Entomological Science 8: 313–322, 2005

Kohno K, Bui Thi N (2005) Comparison of the life history strategies of three Dysdercus true bugs (Heteroptera: Pyrrhocoridae), with special reference to their seasonal host plant use. Entomological Science 8 (4): 313-322, December 2005 [Abstract & Full text (pdf) on Blackwell Synergy (member site)]

left: Dysdercus cingulatus, center: Dysdercus poecilus, right: Dysdercus decussatus simon

左:アカホシカメムシ、中:ヒメアカホシカメムシ、右:シロジュウジホシカメムシ(黒頭型)

アカホシカメムシ類(Dysdercus属)は寄主植物として、アオイ科(Malvaceae)、キワタ科あるいはパンヤ科(Bombacaceae)、アオギリ科(Sterculiaceae)、シナノキ科(Tiliaceae)などのアオイ目(Malvales)の植物に依存しています。そのため、もっとも重要な繊維作物であるアオイ科のワタ(Gossypium属)の害虫として知られている種がいくつかあります。東南アジア地域で最もワタの害虫として重要な種はアカホシカメムシDysdercus cingulatusであり、ヒメアカホシカメムシDysdercus poecilusもワタの害虫として報告されています。

石垣島には3種のアカホシカメムシ類、すなわちアカホシカメムシDysdercus cingulatusヒメアカホシカメムシDysdercus poecilusシロジュウジホシカメムシ(黒頭型)Dysdercus decussatus simonが普遍的に棲息しています。これらのほかに、オオアカホシカメムシDysdercus fuscomaculatus、ハレギアカホシカメムシDysdercus solenisが採集されたという記録もありますが、これらは石垣島には定着していない可能性が高いです。アカホシカメムシ類は、基本的には寄主植物の種子を餌として繁殖します。体の大きさは、オオアカホシカメムシは大型、アカホシカメムシ、シロジュウジホシカメムシ(黒頭型)、ハレギアカホシカメムシは中型、ヒメアカホシカメムシは小型です。

この論文では、2年2か月にわたる毎月2回の野外調査により、この3種のアカホシカメムシ類がどんな寄主植物を利用して繁殖しているのかを明らかにしました。

小型の種であるヒメアカホシカメムシはアオイ科の矮性木本植物でほぼ通年開花結実するキンゴジカSida rhombifoliaを寄主植物として利用し、ほぼ通年休眠せずに繁殖していることがわかりました。中型の種であるシロジュウジホシカメムシ(黒頭型)は、夏の間に開花結実するアオイ科の小高木であるオオハマボウHibiscus tiliaceusやサキシマハマボウThespesia populneaを利用して夏の間に繁殖し、花や果実がほとんどなくなる冬から晩春にかけては、これらの植物の葉裏に集団を形成して、おそらく休眠状態にあることがわかりました。やはり中型の種であるアカホシカメムシは、季節によって開花結実時期が異なる様々な寄主植物を利用して、休眠することなく通年繁殖することがわかりました。すなわち、冬から春にかけてはアオイ科の小高木であるサキシマフヨウHibiscus makinoi、春から初夏にかけてはキワタ科(パンヤ科)の高木であるトックリキワタChorisia speciosaやキワタノキBombax ceiba、夏季には夏季に開花結実する小高木であるオオハマボウやサキシマハマボウ、また結実はないものの夏季にも盛んに開花するアオイ科の灌木であるブッソウゲHibiscus rosa-sinensisなどを利用していました。

季のオオハマボウとサキシマハマボウは、シロジュウジホシカメムシ(黒頭型)とアカホシカメムシで寄主植物が共通しますが、シロジュウジホシカメムシ(黒頭型)が旺盛な繁殖をするのとは対照的に、アカホシカメムシのこれらの植物での繁殖はそれほど旺盛ではありません。シロジュウジホシカメムシ(黒頭型)は稀に冬季のサキシマフヨウで繁殖することもあるのですが、それとは対照的な関係になっています。オオハマボウはアカホシカメムシにとって餌としてあまり良くありませんが、サキシマハマボウはアカホシカメムシにとって比較的良い餌ですので(Kohno and Bui Thi 2004)、アカホシカメムシはオオハマボウやサキシマハマボウにおいては、シロジュウジホシカメムシ(黒頭型)との競争で劣勢になっていると推察されます。逆に冬季のサキシマフヨウにおいては、シロジュウジホシカメムシ(黒頭型)がアカホシカメムシに対して劣勢になっていると推察されます。

以上のように、石垣島に棲息する3種のアカホシカメムシ類は、それぞれ季節性の異なった寄主植物に対して、それらの季節性に合わせて、特定の寄主植物に特化したり、季節によって異なる寄主植物を利用していることがわかりました。この中で、季節によって異なった様々な寄主植物を利用するアカホシカメムシは害虫になりやすい性質を持っており、棉作地域でアカホシカメムシの被害を軽減するには、ワタ以外の寄主植物におけるアカホシカメムシの繁殖にも着目する必要があることがわかります。