医療

第100回薬剤師国家試験:想定外の補正(薬学,医療,大学教育)

コレステロール摂取量制限撤廃:米国(医療,薬学)

薬歴未記入問題(医療,薬学,あきれた話)

シクロデキストリンだらけの生活(化学,薬学,医療)

健康長寿十則+アルファ

話題のピラジン系医薬品(医療,化学)

川崎病の原因は風で運ばれる細菌(医療)

くる病が増えている? (医療,化学,薬学)

国の喫煙者削減計画見直しを(熊本県議会)

6月27日夜のNHK熊本のローカルニュースを「ながら視聴」していたら,何となく違和感を感じる内容に「なに?」と思った.

放送直後には,主要なトピックスについてはその内容が放送局のホームページに掲載されるため,さっそく,その内容を文字情報として確認した.

以下に示す通りである.

ヒゴタイ (熊大薬 矢原先生提供)

NHK熊本のニュース

国の喫煙者削減計画見直しを

国 が、がん予防の一環として喫煙者の割合を今後10年間でおよそ4割減らして12%にするという数値目標を掲げたこと について、熊本県議会は27日の本会議で、「全国一の生産地である県内の葉たばこ農家に大きな影響を及ぼす」として目標の見直しを求める意見書を可決しま した。

政府が、今月8日に閣議決定した「がん対策推進基本計画」では、がん予防の一環として今後10年間で喫煙者の割合を現状よりおよそ4割減らして12%にす るという数値目標を掲げていて、県内の葉たばこ農家からは「需要がさらに落ち込む」などとして目標設定に反対する意見が出ていました。これを受けて熊本県 議会では27日の本会議に、国に数値目標の見直しを求める意見書が提案され、賛成多数で可決されました。

意見書では、「熊本県は全国一の葉たばこの生産地で、喫煙者を削減する数値目標の設定は、たばこの販売本数の大幅な減少を招き県内の農家に大きな影響を及ぼす」としています。

このほか、県議会は▼今後4年間の県政運営の指針となる75の重点施策を盛り込んだ「4か年戦略」や、▼総額808億円の一般会計の補正予算案などあわせて24の議案を可決して閉会しました。

06月27日 15時26分

今月8日に閣議決定された「がん対策推進基本計画」では.今後10年間で喫煙者の割合を現状よりおよそ4割減 らして12%にす るという.この数値目標について,県内の葉たばこ農家からは「需要がさらに落ち込む」などとして目標設定に反対する意見が出ていたとのことである.これを受けて熊本県議会では27日の本会議に,国に数値目標の見直しを求める意見書が提案され,賛成多数で可決された.意見書には,「熊本県は全国一の葉たばこの生産地で、喫煙者を削減する数値目標の設定は,たばこの販売本数の大幅な減少を招き県内の農家に大きな影響を及ぼす」としている.

新設の私大薬学部に再就職して定年退職するまでの5年間,医療従事者を育成する視点から学生の喫煙対策は大きな課題のひとつであった.最終的には「入学者は非喫煙者とする」ことを教授会で決定し,募集要項にも記載された.この話題は全国的なニュースにもなった.そのような経緯もあり,世の中は禁煙に向かっているものと思っていただけに,今回の報道には意外性を感じざるを得なかった.

世間に疎い大学という狭い世界の自己満足であったのだろうか.あの時,地元熊本県民はどのように感じたのだろうか.「定員割れの多い私大でそこまで言ったら自分の首を締めるようなもの」と指摘してくれた人もいた.筋論を言うのはカッコいい.だが,今回のような現実が存在するのも事実である.原発や基地に依存しなければならない生活はその典型的例である.

熊本は偉大な農業県であることを改めて認識させられた.

[PDF] 国におけるたばこ政策に関する意見書 たばこ事業は、たばこ事業法等に ...

このブログは2週間前に書いたものである.(2012.7.11)

薬学6年制_初国家試験

6年制課程に移行後,初の合格発表が行われた.

とりあえず新卒に限って国家試験の結果を調べてみた.

6年制課程の合格率

大学種別 入学者数 受験者数 合格者数 入学者数に対する合格率 受験者数に対する合格率

---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

国 立 486 484 455 93.6 94.0

公立 220 198 190 86.4 96.0

私 立 10614 7902 7537 71.0 95.4

総数 11220 8584 8182 72.9 95.3

入学者数に対する合格率をみると結論として出口規制に関しては目的を果たしているようである.合格者は総数8641人である.6年制以外の「その他」は1202名受験し合格率は38.2%であった.ちなみに4年制課程の最後の試験の合格者数は1万1300人(前年1万0487人)である.

