不安焦燥状態

ängstlich-agitierter Zustand(D)

不安そのものは病的だとは限らず、正体が明確なものであれ得体の知れないものであれ、何かが迫ってくる事態に対する警戒信号としての不安は正常心理でも存在しえる。他方、たとえ警戒を要するにしてもその脅威とは釣り合わないほどの大きな不安、警戒対象が去った後でも長期間持続する不安、強度は普通であっても性状自体が通常心理の範囲を逸脱している不安などは病的と見なしえる。焦燥とは「焦りが強く、何かに急き立てられる」状態であり、これも必ずしも病的とは限らず、正常心理でも認められる。この不安と焦燥が組み合わされ不安焦燥状態と呼ばれると、それはほとんどの場合病的状態の術語となる。不安焦燥状態とは「わけのわからないものにおびえてびくびくしながら、急き立てられるように、心の中で出口を求めて何かが激しく動き回るような、身の置きどころのないほどに落ち着きのない状態」を指す。あくまで状態像であるから疾患非特異的であるが、実際には気分障害の症状記載において用いられることが多い。不安焦燥状態の認められる抑うつには躁状態の成分が混入している可能性を疑う必要がある。ドイツ語のagitierenと英語のagitateにはニュアンスの違いがあって、不安焦燥状態 ängstlich-agitierter Zusandにうまく合致する英語が見当たらないため、本シソーラスでは英訳をあげなかった。


(芝伸太郎)