霧斗過去編③

「さて」


伊吹さんが言う


「ここから先は厳しいよ、はっきり言って、武器も何も持たない君が上手く対応していけるか分からない、何か得意だったスポーツある?」


「特には・・・と言うか超運動音痴なので・・・」


「あ、そうだったの・・・・死神は運動神経良くないと勤まらないよ」


「あははは・・・」


「笑ってごまかしても意味ないよ、じゃあ何か特技はある?」


「マジック・・・・かな?特にトランプを使ったのとボールを使ったの・・・」


「十分、じゃあこれがいいかな?」


そう言って渡されたのがトランプと大き目のボールが2個ついたブレスレット


「これを操って戦うの、トランプはなんとなく分かるでしょ?ボールはこれを召還して戦うの」


「なるほど・・・」


「これなら、運動音痴のあなたでも戦えるでしょ?」


「はい、返す言葉がありません」


本当に、もう


「この辺・・・でいいはずなんだけど・・・」


伊吹さんはつぶやく


「あぁ!もう!!天使ほど仕事がいいかげんな種族はいないよ!!この目撃情報本当なの!?」


「え?天使ってそんなにいい加減な生き物なの?」


「えぇ、身勝手で自己中心的で最低最悪の生き物!!でも松葉君だけは信用できるんだよね・・・」


「松葉君?」


「うん、松葉凪斗君、 天使族なのがもったいないぐらいまじめで良い人なの・・・」


「そうなんだ・・・・」


「うん、日本の西の方の書類確認は松葉君がやってくれてるからいいんだけど東はね・・・」


「へぇ・・・」


急に伊吹さんの表情が変わる


「伏せて!!」


「え?」


伊吹さんに突き飛ばされる形でボクは倒れこむ


「何を!?」


「せええええええいっ!!!!」


伊吹さんが巨大な剣を振る

伊吹さんの身長よりも遥かに大きな

もやはこれは切るための剣じゃない、つぶすための剣だ


「伊吹さんその剣は!?」


「あぁ、これ?私の武器、「クロホックウィーちゃん」って言うの」


「クロ・・・ホック?ウィー?」


「クロウホエールクラッシャーウィップ、爪付の鯨つぶし鞭だよ、ハンマーよりもこっちの方が好き」


「あぁ・・・・そう・・・・」


ネーミングセンスとか色々と突っ込みたいけどとりあえず何が起こったのか混乱してきた

目の前に迫る真っ黒な影

たとえるならあれだ巨大な大牛


「うっうわああああああ!!!!」


「早くそれ使って!!」


伊吹さんが手首を指差す

あぁ、ボール爆弾ね!

ボクはボールを召還しては力任せに投げつけようとした

でも利き手が動かない、どれほど頑張ろうとも動かない


「え?何で?何で!?」


「霧斗君!!ちゃんと狙って!!ダメージ全然受けてないよ!!」


「えぇ!?」


っていわれましてもね!

初体験でそんなもの要求されても困るよ!

なんて甘いこと言ってられないんだよね、仕事って物は

ボクはとっさにトランプを銃の形にして打った

でも利き手じゃない右手では上手く打てない


「あぁもう何やってるの!!そんなんじゃ倒せないよ!!」


そういうと伊吹さんの剣が変形し蛇のようにしなり黒い影を巻き込んだかと思うとすぐにばらばらになった


「・・・・分かった?これが死神の仕事って物なの、パッと出の素人が出来るものじゃないの、私も今14歳なんだけど2年間がんばってきてやっとこうやって戦えるの」


「・・・・」


「悪霊狩りもね、死神の立派な仕事、運命を決め、それに従わせるのが天使、魂を運び、よからぬものを狩るのが死神、死後の魂のリサイクルと構成をするのが悪魔、分かった?君は魂リサイクルして転生するのが一番良いの」


伊吹さんは厳しいな・・・

でも、それだけこの仕事を誇りに思ってるんだろうしボクが手出しすること自体が場違い・・・・かな?


「そうだね・・・・付き合ってくれてありがとう」


「さて、じゃあ魂回収行くよ」


「魂回収ね・・・」


「はい、これかけて」


と渡されたのはメガネ、黒いフレームのアンダーリムの角メガネだ

伊吹さんもメガネをかけている

薄いピンク色のフレームのメガネだ


「ほら、あそこ、子供が泣いてるでしょ?」


「あ・・・うん、あの子を連れ出すの」


「どうやって?」


「あの手の子は、無理やり引っ張ってかないとやってけないよ」


「いやそれはどうなの?」


「子供っていうのはね、言って聞くようなものじゃないの、ちょっとでも甘い態度見せれば付け上がるし、強引にでも引っ張ってかなきゃ」


「じゃあボクが手品であやして連れて行くって言うのは?」


「うーん・・・なるほど・・・じゃあやってみて」


「うん」


ボクはその子供の前に立って飛び切りの笑顔とトークで手品をする

それぐらいはお手の物

下積み時代スーパーのイベントで手品やってきたから、子供の相手はお手の物


「ねぇ、君はもう死んじゃったから元の場所に戻ることは出来ないんだ、でもね、生まれ変わることは出来るんだよ、お兄さんがそこに連れて行ってあげるから、一緒に行こう」


ボクはそう言って手を差し伸べる

相手は手を握り返してくれた


「すごいね・・・霧斗君」


「え?」


「中々一発で子供を言いくるめられる人はいないの、霧斗君、さっきあんなこと言ったばっかりだけど、あなた戦闘は専門外で小児科・・・なら向いてると思う」


「じゃあ、お願い」


決意は決まってる

ボクは邪気を持った生き物が嫌いだ(って言ってる時点でボクは邪気の固まりなわけだけど)

子供好きなわけじゃないけど、邪気を持った歯止めも利かない同じと仕事のこと比べれば何万倍もましだ

それに、生き返る気力のないボクは、このまま死神でいたほうがいい

そう思っていたから


そしてボクは数年後に出会う

自分よりもよっぽど不幸な境遇に置かれた、誰からも愛されなかった一人の天使と

そして彼は、ボクの大切な親友になっていった