13

クロが絶えかねまどの外から空を見上げた

すっかり真っ暗で月明かりだけが寂しく町並みを照らしていた


「・・・なんでなのかな・・・?私みたいなクズが死ねばいいのに・・・なんでユキちゃんが・・・・」


「君はクズなんかじゃないよ」


羽ばたく音が聞こえクロが声の方向を向くとそこには少女が羽ばたいていた

銀色の髪に青い瞳、胸に輝くピンクの羽そして背中の白い翼


「・・・・天使?」


「そう、私はコハネ、音無小羽」


コハネが静かにそう言った

クロは彼女をしばらく見つめる


「・・・トラシーくんね・・・きっと大丈夫だよ・・・ここは天使や悪霊の影響を受けない空間だから・・・・本当はもうとっくに死んでるんだよ、彼」


「え?」


「一応自分の立場の権限で調べさせてもらったの、数十人の管理下の住民が姿を消したって、まぁ表向きにはその調査に来たんだ」


「あ・・・そう・・・っていうか表向きには?」


コハネが窓の枠に腰をかけ言う


「うん・・・実は私ある人を探しに来たんだ・・・・」


「ある人?」


「うん、そうだよ」


小羽が口を開こうとした矢先トラシーウィザードが部屋からとびだしてきた

輸血のスタンドが倒れ部屋に音が響き渡る


「・・・・!?」


「ユキちゃん!?大丈夫なの?」


「シュンヤ・・・・?」


そう言うトラシーウィザードをクロは心配そうに見つめる

そこにシュンヤが帰ってくる


「・・・・」


顔を上げたシュンヤは笑顔で言う


「終わりました・・・・Mine Funeral・・・・終わりました・・・・・」


「え・・・?本当に・・・?」


「うん、だからホラ・・・・みなさん運命変えられましたよ!!」


「シュンヤ・・・・?」


「こっ・・・・小羽さん!?」


「え?何?その気持ち悪い呼び方?」


「気持ち悪い呼び方?」


「普段あんた私のこと呼び捨てじゃんかそれに何?そのダッサイ服装は・・・」


「これはその・・・」


「え・・・?どういう事・・・・?」


「これは本来のシュンヤじゃないよ・・・私の知ってるシュンヤじゃないよ!!」


シュンヤが顔を上げにんまり笑う


「あーあ、黙ってたら運命変えて無事に帰してあげたのにな、ま、能力も返してもらうけどね」


「シ・・・シュンヤ?」


「でもまぁ、運命は変えてあげるよ、さすがの俺もそこまで外道じゃないさ」


シュンヤが指を鳴らすとトラシーウィザードが胸や体のいたるところに触れ、瞬きを繰り返す


「ユキちゃんどうしたの?」


「いや・・・病気の慢性的な痛みとか胸の苦しさが無いし・・・・視界がめちゃくちゃはっきりしてる・・・?」


「え?」


「そりゃそうだよ、彼には健康体をプレゼントしてあげたからね、君だって嫉妬心消えてるだろ?」


「あ!?」


「まぁ、まさかコハネに邪魔されるなんて思ってなかったけどな、あーあ、俺も大分抜けちゃったねぇ」


口調の変わったシュンヤは不気味な笑顔を浮かべながらそう言う

コハネから受け取った笛を取り出すとそれを地面に落とし踏み割った


「えっ!?シュンヤ・・・?」


「この世界に来たからには、幼馴染とはいえ許さないからね」


そうつぶやくとシュンヤは金色の音符のペンダントをポケットから取り出し、音符に軽く口づけをした

するとシュンヤの背中から左側にだけ白い翼が生える

その姿をみたトラシーウィザードが息をのみいう


「そんなまさか・・・ウソだろ・・・・?本当に存在したっていうのか・・・?カタヨクが・・・!?」


「え?なにそれ・・・?」


「えと・・・それは・・・」


「その名前で俺を呼ぶんじゃねぇ!!」


シュンヤがそう叫ぶが早いか、窓ガラスが派手に割れトリックスターが飛び込むのが早いか

床に散らばるガラス片を見つめ、シュンヤが冷静になる


「トリックスター!?狼であるあんたって死んだはずじゃ・・・?」


「クラウンヘッドの願いのおかげだよ、あいつは俺の願いをかなえた言ってのが願いだったんだ、だから生きていられた」


「よぉ、2つ目、中々似合ってんじゃねえか」


「ありがとう、それはクラウンヘッドにも言って上げてよ」


「・・・・」


そこに立っていたのは赤い目と青い目のクラウンヘッド


「なるほどな、お前の目だろ?」


「うん」


「もとからそこにあったかのようにピッタリだな」


「・・・ありがとう」


「ふふっ・・・・クロエやっと笑ってくれたね」


「ガスパール!!」


恥ずかしそうにクラウンヘッドが言う

シュンヤはその光景を見ながら露骨に嫌そうな顔をする


「なぁ、自分の立場分かってんの?君達」


「た・・・立場・・・?」


「あぁ分かってるさ、主催者さん」


トラシーがゆっくり立ち上がりながらシュンヤに返事を返す

平静を装おうと、できる限りゆっくりと口を動かしながら


「え?主催者?」


クロが状況を理解できていないのか、混乱したような声で言った

それもそうだ、ほんの数時間前まで仲間だった人間が突然こうなったのだから 

そんなクロをどうにかするためにトラシーウィザードが言う


「あぁ、ボクの知ってる秘密で「全員が生き残るためには狼を殺せ」ってのがあるんだ、でも秘密を他人に話すのは禁止」


「それで?」


「でもシュンヤはそれを知らないのに「トリックスターを殺せば戦いは終わる」そう言ったんだ」