6年制課程がスタートした際,薬剤師大過剰時代の到来と言われたが,大量の留年者を出しているため,その心配はないようだ.私大の場合,入学者の4人に一人は卒業できていないことになる.

6年制薬学教育の一期生が出た後,第三者評価が実施されることになっている.評価項目では,予備校化を防止するため,国家試験合格率は評価の対象には入っていないが,受験生や父兄に大学をアピールするには合格率しかないので,どこも国試対策に奔走したようである.

設置の際の審査では,真の大学教育が実施されるように卒業研究や卒論発表会等の実施が求められた.はたしてどのくらいの大学がそのための教育をやったか たいへん興味がある.4年制課程の時のような卒業研究の単位を国家試験対策講義で読み替えるようなことをしていたら6年制改革は失敗と言っても過言ではな い.4年制課程に実務実習をプラスしただけのものでしかない.

国家試験の内容についても暗記に頼る方式ではなく,応用力,問題解決能力を問う方式に変わると聞かされていた.今回の問題がそれに応える内容であったかも興味がある.予備校化の弊害を克服した真の大学教育がなされたか否かは,卒業生の活躍にかかっている.

薬事日報の記事

厚生労働省は3月30日、薬学6年制課程の修了者を対象とした初の薬剤師国家試験の結果を発表した。合格は総数8641人で合格率は88・31%だっ た。6年制に限ると8182人が合格し、合格率は95・33%となっており、近年の新卒が80%台後半から90%台前半で推移していることを踏まえると、 比較的高い水準と言えそうだ。厚労省は「医療現場で薬学教育の成果を存分に発揮されることに期待したい」としている。

国試には1万0644人が出願したが、受験したのは総数9785人で、このうち8583人が6年制だった。

6年制の試験結果を男女別に見ると、男は3432人が受験して3280人が合格、女は5151人が受験して4902人が合格した。合格率は男95・57%、女95・17%となっている。

旧4年制卒を含むその他は、男767人が受験して283人が合格、女435人が受験して176人が合格し、合格率は男36・90%、女40・46%となっている。

なお、今回は不適切問題2問、補正対象問題1問だった。

(2012/4/5)

資料

薬科大学(薬学部)の数と入学定員・入学者数の推移

第97回薬剤師国家試験の合格発表について

診療報酬の不正受給

最近の医療関連ニュースの中で,もっとも怒りを覚えるもののひとつは,愛知県豊橋市の医療法人「豊岡会」が50億円の不正受給をしていたという事件である.

報 道された時は呆れ果てるが利己主義的な大人の子どもじみた犯罪が次々に起こるので,その重大性がすぐに忘れられてしまう.マスコミによると,今回の不正請 求額は50億円と過去最大級ということである.今回と書いたのは,豊岡会は昨年、25億円を超える介護報酬の不正受給が発覚し,愛知県などが患者の一時受 け入れ停止などの処分をしているからである.

今回の不正発覚に関して,氷山の一角との見方が多い.1973年に設立されたというからその間の不正はかなりの額になるだろうと疑われても不思議ではない.長年不正を見抜けなかった行政側のチェック態勢も厳しく検証されるべきである.恐らく人手が足りないということに帰着するだろう.

豊岡会は看護師の数を水増しし、よりランクの高い診療報酬を受け取っていたと報道されている.請求が正しく行われているかどうかは請求書に添付された看 護師の勤務表を確認することでチェックしているというが,医療機関との信頼関係を前提に成り立っている制度は通用しない“想定外”の社会になってしまったと言っても過言ではない.

勤務状態の把握方法も高度IT化社会にしては超アナログ的な対応である.出勤したとされた看護師,その他の医療関係者は「世直し」と思って勇気をもって内部告発すべきである.

一方,法人は不正受給額を返還すると言っている.万引きした人が警備員に捕まり品物を返したら許されるだろうか.客が品物を選びレジへ持って行き精算す る方式は,逆に言えば万引きをする機会を提供しているようなものである.そのため万引きできないように監視カメラが用意され,品物には万引き防止タグが付 けられ,警備員が配置されている.これは性悪説を前提にした措置である.

医療機関との信頼関係で成り立つ性善説を利用した犯罪であることを知らしめ,防止する対策が必要である. (2012/3/29)

追記

監督官庁の天下り組が不正請求の指南をしていたというようなことにならないことを祈りたい.

薬学6年制は今・・・・

6年制移行後の一期生の新第一回薬剤師国家試験が迫ってきた.

退職後,薬学教育とは無縁になり,1年9ヶ月が過ぎた.年末年始の挨拶メールを送ったところ,あちこちの薬系大学の現職の先生方から返信をもらったが,異 口同音に直前指導に苦労していることが書かれていた.書かれていることを具体的に紹介することはできないが競争相手の大学との模試結果比較を憂うものが多 い.

