旧P-F SideP

ピピピピピピピピ・・・・・

朝4時

いつもの起床時間にボクは目を覚ました

仕事の開始時間は6時ぴったり、準備を30分で終え30分前に出勤しようと思えばこんな時間に目を覚まさなければならない

本音を言うともう1時間くらい寝ていたいけれどそうも言ってられない

1分でも1秒でも仕事が遅れれば、4時間45分の睡眠時間を1時間ほど縮めることになるからね

ついでに給料も半分カット、天使社会は非常に厳しい!

あぁ、自己紹介が遅れたね、ボクの名前は松葉凪斗、人間年齢にして14歳

名前は日本人の名前だけど日本人ってわけじゃないよ

確かに、日本支部で働いてるけどね

さて、そうこうしてる間に家族分の朝食を作り終えてしたくも出来たから、自己紹介はこのぐらいにして、ボクはそろそろ出勤するよ

自転車で出勤だから、どれほど急いでも25分は切れないんだ

え?飛べって?そのほうが早いって?無理言わないでよ

ボク達が空を飛べる世界は下界だけ、天界は空を飛べるほど重力弱くないよ


職場に付いたボクが真っ先にすることは、誓いを立てること

ボクは静かにこの世界のルールの書かれた本の上に手を下ろす

今日の誓いを立てるために


「今日も世界のために、正義を貫くことを誓います」


自分だけの正義じゃない

誰かの正義も認めて、そして受け入れる

それがボクなりの正義だ

自分だけの世界に生きないで、誰かの世界を認め、受け入れ

自分の世界を広げていく

それがぼくなりの正義の象徴


誓いを立てることが終わればボクはすぐに仕事に取り掛かる

コンピュータを起動させ、中に入った今後起こす行動用のデータを起動し、下界の様子を見て、数字を改変する

そしてそのデータを参考に、今後起こさなければならないイベントを書いた紙を作成し、部下に配布していく

部下がそのイベントを終え、報告書を書き提出してきたら、その報告書に印を押し、すでに起こしたことデータにその内容がすんだ事を書き込んでいく

最後にその日に起こしたイベントの内容を上司に報告する、これがボクの一日のスケジュールだ

ボクの立場はいわゆる上級天使

上級と呼ばれる天使は各国で数人しか配置されない位の高い天使ってことになってて、かなりのお金と名声が手に入るってことで有名だ

ボクの場合どちらにも興味はなくて、素直に学校で勉強に励んで色んな知識を身に着けたことが認められたってだけ

そんなボクは寿命管理が主な仕事となっていて、日々下界を覗ながらボクは寿命を管理している

生き物の一生って言うのは、大体期間とイベントが決まっているけれど、それが起きなかったり起こせなかったりすることがある

大体の理由は、現世で悪さをする悪霊が人間に手を出したせいで、運悪く事故にあったりとかそういうの

しかも、案外天使というのは我が儘な物で、身勝手な行動で誰かの寿命を縮めたり永らえたりさせるきっかけを作ってしまうことがある

ボクは、本来死ななきゃならない人間や死んではいけない人間の寿命のコントロールの指示書作成とその報告書作成及びデータ管理が仕事だ

いわゆる「奇跡」や「急死」のきっかけを作っているのはボク達なのかもしれない

厳しい仕事だけど上級天使にしかやらせてもらえない仕事ということで誇りを持って日々仕事を重ねている

でもきっとここまでこれたのはコツコツつんできた地道な努力のおかげ

そのおかげで最年少でこの職に就くことが出来た

学校は中退することになって、自由な時間も減ったけど、頼られて悪い気はしないから、それなりに充実した日々は送っていた

でもいい事ばかりではなかった


「あー・・・疲れた、眠い・・・あぁ、でも家に帰ったら洗濯と明日の朝食の下準備しなきゃ・・・」


「な~ぎ~とっ!」


「わぁっ!!あ・・・天子?」


昔からの親友、天子美咲、前に一度だけ「美咲」って呼んだ事があるけれど、その時にボコボコにされて以来ずっと「天子」って呼んでる

女の子みたいな名前が嫌なんだってさ、可愛いのに

今は職場体験とやらでこの仕事の体験をしてもらってる

天使はこの寿命管理関係の仕事が1番儲かるらしいけど、詳しくは知らない


「これ、報告書」


「あぁ、ありがとう・・・でも出来れば11時までに出して欲しかったな・・・」


「出しただけいいだろ、文句言うなよ」


「それにさ、ちょっと文面として不十分かな・・・?だって」


「ごちゃごちゃうるせえよ!!あのな、お前と違って俺は学生なんだよ、職場体験で来てやったんだから一般社員と同じ要領を求めんな!!」


「あ・・・・うん・・・・ゴメン」


この光景を見られてしまったのが悪かったのか

ただでさえ「幼い」を理由にいろいろな人から嫌われているのにそれに拍車がかかって気がした

増える陰口や破られる報告書

それが原因でボクは徐々に廃れていった


「あ、おい、松葉」


「え?あ、はい」


「これ、今週分の報告書な!」


「え!?ちょっと待ってくださいよ、この仕事、終わったらすぐに報告書出してくださいって言いましたよね?終わった日付からもう5日以上立ってるじゃないですか、それに」


「うるせぇよ、部下の不手際ぐらいそっちで何とかしろよ、俺たちよりえらいんだろ?」


「これはフォローしかねますよ」


1週間分の報告書、しかもざっと見て10人分ほどある

これをこれから整理して管理データに打ち込んで上司に報告しなきゃならないの?しかも5日以上前の日付の?

怒られるのボクだよ?

