターの足を払い転ばせると刺さっていたナイフを勢いをつけ貫通させる形で引き抜きクロの元へ走る
クロの手に握られた筆を手ごと握り一瞬ためらった表情を見せたが覚悟を決めたように自分の胸へと深く突き刺した
「がっ・・・・うっ・・・・」
言葉にならない悲鳴を上げる
その声でクロが我に返る
「ユキちゃん・・・・!?」
「棗・・・・これでボクの知ってる秘密は君のもの・・・だから・・・・」
ゆっくりと胸から筆を抜くと脈を打つ心臓の音にあわせて血が噴出した
動揺するクロを見つめるとトラシーウィザードは力ないクロを優しく川へ突き飛ばした
「え?」
クロは川へと落下する
「棗・・・お前は逃げ切れ・・・・」
トラシーウィザードが今にも泣きそうな笑顔で手を振りながらクロに言うとその場に倒れた
トリックスターがトラシーウィザードの胸に触れ、瞳孔を確認するとつまらなさそうに
「あーあ、自ら死を選ぶなんてね」
とつぶやいた