4年制課程の最後の学生の国家試験で経験した薬剤師国家試験大手予備校の暗躍が眼に見えるようである.薬学6年制教育において,私がもっとも気にしていたことが相も変わらず潜在しているのは確実である.

私は「大手国家試験予備校が薬学教育を歪めている実体」があることを指摘してきた.薬学部の新設前から, 大手予備校の有名ベテラン教師(業界では有名と聞かされた)が訪ねてきて「予備校との連携」が必須であることを懇切丁寧に説明してくれた.その際,私立大 学は化学一科目で入学してくるので,未履修同然の生物および物理の勉強を合格者に入学前に補講する必要があることも強調していた.そのことは開設後に現実 の問題となり,通信教育あるいは補修授業(元高校教師による)で対応することとなった.開設直後にその女史の入学生向け訓示を聞かされた.「あなた達は, 最初から国立の学生には負けているのだから,基礎は捨てて暗記物に重点をおきなさい」という具合である.常勤の教員が言ったら問題になるが,奥の手を教え てくれるベテランの話だから学生は神妙な顔で聞いていた.試験対策は教科書ではなく?(色)本で十分というわけである.

学年が上がるにつれ, 予備校からのアプローチが頻繁になり,低学年から模試を実施ことになってしまった.模試に参加していない大学には, その効用を説く際に「これは秘密資料ですが」といって予備校と連携している大学の実績を見せ, 不安感を煽り, 模試参加を勧誘する. 模試だけではなく, 大学の先生より「教え方」がうまいので「まとめ」のためだけでも予備校講師による補講(有料)の実施を勧める. 元国立大学教員は,そこまではしなくてもよいのではないかと 思うが元私立大学教員の「豊かな経験?」に押されて実施することになる. 学生も試験のコツを重点的に教える「予備校講師の方が分かりやすい」という始末である. かくして卒論などそっちのけの補講漬け状態となる. それが当たり前と思う教員が次第に増えていき,卒論実習をやっていた学生も補講に専念することになる. 予備校との連携教育は国家試験に落ちた者達へも波及し,次年度の国家試験の面倒をみるアフターサービス完備というわけである.

私立大学に籍を置いている教員は,国家試験合格率のみが学生集めの手段であり,定員割れを防止するため, 補講や予備校に頼らざるを得ない現実を肯定せざるを得ないと言うようになってきた(以前は違っていた教員も).

薬学教育6年制の導入は, 予備校化してしまったカリキュラムから真の大学教育に戻るチャンスを与えてくれたと思っていたが旧4年制と変わらない状況に陥り入ろうとしている様である.

今春,一期生の卒業後に外部評価が行われるが, 国家試験合格率は評価項目に入っていない.その理由は「大学が予備校化するのを防止するため」と明言されている.しかし,それは理想論ということになってしまっているようだ.

新国家試験はこれまでとは異なる方式になるはずである.本来目指した薬学教育改革を反映した,予備校模試とは相関のない国家試験を行うことが望まれる. (2012/1/16)

追記 「生活がかかっている.勝手なことは言うな」という声が聞こえてくる.そう言いながら,学生の質の低下を物語る様々なエピソードを話してくれる.医療現場における薬剤師の役割(あるべき姿)を十分に理解していない教員に多いようである.

低学年から積み上げてきた国家試験対策的知識集積が卒業研究をやらせたら瓦解しリセットされたという内容の感想もあった.その判断は模試とのことである.

薬学6年制不要論を強烈に主張していた人も現在は沈黙を守っている.言えない状況に置かれたためだろうか.(2011/1/19)

医療関係者のIT対応

9月28日深夜のNHK時論公論で,医療情報の管理にクラウドを利用する話をしていた.東北大震災の際の津波によりカルテ等の医療情報を消失してしまった被災医師がこれからどうするかいろいろ検討していたらクラウドに辿り着いたという話である.訪問診療しか対応できない被災地の医師にとってインターネットの利用は情報の共有,さらには画像を利用した遠隔地診断などに発展する可能性があるという話を紹介していた.

聞いていて今頃何を言っているのかと文句を言いたくなった.コンピュータや情報ネットワークの黎明期,もっとも恩恵を受ける領域は医療分野であることは深く勉強しなくとも予想できた.そのために薬学部等でも情報処理教育を行う必要性を感じた.それは昭和50年代後半であった.平成になり熊大では工学部しか全学情報処理センターを利用していない時に薬学部は他学部に先駆けてセンターで情報処理実習を開始した.一方,講義ではネットワーク経由で情報を共有する時代が到来することを電子カルテ等のデータベースを例に紹介した.我々の試みは全国的にも対応が早かったため,文部省の教育改善経費を数回にわたり貰うことができた.

