In vivo 1H-NMRによる脳内Vitamin Cの検出

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(アスコルビン酸,脳内濃度,in vivo, 1H-NMR, MEGA-PRESS)

ビタミンCの構造式は,1933年にウォルター・ハース(1937年ノーベル賞)によって決定され,アスコルビン酸(scorbutic は壊血病 (scurvy) に冒されたの意味,最初に"a"を付けて否定)と命名された.同年,タデウス・ライヒシュタインがビタミンCの有機合成(醗酵法との組合せ)に成功した.前世紀後半には,ビタミンCの生化学的役割についての研究が進む中,ポーリング博士の発言の影響もあってビタミンCブームが到来した.コラーゲン合成における補酵素としての役割,強力な還元能によるスーパーオキシド(O2-),ヒドロキシラジカル(OH),過酸化水素(H2O2)などの活性酸素類の消去作用,脂質中のフリーラジカル消去で発生したビタミンEラジカルを再生させる機能などが代表的である.

ビタミンCは,小腸より吸収された体内臓器組織へ広く分布する.ビタミンCを多く含む組織として,脳下垂体,副腎,前房水(眼)などがある.脳の場合,ビタミンCは血流から脳への関門(血液脳関門 blood-brain barrier, BBB)を通過しない.このためアスコルビン酸に代わって,デヒドロアスコルビン酸がグルコース輸送を介して血液脳関門を通過して輸送され,その後にグルタチオンおよび他のチオール類によってアスコルビン酸に変換される.

人間の脳内には,検出可能な濃度で存在すると考えられるので,1 H NMR分光法(MRS)を用いて,インビボでヒトの脳内アスコルビン酸(ascorbate)を検出し,MEGA-PRESS difference editing 法によって 定量したという研究が報告(速報)された.注)脳内の微量物質は, 1 mmol/kg wet tissue 程度の濃度で存在すれば in vivo で検出できると言われている.

10年前の話であり,打ち上げ花火的に終ったかと思ったが,最近の関連学会の動向を見ると臨床実用化に向かって進歩している様子である.

論文タイトル 1H NMR Detection of Vitamin C in Human Brain In Vivo

著者 Melissa Terpstra* and Rolf Gruetter

所属 Center for Magnetic Resonance Research, Department of Radiology, University of Minnesota, Minneapolis, Minnesota.

雑誌名 Magnetic Resonance in Medicine (Magn Reson Med), 51:225–229, 2004.

Key words: vitamin C; ascorbic acid; human; brain; magnetic resonance spectroscopy

報告の概要:すべての測定は,400マイクロ秒で40ミリテスラ/メートルに切り替え可能な勾配を備えたVarian INOVA分光計(バリアン、カリフォルニア州パロアルト)に連結した4T,90センチ口径磁石(オックスフォードマグネットテクノロジー,オックスフォード,英国)を用いて行った.その結果,アスコルビン酸は,すべての研究被験者5名(男2名,女3名,平均年齢21歳)において検出され,MEGA-PRESS差編集(MEGA-PRESS difference editing,以下の説明を参照)を使用してデータ処理を行った.in vivoでの共振パターンは位置,線幅,ピークパターン,および相対強度において,アスコルビン酸のものと一致した.

論文掲載図の一部(緩和促進高速収集法,後頭葉の正中矢状面上の体積,スライス厚等の詳細は本文に記載)

4,5,6位のプロトンが検出可能

C6H2 m 3.73 ppm

C5H m 4.01 ppm

C4H d 4.50 ppm

NAA = N-acetylaspartate

この研究は,1H MRSを用いたヒトの脳におけるビタミンCの最初のインビボ検出例であり,その濃度は 1.3 ± 0.3 µmol/g (mean ±. SD, N=4) と推定されるとしている.

高磁場MRS装置とeditingという手法の組合せによって比較的微量な脳機能と関連の高い物質[ y-アミノ酪酸(GABA)等]の測定が可能になり,脳高次機能の障害の評価に利用できる可能性が考えられ る.実際,ある種の精神疾患においては神経伝達物質等の代謝異常の存在が示唆され,MRSでこれらの許価が可能とする報告も見られるとのことである.

MEGA-PRESS の原理

MEGA-PRESS は,周波数選択的な RF(電磁波の一種であるラジオ波)パルスを用いて,化合物中のプロ トンの磁化移動によって信号を励起して,磁化移動を行わなかったスペクトルと差分をとることで,目的の代謝物の信号のみを取得する方法である.J-difference editing 法の一つとされている.

MEGA とはこのパルスの発案者である Mescher と Garwood に由来する.最初に MEGA が登場するのは、1996 年の J Magn Reson (123: 226-229)である.MEGA-PRESS として最初に信号編集に用いたのは,GABA を対象とした研究[NMR in Biome (1998, 11: 266-272]である.その後,MEGA-PRESS は GABA の評価法として, 広く利用されるようになり,臨床検討での報告も増加している.

磁化移動

あるスピンの磁化(あるいは分極)を他のスピンに移すことを,磁化移動 (magnetization transfer) という.分極移動 (polarization transfer) ともいう.1Hの磁化を13Cへ移すことによって,13Cを高感度で検出することができる.

純粋な化合物の高濃度NMR解析に慣れた有機化学者にとっては,1H−MRSの波形はノイズのようなシグナルに見える.しかし,追跡する物質が未知物質ではなく既知物質であるので,ベテランが見ればシグナルの帰属は容易なのかもしれない.自動データ処理ソフトウエアの開発により,定量精度も上がり,体内代謝物の追跡手段としてのMRSの有用性は益々増加するものと思われる.

参考資料

・紹介した投稿論文は以下で読むことができる.

1) Wiley Online Library

PDF file

・MEGA-PRESSについては,徳島大学 原田雅史氏の研究発表,各種解説が参考になる.

・検出されている微量物質:N-acetylaspartate (NAA), creatine (Cr), choline (Cho) ,myo-inositor(Ins), glutamine (Gln), glutamate (Glu), taurine (Tau), gamma-aminobutylic acid (GABA), lactate (Lac) 等

(2016.2.19)