ある日私が仕事から会社に戻ると会社の中が異常に慌ただしかった
その中心は医務室だ、私も様子が気になり医務室に向かう
するとそこにはかなりの重傷を負った師匠の同僚、神崎さんが荒い息で血まみれで座っていた
「え!?神崎さんどうしたの?」
「間違ってたんだよ、指示書の内容が、天使のやつら、ちゃんと確認しなかったのか?」
「え?」
「指示書だと強くない悪霊がいるって話だったんだが俺と浅羽じゃ勝てっこなくて助っ人たちも」
「そんな・・・師匠は!?」
「・・・悪い」
神崎さんが謝る、しっかり言えないあたりにすべてを悟らされる
自分の血の気が引く感覚を感じる
死神が死ぬときは上級死神によりその魂をリサイクル工場へ運ぶ
というのは知っている
だからもう私にしようが見えないのは悟ってた
そこで私が感じたのは悲しみや絶望なんかよりも怒りだ
指示書をミスした天使にも、師匠を殺した悪霊にも、この理不尽な状況にもだ
気づくと私は剣を手に取り悪霊を次から次へとなぎ倒していた
そこへ来たフラフラの神崎さん
「白亜、気持ちは分かるが」
「なんで神崎さん師匠助けられなかったんですか!?なんで」
「・・・悪い」
「なんで謝るんですか!!そんなのってもう」
「白亜!!」
バシン!
ほほに痛みが走る、神崎さんにぶたれた
その痛みが興奮した私を現実に引き戻す
「・・・・すいません」
「俺こそ」
私はうつろな瞳で淡々と言ったらしい
「もう私何も感じたくないんです、だから、強くなって何者にも負けないようになりたい」
私は宣言通りありとあらゆる感情を殺し、いつもいつも誰かを不安にさせないために笑顔でいた
でも笑顔の仮面を外すと私には何もない
情が移るとどんなことでも辛くなってしまうから、だから私は感情を殺し強さだけを求めた
気が付くと私は師匠を超えた地位にいた
そして私は師匠を殺した悪霊の攻撃などかすりもしないほどの実力をつけていた
そんな中だった、神崎さんがある男の子を連れてきたのは
初対面で感じた印象は「自分を見てるみたいでむかつく」
でも社交辞令という言葉があるように私は何をされようとひたすら彼に笑顔で接した
ここまで腹が立ったのは本当に久しぶりだ
その眼からは闇しか感じないのに、顔は笑顔のままで話し方だって明るい
確信した「これは私だ」
でも実力を買って彼をこの会社へ入れた、何と言おうと小児科は万年人手不足だ
「あ、伊吹さん」
「何?」
相変わらずこいつは話しかけ続けてくる
私のむかつきは収まらない、しかも大体が意味のない会話
しかも会話を繰り返すごとにこいつの目は生気を帯びてくる
眼から感じる闇が徐々になくなって言ってる
それもまた私がむかついている原因だ
なんでそんなに早く闇を消せる?
「ねぇ伊吹さん」
「ん?」
「なんで伊吹さんボクと話すときそんなに苛立った顔するの?」
「え?」
「笑った方が可愛いのに、それに髪の毛伸びてきたね、可愛いよ」
「なっ!?」
私は思わず怒鳴りつける
「長い髪がそんなにいいの・・・?」
「え?」
「長い髪がそんなにいいかって聞いてんだよあぁん!?」
彼の胸ぐらをつかみ強く攻める
これは八つ当たりだ
まぎれもないやつあたりだ
「な・・・何々?」
「・・・もう寄ってこないで」
なんでだろう?彼はあの人とは違うのに、あの人ばかりが頭をよぎる
其れもまた私がむかつく原因だ
そこへ来る新たなるむかつく原因
「あれ?伊吹?」
「あ・・・天子くん」
そう、「元」カレ天子くんだ
にやにやしたいやらしい目つきで私に近づいてくる
「あれー?この間よりだいぶ可愛くなったじゃん」
「大きなお世話だ」
「ん?あぁ、暴力振るっちゃったことまだ怒ってんの?やだなーあんなん単なるスキンシップだろ?」
「うるさい!!」
「怒らないでって、俺ちょっと反省したからさーより戻そうぜ、な」
いやらしい手つきで私の腰に手をまわしてくる
気持ち悪い、嫌悪感が胸の中をかきむしる
やっぱり天使なんて大嫌いだ
「放せ!!もう私は天使なんかじゃないんだ!!お前等とは無関係なんだ!!」
「そう怒るなって、な、正直になれよ」
「ねぇ」
そう短く聞こえるのが早いか天子くんが吹っ飛ぶのが早いかは分からなかった
でもその一瞬で私は天子くんから解放されて彼に抱きしめられていた
その姿が彼とタブる
あぁそっか・・・彼は彼と同じ匂いがしたんだ
「嫌がってるんだから、さっさと手放してあげないとね、可愛そうでしょ?」
「なんだよてめぇ!!てめぇには関係ないだろうがよ!!」
「え?関係ならあるよ、だって今伊吹さんとボク付き合ってるからね」
「なっ!?」
「え?」
私はとっさにえ?と聞いてしまったがすぐに天子くんが私を責める
「どういうことだよ!!俺よりもこんな優男の方がいいのか!?あぁん!?」
「優男って・・・どういう意味か知らないけど決していい意味で使ってないよね今は」
「・・・・」
私は言う
「そっ・・・そうだよ私は今この皇霧斗くんと付き合ってるの!!だからあんたなんか眼中にないし二度と付き合う気もないの!!だからさっさと消えて!!」
「チッ・・・そうかよ」
天子くんはその場を立ち去った
天子くんの姿が消えると彼は緊張の解けたどっと疲れたという顔を表しその場に座り込んだ
「あぁー・・・怖かったー・・・」
「・・・ごめんね、元カレ元カノのごたごたに巻き込んじゃって」
「いや、ああいうのって見せつけないとわかってくれないでしょ?まぁ見せつけてもわかってくれない奴は分かってくれないけど」
「聞き分けがいいだけましってこと?」
「そうだね、でもごめんね、とっさに引き離すためとはいえあんな嘘ついて・・・」
「・・・広められたらどうしようとか思わなかったの?」
「それどころじゃなかったよ、それにボク日本語ちょっと不自由だからちゃんと対応できる自信なかったし」
「・・・・そっか・・・・ねぇ、霧斗くん」
「ん?」
「・・・広められる前にその嘘本当にしてほしいな」
「・・・君がそれでいいなら喜んで」
これが私たちのなれあいだった
あとで聞くと彼は私に一目ぼれしていたようで
そして私は幸せになれたんだと思う
師匠の事は未だに忘れられないし、霧斗くんに師匠がダブって見えることも多々ある
それでも私は今がすごく幸せだ
現状をつかめたことを本当に心から感謝します