ところが,現実の医療現場ではそのようなシステムが存在しなくてもやっていけるし,そんなことに割く時間がないというのが医療関係者の大方の意見だった.医学部の中にも必要性を唱える教員もいたが,話題にはなってもあくまでサブでありメインの課題にはなりえなかったようである.キーボードを叩くのは秘書か研究補助員と日頃思っているわけだから診療の最前線にITが入り込むのには時間が必要と思ったが,これ程まで時間がかかるとは思わなかった.

IT対応の遅れは,医療機関の診療報酬明細書の完全電子化で一挙に表面化した.2011年にはレセプトのインターネット通信を利用した,完全電子請求(電子化・電算化)が実現するはずであったが,これも延期になった.社会全体のIT化の進展ぶりを医療の在り方に置き換えて考えていたらそれなりの対応がとれたはずである.準備や対策を練るための十分な時間があり,決して唐突なことではない.開き直りに近い形での実施延期は納得がいかない.

あるITベンダーから聞いた話であるが,医療の高度化に刺激されて電子カルテ等のシステムを導入する病院が増えているが,導入後の保守管理を考えている病院関係者は少ないそうである.ましてやCIO(情報担当責任者)またはIT部門が必要とは思っていないそうである.病院からの依頼で受注してもシステムを提案・構築するのはITベンダーで、それを運用するのもITベンダーとのことである.

システムを導入してもフルに活用するためには,医師をはじめとして医療従事者がそれなりにITの知識を修得する必要があるが,本業に追われて表面的に終始している現実があるようである.

「大学医学部とそれを支える医療関連学部の教育現場でITの活用を教えていないことも医療現場で 高度利用が進まない要因の一つではないか」と指摘するITベンダー関係者もいる.

今回の話は,その道にいる者がその気にならないと大きく一歩を踏み出すことはないことを物語る典型的な例と言える.他分野からのアプローチには真剣に耳を傾けず,東北関東大震災のような国難とも言える大事が起きて初めてその重要性に気付くことになるとは情け無い話であるが医療分野だけの問題ではない.(2011/10/4)

計画停電と医療

相次ぐ原発の停止のため,政府は,関西電力に対し10%以上の節電目標を提示した.電力の融通をあてにしていた中国電力も問題が発生したためである.ストレステストや九電やらせメール等も電力の需給バランスを崩す要因となった.計画停電は現在のところ,東電が主であるが,状況によっては他の電力会社に飛び火する可能性は否定できない.

このような計画を作る際,政策担当者はどのようなシミュレーションを行っているのだろうか.

東電の計画停電の場合,信号が消えたため交通事故が発生し,負傷者が病院に運ばれたが,停電でレントゲンが撮れなかったそうである.医療機関の多くは電子カルテのシステムが使えないため,休診や手書きで対応せざるをえなかったと報道されている.

「細かいことまでシミュレーションしていたら,計画停電なって不可能だよ」と聞こえてくるような気がする.

それにしてもお粗末である.平成11年度から,一部の例外を除きすべての医療機関(病院,診療所,薬局)はオンラインによるレセプトの請求が義務づけられることになった.

地域医療を支える小さな医院の医師は高年齢で新システムに対応できない場合も多い.彼らが「義務化なら廃業」と反発の声をあげたため,それに押されて見直しがなされた.その医師達は,今「年寄りの言うことに間違いはない」と言っているような気がする.

それにしても,先行した政策との整合性がとれない状況が立て続けに起こっている.停電対策システムやデータのバックアップシステムが整備されていない現状ではデジタルとアナログは共存すべき時代かもしれない.

情報教育を推進してきた者として,デジタル化の問題点のひとつとして停電対策は教えてきたが.このような想定外の事態は考えたことはなかった.

追記 医療情報のデジタル化を否定するものではない.むしろ推進すべきと思っている.その理由は,オンライン化により,業務の効率化ばかりでなく,診療報酬改定の際,迅速・正確な政策議論が可能になること,また各地域の患者・疾患の実態把握,生活習慣病の発症や重症化の防止や保健指導などに役立てることなどが期待できる.紙資源の節約は言うまでもない.(H23/7/21)

薬学部旧4年制課程+修士課程出身者の実力

来年4月,6年制課程の1期生が薬剤師国家試験を受験し新世代の薬剤師が誕生する.

現在,卒業研究の完成に向けて日夜頑張っているはずであるが,聞こえてくるのは国家試験対策のことばかりである.このままでは4年制課程の私立大学で見られた卒業研究の時間を国家試験対策ゼミに充てていたのと同じである.

