了解

Verstehen [D], understanding/comprehension [E], compréhension [F]

Jaspers, K. は、了解を、精神現象を把握する基礎的な方法として示した。精神現象を学問的に把握しようとするとき、まずその現象をありありと思い描き、一定の用語で記述することが重要である。これを静的了解(statisches Verstehen)と呼ぶ(なお、ヤスパースはこのような了解を「現象学」とも呼んだが、これは哲学領域の現象学とは異なる)。


その次は、精神現象同士の関連を了解する段階となる。精神現象が他の精神現象から生じるのを了解することを、発生的了解(genetisches Verstehen)と呼ぶ。発生的了解は、共感的、感情移入的だが、単に個人的なものでは無い。平凡な例だが、悲しくて泣くのは「悲しい」ことと「泣く」こととの意味的な連関から明らかなこととして了解できる。意味連関の重要性は、Schneider, K.やKisker, K.がさらに強調している。ただし、意味連関は因果法則とは異なる。先程の例では、嬉し泣きというのもあるので、泣くことと悲しみとの関係は、因果法則といえるほどのものでは無い。泣く人の感情は、その人をとりまく状況や本人の発言との関連においてその都度了解される。なお、ヤスパース自身の議論の焦点からは少し外れるが、静的了解も発生的了解も言語を介した把握であり、社会的に共有された言語を介することにおいて、了解の客観性、再現性が担保される面がある。


他の精神現象と関連のない精神現象が生ずる場合は発生的に了解するのが不可能であり、そのような現象を把握するには、因果的な説明を求めるしかない。これについては了解不能の項で述べる。


(熊崎努)