嫌になりながらも文句を言っていては仕方がないと仕事をこなす

気分が極限まで沈みそう・・・

そんな時は必ず行く場所がある

地上の、ある路地裏だ

ここに食事の残りを持っていく


「ニー・・・ニー?」


名前を呼ぶと足元に出てくる

小さな小さな可愛い猫

ボクの唯一の友達

灰色の子猫のニー・・・

ボクは休憩時間の30分のうち数分をこの子と過ごす

連れて行きたいのは山々だけど、上司が猫アレルギーであり、両親が地上の生物を嫌う以上は遠慮をしなければならない

日々成長していくこの子を見ていると和み、仕事に誇りを感じる

そんな気持ちを残してボクはその場所を後にした


翌日

いつも通り食事を持って名前を呼んだ

呼べども呼べどもニーは出てこない

そんな時後ろから聞える声


「おいおい凪斗さんよぉ」


「・・・・下級天使の人達・・・?」


今思えばこの言い方は失礼だったかもしれない

でも、名前を知らない以上立場で形容するしかボクに手段はなかった


「お前の探し物は、これだろう?」


彼の手に握られていた

赤黒くすでに原型をとどめていない肉片

でもそこにわずかに感じる面影は

間違いなくニーだった


「っ・・・!!ニー!?」


この瞬間は、この哀れな亡骸を彼等が連れてきてくれた

そう思っていた

次の言葉が聞えるまでは


「そいつ、つまんなかった」


「え?」


「だってなぁ」


「あぁ、2人で蹴ってたらすぐに鳴かなくなってよ」


「だから毛皮だけでも有効に使ってやろうと思って剥いでやったのさ」


「なっ・・・なんてむごい事を!!」


「だからなんだよ?」


「え?」


「天使はやっぱ最高だぜ!どんな命も俺達しだいなんだからな」


「・・・・」


言葉を失った

全てを失った

誇りを失った

大声で泣いた

何度も吐いた

何度も叫んだ

何度も何度も


ボクなら助けられたのに、どうして気がつけなかったんだろう?

そう問いかけたけど答えは簡単だ、「ボクの負担すべき仕事に動物は含まれていなかった」

もうどうにもならないや


ニーのお墓を作り終えた時には、休憩時間の30分はすでに終わっていた

気持ちの整理が付かず半日だけでも何も考えずにいたかった

無理を承知でボクは半日でいいから休みをもらえるか頼んでみた

案の定というか上司は休む事を許してはくれない、朝の6時に始まり夜の12時に終わるこの仕事を

それどころかニーと過ごした時間を「くだらないサボり」と称して仕事の時間を朝の4時から夜の2時に変えられた

その上休憩時間も無しだ

いつ、寝ろと?

いつ、休めと?

文句を言っていても仕方がないから泣きながらでも手だけは動かす

涙をコンピュータにこぼせばしかられる

食事もとらずに(というよりも口にしたらすぐに戻すから食べられない)

眠らずにひたすら仕事に打ち込んだ


「もう嫌だ!!」


そんな日が3日も続けば誰だって気が狂う

上級天使であるボクも例外じゃない

大切な物を失った悲しみに沈む時間も与えられず

侵食の時間すらも奪われて、これ以上何を奪えば気が済むんだろう?


3日ぶりに帰宅時間を前と同じ時間に戻してもらえた

3日ぶりに家に帰ると両親と双子の弟が出迎えた

お父さんとお母さん・・・・何かを怒っているなぁ・・・

多分仕事の合間にニーに会いに行ったことだろうなぁ・・・

だって、ボクが仕事しなかったら、誰もこの家にお金入れられないもんね

それに、家の名を上げたのもボクだもんね

やっとベッドにもぐって寝ようとしたけど、そう簡単には寝かせてもらえなかった


「久しぶりだな、凪斗」


「凪佐、悪いけど寝かせてくれない?話なら明日聞くから」


「やだ」


双子の弟凪佐のくだらない嫌味や愚痴を聞いていると時間はすでに朝3時

出勤しなきゃ

翌日、仕事を終えて家に帰ると誰もいない

理由を発見するのは思ったよりも簡単だった、どこかに旅行に出かけた、ボクの稼いだお金で

そんなメモが残ってた

この日ボクははじめて手首を切った

右手に文字を刻んでいく


「殺してよ!!もう殺してよ!!こんな思いしてまで生きていたくない!!もう嫌だ!!嫌だ!!!」


天界にはいくつかのくだらないルールがある

その1つは、自らの肉体を傷つけてはいけないというもの

ボクは今そのルールを盛大に破った

生まれてはじめての全てにおける反抗的な態度

それほどまでにボクは・・・・壊れてしまった

我に返った時には、右腕にしっかり「Killing Me」の文字が刻まれていた

簡単に傷の治療を終えるとボクは完全に吹っ切れてしまっていた

全ての決意をつけるとボクは裁縫に一心不乱になった

少しもふもふした赤い布を、猫の耳と尻尾の付いたパーカーにしていく

その後

ボクは仕事で使ったコンピュータのデータのバックアップを取り

中のデータから外装から全てをを破壊した

バックアップを持っていれば、もしかすると何かあったときに強く出られるかもしれない

そんなささやかな希望を思い、バックアップは持ち出すことにした

これでここに残るボクの管理データはパー

約数億もの命のデータが、天界から消えたことになる

ボクが管理し改変したデータは全て消えた

思い残すことは何もない

ボクはそのパーカーを着込むと地上へ飛び降りた

ボクは天使である事を全て投げ出した

天使でいなくない、他の何かなら何でもいい

じゃあいっそ堕天してしまえばいいとも思ったけれど、残念ながらボクに悪魔になる勇気はない

だから、自分を人間と偽って生きていくことにした

今のボクは天界に思い残すことは何もない

人間として死んでおこう

もうこんな世界なんか、何の未練もないんだよ