そのようなことなら,4年制課程+修士課程出身者の方がベターではないかと思うようになった.

私は合成化学,しかも指導原理にフロンティア軌道論を用いてきた.卒業研究はその線にそったものであり.修士課程の論文では計算科学を含んだ内容を要求してきた.そのような知識を習得しても薬剤師には役に立たないと言われそうであるが,まったくそのようなことはない.

修士課程で習得した論文を読む能力,問題点を見い出し解決する能力,論文を纏める能力,プレゼンテーション能力は研究テーマの内容に関係なく醸成されるものである.

私の研究室出身者で実家が薬局のため,製薬会社や病院勤めの後,現在は調剤薬局を経営している修士課程出身者2名から,薬局業務の中で勉強したことを発表する機会があったということで論文を届けてくれた.

J-GLOBAL(科学技術総合リンクセンター)では以下のリンクで抄録を見ることができる.

発表資料1 薬局,病気と薬 パーフェクトBOOK2009 精神疾患 気分障害(うつ病・躁うつ病)

発表資料2 更年期と加齢のヘルスケア,更年期女性の胃腸症状についての検討—薬局ドラッグストア店頭にて簡略更年期指数との関連において

旧4年制課程の教育は化学系に偏り,医学的知識が希薄であったと言うことで,6年制へ移行した.しかし6年制が完成年度を迎えるにあたり,旧4年制課程の薬剤師をはるかに凌駕する能力を持った薬剤師の卵が育っているだろうか.

即戦力を目標にコアカリキュラムにそって高度の教育を行ったとしても,最終目標として国家試験突破のための詰め込み教育を実施する限り,創造性などは醸成されない.現に6年制実務実習を引き受けた側の人達も同じことを言っている.

上記の例に限らず,薬学の基礎学を修得し,さらに修士課程へ進学し研究に従事した者は,医療現場における諸問題は自分で気付き解決できるわけである.

極論になるが,現行の4+2修了者は薬剤師国家試験を受けることはできないが,修士論文合格後薬剤師として働くことのできるシステムを作ってもよいのではないだろうか.(H23/7/17)

戦前の薬剤師卒後教育

父の持ち物の中に,卒業証書等に混じって講習證書があった.

昭和17年に熊本県薬剤師会が行った薬学講習の修了證書である.

当時の熊本薬学専門学校の教授陣が下記の学科を担当している.

消毒法,試薬調製法,無機化学総論,衛生化学,生薬学.植物化学,鉱物分析学,化学技術総論

九州薬学専門学校を大正14年に卒業しているから,卒後17年目の卒後教育である. 講師の中には,新制大学になってからも教鞭をとった先生方の氏名が見うけられたいへん興味深い.化学技術総論担当の藤田穆先生は熊大薬学部退官後,第一薬 科大学の学長を務めた方であり,有機概念図を考え出した学者でもある.戦前は薬剤師が医療従事者であるという考えはなく,薬を原料から調製することが仕事 であったことを考えると講習の内容が理解できる.現在は軽視されている学科目であるが,これらの知識を医療面で応用するには薬学を修めた者でないと不可能と言っても過言ではない重要な領域であることは今も変わらない.

クリック拡大 (2022/7/8)

違和感を感じた日本薬学会会頭メッセージ

薬剤師会雑誌の5月号 (2011, 63巻 p.455) に新薬学会会頭がメッセージ(”視点”6年制薬学教育一期生の仕上げの年度に当たって)を寄せている.

読みながら何となく違和感を覚えた.

薬学会会頭は長期実務実習をお願いしている薬剤師会に謝辞を述べ,さらに来春誕生する6年制課程の薬剤師に,4年制課程とはひと味違う役割を期待する気持ちを述べている.

しかし文章の後半は,6年制教育対応のため研究が疎かになっている現状を憂いている内容であり,釈然としない.さらに大学院博士課程の設置申請を目前にして,はたして進学者がいるか疑問ともとれる内容の記述が続いている.

6年制教育によって医療現場を体験し,さらに卒業研究を通して研究マインド(問題提起・解決能力)が醸成された人材が,これまで以上に多方面で活躍することを目標にしてきたはずである.

このメッセージは6年制教育環境が研究とは掛け離れたものであることを暗に認めたものと受けとめることができる.

一言で言えば,6年制教育のシミュレーションが甘かったと言える.

6年制の設置準備段階では,薬学の各領域の代表者が議論を尽くし,現在のモデルカリキュラムが誕生した.ところが,6年制がスタートし,計画案(コアカリキュラム)にそってやってみると,こんなはずではなかったという意見が巻き起こった.その原因は準備段階からの教員の薬剤師業務に関する知識不足に起因すると言っても過言ではない.