「え?何でトリックスターを殺せば試合が終わるの?」


「狼だからだ、狼って言うのは金の瞳に黒の目を持っているんだけど、これはボクがとある人を殺して手に入れた秘密だ

つまりもうこの世にいないそいつとボクしか知らない情報だ、だからそれをシュンヤはそれも知らないはず、

ずっとそれに違和感があったんだが、案外簡単な理由だったな、それ知ってんの」


「そ、俺はこの「Mine Funeral」の主催者で、この世界を作り出した天使とも人間ともいえない存在さ」


「カタヨク・・・つまり、天使と人間の間にまれに生まれる翼を片方しか持たない歪な存在、実在するなんて思わなかった・・・」


トラシーウィザードが「信じたくない」とも言いたげな表情で吐き捨てるかのようにつぶやいた 

その直後、クロが重い口を開きシュンヤに問いかける


「・・・・シュンヤ・・・・何でこんなことをしたの・・・?」


「・・・世界はいつだって・・・異端を許さないんだ」


「え?」


「・・・例えば、白い肌の夫婦から生まれたのが黒い肌の子供だった、黒髪の両親から生まれたのが白髪の子供だった

 家族っていう狭い範囲ではその存在を受け入れてもらえるかもしれない、だけど一歩その輪から外れてしまったら・・・

 あとはもう迫害されて傷つけられるのを待つだけなんだよ・・・・」


「そんな・・・」


ショックを隠せないクロの言葉を遮るようにシュンヤが言う

まるでそれが当たり前のことで、それを不思議がる方が異常だとでも言いたげに


「だってそうじゃん、そんなことになったら真っ先に女は浮気を疑われ軽蔑される、男は憐みの眼を向けられる

んで、やがてその眼は子供にもわたるんだよ、心無いおせっかいをわざわざ口にする奴らのせいでね

最も・・・俺にはそれすらなかったけどな

俺は・・・生まれてからずっと・・・いろんな感情に耐えてきたんだよ、悪意にも憎しみにも、あらゆる負の感情を向けられてきたんだよ

・・・両親が生きているうちは、どれほどの悪意を持たれていようとも、俺は耐えられたんだ、それらを向けられても両親だけは愛してくれてたからな」


シュンヤが大きく息を吸い込み、叫ぶ

やるせない怒りをどこかへぶつけるように、左側からしか生えていない、白い大きな翼を揺らしながら


「だけど両親は殺されたんだよ!!天使が!!アンヌ・カドーの使用を恐れて!!両親が乗ってた飛行機は墜落したんだよ!!天使の襲撃で!!

 お母さんはアンヌ・カドーで人を傷つけたりなんてしなかった!!むしろその力で人々を喜ばせてた・・・・!それなのに・・・・あいつらは・・・・

お父さんもお母さんも!!!骨も残らないような形で殺したんだ!!!手元に残った写真だってけがらわしいってみんな燃やされた!!!」


「アンヌ・カドー・・・?」


「シュンヤのお母さんが持ってた、数百を超える不思議な力のこと、なんでそんなことになったかは分からないけど・・・」


取り乱すシュンヤに変わり、コハネがクロにささやく


「ま、この大会の参加者ってのはな、お母さんが死ぬ直前に解放したアンヌ・カドーに恵まれた人間か、魔法使い、または人を傷つけた過去をある奴らだ」


「じゃあ・・・この絵の実体化能力って・・・・」


「アンヌ・カドーだけど? ・・・・あのさ、クロ」


「え?」


「ここまでこれば、俺が何を言いたいか分かるよな?」


「!!クロちゃん逃げて!!」


「え!?」


コハネがクロを突き倒す形でシュンヤの攻撃をよける

シュンヤが物体浮遊の力で投げたそれは、コハネが旅立ちの日に渡した笛だった

笛は壁に当たり、粉々に砕け散った


「シュンヤ・・・?なんでこんなことを?」


シュンヤが左手をクロに向けながら穏やかな表情でいう


「返してよ、アンヌ・カドー、俺の母さんの力なんだよ、それ」


「・・・返すって・・・どうやって?」


「んー・・・大体の連中はそうだな」


シュンヤがテーブルの上のナイフを手に取り迫る

ナイフが握られていたのは左手だった

左利き、天使からは嫌われる傾向のある利き手であり、実質左利きの天使は他の天使と馬が合わず迫害されることが多い

シュンヤもその一人だった

左手に握られたナイフを見せつけるようにクロのほほに当て、言う


「殺して奪い取ってきたよ、研究員雇って殺さずすむ方法も探したけど、あそこまでべっとり能力張り付いてたらもう無理なんだって」


「なっ!!やめてっ!!!」


クロがシュンヤを突き飛ばす

盛大にしりもちをついたシュンヤがゆっくりと立ち上がり、言った


「もう・・・いいや」


「な・・・何が?」


「ここにいる奴ら生かして帰すより、世界ごと立て直した方がいいや、きっとお母さんもそのためにこの力をくれたんだよ!!アンヌ・カドーの全回収のために!!」


「違う・・・違うよシュンヤ!!」


「止めんなコハネ!!これは俺の問題だ・・・だからこの世界はぶっ壊す、お前らもろとも」


「やめて・・・やめてよシュンヤ!!」


「・・・分かった・・・ほら、あの灯台見えるか?」


「え・・・うん・・・」


「あそこの最上階で待ってる、お母さんの作ったあの歌を聴きながら、ね」


「・・・分かった、何としても止めてやるから・・・!!」


「そう、期待してるからな」


シュンヤがそう言い残すと、その場を後にした