このページの文章は、『ひゃくとりむし』の編集者である中西元男さんの了承を得て、筆者が投稿した原稿をウェブサイト用に編集したものです。引用する場合は[河野勝行.2017.ハサミムシの見つけ方.ひゃくとりむし (416): 4981–4984](2017年9月11日発行)としてください。
このページの文章は、『ひゃくとりむし』の編集者である中西元男さんの了承を得て、筆者が投稿した原稿をウェブサイト用に編集したものです。引用する場合は[河野勝行.2017.ハサミムシの見つけ方.ひゃくとりむし (416): 4981–4984](2017年9月11日発行)としてください。
先日のサロンの席上、中西さんからハサミムシの見つけ方について質問された。手短に答えるのには難儀した。やはり難しいのである。筆者は厳密にはハサミムシの専門家ではないが、筆者のハサミムシの見つけ方を紹介したいと思う。これを読んで不十分だと感じられた方は、ご自分の方法をご紹介いただきたい。種ごとに紹介するが、主に本州中部で見られる14種に限定した。
Anisolabella marginalis (Dohrn, 1864) ヒゲジロハサミムシ
無翅。雑木林の林縁や果樹園や畑地で最も優占する種だと感じている。農耕地では生ゴミ捨て場を探すのが効率的だと思う。リンゴやナシの果実を加害するという報告もある(富樫ら 1989;堀ら 1994)。クヌギなどの樹液に集まる場合もあるが、これは樹液に集まる他の虫を捕食するためかも知れない。
Anisolabis maritima (Bonelli, 1832) ハマベハサミムシ
無翅。汎世界種であり日本全国で普通。「maritima (海浜性の)」という名前のとおり海岸の浜辺に多いが内陸でも見られる。いずれの場合も砂地を好むようである。浜辺に打ち上げられた堆積物、特に魚の屍体や海藻などの下で見られることが多い。排水口などを伝って人家の水回りに出没するのは大抵本種。福島の土湯温泉の露天風呂に浸かっていたときに見つけたのも本種であった。
Anisolabis seirokui (Nishikawa, 2008) イソハサミムシ
無翅。海辺で見つかるが、前種と異なり岩場の海岸でしか見つからない。テトラポットがあるような場所にもいるらしい。フナムシがいるような場所にいる感じがする。潮間帯あたりにいることが多いので、夜間の干潮時に懐中電灯を持って見つけ採りするか、魚肉ソーセージなどを餌にしたトラップを使用して採集する。
Euborellia annulipes (Lucas, 1847) コヒゲジロハサミムシ
無翅。汎世界種であるが、日本ではそれほど普通ではない。家畜・家禽の飼料を集積している場所でよく見つかるという話を聞くが、自分自身で採集を試みたことはない。石垣島では果樹園の地面の落葉の下に普通に見られた。
Euborellia annulata (Fabricius, 1793) コバネハサミムシ
微翅。かつてはE. plebejaなどの種名が充てられていた。中胸背板に翅の痕跡があることで前種から識別できる。汎世界種であり、日本では都市部の公園などで最も普通に見られるし、ヒゲジロハサミムシが見られる場所でもよく見つかる。石の下などで見つかる。
Labidura riparia (Pallas, 1773) オオハサミムシ
短翅または長翅。汎世界種で日本でも普通に見られる。「riparia(河岸の)」という名前であるが、砂浜の海岸や内陸の畑地でもよく見られる。砂浜の海岸では打ち上げられた堆積物の下でよく見つかるが、自分自身で穴を掘るので砂の中にもいる。ピットフォールトラップも有効で、海岸に近い砂地の畑では夥しい数の本種が入ることがある。夜の前半の時間帯に活動のピークがあるので(Walker and Newman 1976)、この時間帯に懐中電灯を持って砂浜の海岸を歩くとよく見つかる。気温が高い時期に多く見られるが、夏のクソ暑い時期は昼間に海岸を歩くのはしんどいので、この方法はオススメしたい(自分で確認済み)。内陸部にある職場の畑でも密度が比較的高いが、どんな畑にも多いというわけではない。植生が貧弱な場所で密度が高いという印象がある。長翅型は灯火にも飛来する。
Labia minor (Linnaeus, 1758) ミジンハサミムシ
長翅。汎世界種である。日本国内でもかなり広範囲に分布すると推察されるが、小型種ということもあり、見つけづらく、記録は比較的少ない。灯火にはよく集まるので、灯火採集が最も効果的な採集法だと思われる。河川敷の刈り取った草を堆積してある場所から多数見つかったという話も聞いたことがある。