これまで薬系大学で教育に携わってきた教員の中で薬剤師の業務内容や社会的立場を熟知している人はほとんどいない.研究実績がものを言う教員人事では研究重点主義の旧制大学出身者が勝ち残り,薬剤師教育に疎い教員組織が全国で構築されている.新設された大学も申請段階では実務家教員を除き研究業績が審査される.6年制薬剤師教育に関する知識の有無ではない.その証拠に他学部教員が数多く採用されている現状がある.

移行準備段階において,医療現場を熟知した委員が「薬剤師教育はこうあるべきだ」と主張すると,経験がないので「そうなのかな」と思いながら是認してしまった結果がコアカリキュラムに集約されたと極言する人さえいる.薬剤師として就職してから習得した方が理解・対応も早いと思われる項目がカリキュラムに沢山盛り込まれている.実務家教員側からは,逆も真で基礎系には口出ししなかったようだ.

最近,6年間でも足りないという教員まで出始めている始末である.実際は乱立気味の薬系大学に加え定員割れがもたらす学力低下が原因である.即戦力を前提としてしまったため,大学教育としての卒業研究も国試対策で中途半端になり結局は消化不良のまま世に出ることになるだろう.

博士課程は現在設置申請の準備が進んでいる段階である.4年間の博士課程進学は経済的にも大きな負担になるので,奨学金,社会人受け入れ等の対策を練っているとのことであるが,経済的な理由から進学しにくいと考えるのは早計である.他学部なら修士課程の大学院生に相当する5, 6年次学生に対して,創造力,応用力を醸成する卒業研究を実施し,研究の一端を担う経験をさせないと博士課程に進学する動機付けはできないことを理解していないようである.

[追記]

それは理想論だよと言われること必至である.私大は国家試験の結果が最優先,そのためには卒業研究は犠牲にせざるをえないという趣旨のメールを現役教授(他学部出身)からもらった.4年制課程で頻繁に実施した予備校教師による講義,模試の利用も疑問を感じなくなっているようである.

6年制教育の一期生は,前年度にCBT, OSCEさらには長期実務実習を終え,現在6年次生として卒業研究に励んでいるはずである.4年制課程の場合,私立薬系大学においては卒業研究は国試対策に読み替えられてきたことを考えると卒業研究を完結させることは大仕事になっていることだろう.後れてしまった研究を推進するチャンスと思うのだが・・・・

そんな知識は薬剤師には必要ない! 活性HOMO電子

福井謙一教授は,1952年に「フロンティア軌道論」を発表し,1981年にノーベル化学賞を受賞した.それから30年が経過した.

この理論をずっと研究・教育に利用してきたため,どうなっているのか気になっていたので普及状況を調べてみた.なぜ気になったかというと,薬学6年制教 育のためのコアカリキュラムからこの理論が消えているからである.すでに当り前になった理論であるので,到達目標として項目を設ける必要はないというので あれば問題はない.ところがまったく逆である.コアカリキュラムの中間バージョンでは有機化学領域に教えるべき項目として「フロンティア軌道の説明ができ る」という記載がある.ところが最終(最新)版では消え,相変わらず古典的電子論(曲がった矢印理論?)が到達目標になっている.

在職中に実務系の教員が,フロンティア軌道論は薬剤師には必要ないと言ったという噂を聞かされたことがあった.その時は高等専門学校でも教えていることを受講学生に説明し納得してもらった.

情報公開が叫ばれる中,全国の大学のシラバスがネット上に公開されているので調べてみると,「フロンティア軌道論」を教えているところが増えているのに 驚いた.この理論に対応しなかった老教員が定年を迎え世代交代が進んだためか,若い化学系教員は教えているようである.中には物理化学で教えているところ もある(福岡大学薬学部).大学院等で構造活性相関と絡めて教えているところもある.パソコンで簡単にフロンティア軌道を図示することが可能になったこと も一因かもしれない.薬学部の場合,新設の私立大学薬学部や薬科大学は国立大学定年組が多く,対応が遅れている可能性が高い.

フロンティア軌道論はパソコン等を用いることなしに単純明快に化学を語ることのできる理論であることを指摘しておきたい.

ところで,薬剤師国家試験の後に,その年の出題内容に対するアンケートの集計結果が回ってくる.ある私大の教員は,ちょっと理屈っぽい問題になるといつ も決まり文句を書いている.それは「薬剤師の教育には必要ない知識」というコメントである.創造力のある医療従事者を育てるには原理を理解する能力の付与 が必要ということで薬学教育の改革が始められたはずであるが,今後が心配である.フロンティア軌道論でしか解釈できない反応,たとえばDiels- Alderは教えるように指定されているのにその原理は,教える必要がないと言うことであろうか.フロンティア軌道論では,芳香族性(安定性),熱で分解 し易い薬物,光で分解する薬物など簡単に予想できるのだが,国家試験予備校では,多くの科目と同様に暗記もののひとつであるらしい.6年制の国家試験では 暗記に頼る知識では合格しない方策がとられるとのことである.従来の予備校に依存した教育に傾きかけている大学には通用しないような出題を期待したい.

