Kohno K, Iida H (2024) Possible mechanisms mitigating reproductive interference supposed between Xylena fumosa (Butler) and X. formosa (Butler) (Lepidoptera: Noctuidae: Xyleninae), both of which are by-captured in a commercial pheromone trap for Helicoverpa armigera (Hübner) (Lepidoptera: Noctuidae: Heliothinae). Entomological Science 27: e12567, https://doi.org/10.1111/ens.12567
性フェロモンの種による違いは一般に種間交雑の障壁になっており、同種の異性のみ(一般にはメスがオスを)を誘引しますが、オオタバコガ発生予察用性フェロモン剤には、標的種であるオオタバコガの他に、アヤモクメキリガ、キバラモクメキリガ、イチゴキリガ、ウスキトガリキリガ、フタオビキヨトウ、ウラギンキヨトウ、ヒロバコナガ、セジロトガリホソガ、シバツトガ、シロスジエグリノメイガの10種の標的外の種が誘引されることが知られています(河野ら2014,2015)。これらの種はいずれも標的種であるオオタバコガとは類縁関係が遠い種ばかりですが、アヤモクメキリガとキバラモクメキリガ、フタオビキヨトウとウラギンキヨトウはそれぞれ同属の互いに近縁な種です。ただし、後者はそれぞれ別の亜属に分類されているので、必ずしも近縁というわけではありません。
アヤモクメキリガとキバラモクメキリガは、いずれも初冬から早春にかけてオオタバコガ用のトラップで捕獲されました。これらの種にとって性フェロモンは交尾相手を見つけるための重要な手段ですから、近縁な別種が同じフェロモン剤に誘引されるということは、そこに想定される性フェロモンを介した繁殖干渉の悪影響を回避あるいは軽減する何らかのしくみがあるはずです。そこで、河野ら(2014)のデータをさらに詳しく解析しました。
トラップに捕獲される時期は、年によってキバラモクメキリガの方が有意に早いこともありましたが、差がない年もあり、両種の間で重なりが大きいことがわかりました。
アヤモクメキリガとキバラモクメキリガの捕獲個体数の比率は、年次による違いは認められず、調査場所によって有意な差が認められたので、ある程度の棲み分けがみられることがわかりました。
6種のフェロモン剤を使ったトラップにおける、それぞれの種類のトラップでの捕獲個体数をみると、アヤモクメキリガはオオタバコガ用トラップ以外では全く捕獲されなかったのに対して、キバラモクメキリガはコナガ用トラップなどでも少数捕獲され、その比率の間に有意な差が認められました。
文献から両種の寄主植物を調べたところ、アヤモクメキリガは草本植物、キバラモクメキリガは木本植物に嗜好がある傾向は認められるものの、共通の寄主植物も多いため、決定的に異なるわけではありませんでした。
これらの結果から総合的に判断すると、おそらく寄主植物の違いによる影響で調査場所間で両種の比率に違いが見られたものの、両種の実際の性フェロモンの成分構成に明確な違いがあることによって、繁殖干渉が回避あるいは軽減されていると考えられました。
詳しくは論文そのものをお読みいただきたいのですが、日本昆虫学会の会員以外の方には要約しかお読みいただけませんので、ご希望の方は筆者までご請求ください。
主な引用文献
河野ら (2014) 応動昆 58: 343〜350. https://doi.org/10.1303/jjaez.2014.343
河野ら (2015) 応動昆 59: 140. (訂正) https://doi.org/10.1303/jjaez.2015.140