Paralabellula curivicauda (Motsgulsky, 1863) チビハサミムシ
長翅。汎世界種である。灯火で採集されたものは、ほとんど前種の誤同定だと思われる。南西諸島では白腐れや赤腐れになっている朽木の樹皮下で比較的普通に見つかるが、本州ではまだ採集したことがない。菌食性だと思われる。
Nesogaster lewisi (Bormans, 1903) クロハサミムシ
長翅。筆者は岩手県のブナの切株の樹皮下から幼虫を採集したことがあるが(河野 1995)、枯れかけたマツ類に生えるヒトクチタケ(サルノコシカケ科)から見つかることが報告されて以来(春沢 1997)よく見つかるようになった。しかし、筆者自身はこの方法で採集したことはない。マツ枯れが広がったことで本種が増えた可能性は否定できない。
Eparchus yezoensis (Shiraki, 1905) エゾハサミムシ
長翅。山地の落葉広葉樹林で見つかることが多いが、名古屋市からほど近い丘陵地の住宅地でも見つかったことがある(河野 2009)。棲息場所を環境から絞りにくい種であるが、灯火にも飛来するので灯火採集は有効な手段かも知れない。
Anechura harmandi (Burr, 1904) コブハサミムシ
長翅。谷筋の河原を主な繁殖場所としているので、平地ではほとんど見つからない。棲息の条件は、標高より地形や地質が重要だと思っている。棲息するかしないかは、地形図を見ればかなりの確率で言い当てられると思っている。成虫で越冬し、早春に産卵するので(河野 1984;Kohno 1997)、冬季に谷川の河原の石の下を探すのが効率的。年1世代で、近畿地方では6〜7月に羽化すると繁殖場所を離れてどこかで夏眠してしまって10月中旬までほとんど見られなくなるので、夏季に採集しようとするのは困難。高標高地や北日本では夏眠がない可能性が高い。
Forficula auricularia Linnaeus, 1758 ヨーロッパクギヌキハサミムシ
長翅。ヨーロッパ原産であるが、世界各地に分布を広げている。日本では東京と名古屋の埋め立て地から発見されている(Nishikawa and Kohno 2008)。筆者がドイツの港町ハンブルクを訪れた時、市内の公園に生えるヨモギの上で見つけた。おそらく市街地に普通に見られるのだと思う。そのような場所に棲息するため、近頃話題のヒアリやアカカミアリのように、これからも港湾地域で見つかる可能性が高いと思う。
Forficula mikado Burr, 1904 キバネハサミムシ
長翅。本州中部以北の主に山地に見られる。夏の後半に羽化し、谷筋に生えるアザミやヨモギの花によく集まっており、密度も高いことが多いので、そのような場所で叩き網をするのが効率的である。同じ場所でコブハサミムシも同時に得られることもある。コブハサミムシの産卵場所を見つけることが容易であるが、本種の産卵場所は一度しか見たことがない。
Forficula scudderii Bormans, 1880 クギヌキハサミムシ
短翅。F. tomisの名前が充てられていたことがある。本州中部以北に見られる。山地より、むしろ平地や丘陵地に多いという印象があり、棲息環境が絞りにくい。盛岡では3齢幼虫で越冬し(幼虫は4齢まで)、6月ぐらいに羽化する年1世代の生活史(河野 1993)。盛岡に住んでいた頃、ハマキムシが巻いた葉の中でハマキムシを食べていたと思われる個体をしばしば採集したことがある。短翅で飛べないが、灯火に集まったと思われる個体を採集したこともある。秋にはアザミの花で幼虫を採集したことがある。
引用文献
春沢 圭太郎 (1997) ばったりぎす (110): 2–4.
堀 真剛・松本 誠司・中尾 茂夫 (1994) 九州病害虫研究会報 40: 162. (講演要旨)
河野 勝行 (1984) 遺伝 38 (10): 70–75.
河野 勝行 (1993) 東北昆虫 31: 4–5.
河野 勝行 (1995) 岩手蟲乃會會報 22: 1–7.
河野 勝行 (2009) 佳香蝶 61 (237): 4.
Nishikawa M, Kohno K (2008) Tettigonia (9): 5–6.
富樫 一次・稲葉 一男・林 賢一 (1989) 北陸病害虫研究会報(37): 33–35. [pdf]
Walker TJ, Newman GG (1976) Annals of the Entomological Society of America 69: 571–573. (書誌が間違っていましたので訂正しました)