[一言] フロンティア軌道論に関しては,開講を疑問視されたことを以前にも触れた.現在,5年生は実務実習が修了し卒論研究に入ったが,6年制の予備校化が指摘されているので,再度取り上げた.

(平成22年12月27日)

政治献金(薬剤師会)

2010年7月19日の朝日新聞のトップ記事は下記のタイトルであった.

”7公益法人が政治活動 入会や会費徴収、政治団体と一体”

朝日新聞の記事の内容: 厚生労働省所管の7公益法人やその地方組織の会員が、本人の意思のあいまいなまま系列の政治団体に入会させられ、納めた会費の一部が特定の政党や政治家に 献金などとして流れていたことが朝日新聞の調べで分かった。公共の利益のための活動を目的とする公益法人が実質、政治活動をしていたことになり、厚労省は 「公益法人としては不適切な行為だ」と指摘、政治団体と明確に区別するよう改善を求めている。

厚生労働省所管の7公益法人とは,「日本薬剤師会」「日本柔道整復師会」「日本栄養士会」「日本歯科衛生士会」「全日本医薬品登録販売者協会」「日本鍼灸(しんきゅう)師会」「全日本鍼灸マッサージ師会」である.

日本薬剤師会は自民党へ約2億5千万円,民主党へは約7千5百万円を献金しているとのことである.

私は,実家 が薬局であったため,選挙が近くなると薬剤師会が集票マシンになることを知っていた.国立大学に勤務していた間は,公務員として,中立の立場を貫く必要が あったので,話題にすることはなかった.ところが,私立大学では実務家教員(教授)が薬剤師会への入会を勧める始末である.6年制になり長期実務実習をお 願いする立場である担当教員としては,そのように発言するしかないのであろうが,今回の記事の内容を知っている私としては,学科主任としても積極的に賛成 することはできなかった.

薬剤師会に真偽をただせば,「強制はしていない」と応えるだろう.そこで,批判的な開局薬剤師に尋ねてみた.年2万円を払わないと何度も催促され,結局は払わざるを得ないとのことである.

日本の精神的風土で,何の見返りも期待せず,政治献金をする人はいるだろうか.結局,医療費にフィードバックされるわけである.

[一言] 各団体にとって都合の良い制度を維持するためには法律の改正や制定が必要である.規制緩和の影響を受ける”薬の関連団体”にとって議員の選出は悲願であることは分からないでもないが,逆の立場の団体も同様なことをやっているので埒があかない.

(平成22年7月19日)

薬学部学生は禁煙(医療従事者として当り前)

朝日新聞,毎日新聞,西日本新聞,熊本日日新聞,および系列のテレビで,「入学者は禁煙」が報道された.

それにしても実現するのに時間がかかった.遡ると,薬学部開設後間もない2005年5月24日のことである.学生厚生委員のY助教授から,全学委員会 において分煙対策が議題にのぼっているとの報告があり,薬学部としての対応を決めるため,意見聴取のメールが教員各位に配信された.

私は学科主任として次の提案をした.

・率先して全面的な禁煙にすべきです.

・全学がびっくりするような提案をしたらいかがでしょう.

その後,公衆衛生学を教えている衛生化学研究室のY教授を全学禁煙委員会の委員に推薦し,学問的立場からの説明を行ってもらった.しかし,他学部との考 え方のギャップに大変苦労したようである.日常的には,オリエンテーションや講義の際,あるいはホームルームにおいて学年担任からの禁煙についての説明を 実施し,2007年には学部のホームページに禁煙のページを作成し広報活動を開始した.その間,学部にも禁煙委員会を設置し,議論してもらったが,ここで も委員間に微妙な考え方の相違があったようである.一方では,教員の中に喫煙者がいて,薬学部キャンパスから出て道路や田圃で喫煙している姿を見ると,し ばらく様子を見ることも必要ではないかという意見もあり強行突破し難かったと言っても過言ではない.

3年が経ち,薬学部事務を取り仕切ってきた事務員が入試課に異動したこともあり,表題の件は早急に実現すると思ったが,大学首脳が理解し,周囲の合意を得るにはそれから2年以上を要したことになる.

