被害妄想

delusion of persecution(E), Verfolgungswahn(D) 

自己あるいは身近な人に対する他者の悪意が感じられるという被害的内容は,妄想主題として最もよくみられる。妄想対象はまったく漠然としていることもあれば,特定ないし不特定の人,集団,組織のこともある。注察妄想,追跡妄想,被毒妄想,物盗られ妄想は,広義の被害妄想に含められる。自己関係づけによるものはとくに被害関係妄想と呼ばれる。統合失調症では,被害妄想は妄想着想妄想知覚として一次的に生じるだけでなく,誇大妄想など他の妄想,自己批判的内容の幻聴,被影響体験,不安や不信などの気分などから二次的にも生じる。統合失調症の急性期では,被害妄想とそれに伴う罪業妄想が,しばしば加害妄想や誇大妄想と混在して認められる。被害妄想は統合失調症にみられるほか,うつ病では罪業妄想に基づいて,また躁病では誇大妄想に基づいて二次的に生じうる。そのほか,あらゆる内因性精神病・外因性精神病において被害妄想は生じうる。また,非精神病性の状態においても,不安や猜疑心などに基づく妄想反応として,あるいは人格発展として被害妄想が生じうる。この場合,被害妄想は真正妄想(一次妄想)ではなく妄想様観念 (二次妄想) であり,優格観念との区別はしばしば困難である。

(針間博彦)