世の中には,「在って当たり前」というものがたくさん存在する.後世になって,実現するのにどうしてそんなに時間が必要だったのだろうと思うであろう典型的な例のひとつである.

テレビでは,受験者が減るという意見が存在したようなニュアンスの報道があったが,マイナーな私的な意見であり,実施を躊躇させるような意見ではなかったと記憶している.

[一言] 薬局では禁煙のためのニコチン製剤を販売している.薬剤師として喫煙・禁煙の経験があった方が説得力があってよいという意見があるのに驚いた.

(平成22年9月19日)

くすりは先生から貰った方がよか

熊本市内で内科,小児科の医院をしている親戚の話である.

かなり前に, 医薬分業に踏み切ったが, 2年と続かなかった. 医薬分業を持ちかけた調剤薬局経営者はビジネスとして成り立つと思ったようであるが, 従来型医療に慣れた患者の心は読めなかったようである.

多くの患者さんが, それまで医院でもらっていた薬を, すこし離れたところに開局した調剤薬局へ行って薬剤師からもらうことになったのは, 健康保険システム上そのような手続になったと思ったようである.ところが,実際は不完全医薬分業であることに気付くと, そのデメリットばかりが目に付くようになったようである. 特に高齢者にとっては, 面倒な二度手間であり, 支払う薬代も高くなり,何もよいことはないと言っていることが間接的に伝わって来たとのことである.

服薬指導, 重複投与のチェック等を含めた医薬分業の必要性を熱っぽく説いても, 狭い地域社会で構築されてきた医者ー患者の信頼関係を解消してまで調剤薬局(薬剤師)が入り込む隙間はないようである.

我が国においては, 昔から医師が診断し, 薬を調合し, 患者に渡してきた. 患者は医師が危険なものをくれるとは思っていない.

医薬分業が叫ばれるようになって久しいが, 問題も多い. ある医薬分業先進県の薬剤師会は,この時とばかり張り切りすぎて, 副作用を懇切丁寧に説明し, 失敗した話は有名である. 患者は信頼している医師がそんなに危険なものを自分に飲ませていることを知らされ, 医師に文句を言ったそうである. 当然のことながら, 医師側からの抗議で, 服薬指導の難しさを自覚したようである.

処方箋から病名を推量することしかできない現状を改善するには, 医療従事者が共有できる電子カルテの普及が緊急の課題と思われるが, その前に, 真の薬の専門家として信頼される人間性と対応能力が必要である. 6年制教育はそのために敢行されたはずである.

[一言] 国民が,何がしかの金を払ってでも,服薬指導を受け,薬歴を管理してもらうことが当たり前のことであり,健康維持のために必須と思うようになるにはそれなりの教育と時間が必要である.しかし,一方では医薬分業や薬剤師不要論があるのも事実である.

薬剤師の髪色

私立大学薬学部の在職中にいろいろなことがあったが, なかには「どうでもよい」と思うようなことがあった. そのひとつに髪の毛の色問題がある.

薬学部開設当時は, 高学年に実施される実務実習担当の実務家教員は少なく, 基礎系教員が中心であったが, 2年後には実務家教員が増え, 薬学教育全体の体制が整った. 第一回生は4年制であったため, 4年前期に, 学外の病院や薬局に短期間(6年制と較べれば)の実務実習を計画した. 3年次後半には実務家教員を中心に, 実習の準備教育が計画され, 実施された.

学生を送り出すために, 実務実習委員会がつくられ, いろいろなことが議論された. 基礎系の教員には考えつかないようなことが提起され,真剣に議論されたとのことである. その中で, 学生の髪色が問題になり, 学外実習の際は, 自然色?に統一することになった. 議論の過程で, 当研究室の助手の先生の髪色が問題になったようである. 会議に出席した委員にそのことを聞き, 本人の髪色を確認したが, 真っ黒ではないがあちこちで見かける”普通の髪色”であった.

さっそく, 知人の病院薬局薬剤師に尋ねたが, そんなことは気にしていられないという意見が大勢であった. 実際, 当研究室出身の有能な薬剤師も同じ見解であり, 周囲の医療従事者に信頼される薬剤師であることが先決と言っている.

ところで, 毎年, 入学式の後, 保護者に集まってもらって, 薬学教育の詳細について説明するが, 髪の色のことまでは話が及ばない. 保護者の髪色を見たら, 話を切り出せない状況であり, それなりに様になっており,世間一般に受け入れられているような気がする. そう思うのは私だけであろうか.

[一言] 薬剤師に限らず,現在でも他大学, 他学部学生の中には就職活動前に髪色を黒に染めるようである(薬局に相談に来る). 就職担当教員の指導と思うが, 学生にとっては単なる就活対策としての化粧のひとつのようである.