通過症候群

transit syndrome(E), Durchgangssyndrom(D)

Schneider,K.は「身体的に基礎づけられうる精神病」(外因性精神障害)を急性と慢性に大別し、前者は意識混濁、後者は痴呆(認知症)と人格解体であるとした。これに対して、Wieck.H.H.が急性・可逆性の精神障害には意識混濁を伴わないさまざまな病像もあるとして、1956年に提唱した概念が通過症候群である。Wieckは外因性精神障害を可逆的症候群と不可逆的=解体症候群に大別し、後者が人格解体と痴呆であるのに対し、前者は意識混濁のほかに通過症候群を含むとした。「通過」というのは正常で意識清明な状態と意識混濁の間を通過する際に出現する病像だという意味であり、正常から意識混濁へと意識混濁から正常へのどちらの方向に進む過程でも出現する。


Wieckは通過症候群の基本は発動性の低下であるとした上で、主要症状によって、発動性欠如型、情動型、健忘型、幻覚型、妄想型およびこれらの組み合わせに分類した。さらにその重症度を重度・中等度・軽度に分け、重度においては健忘症候群ないしコルサコフ症候群が主要な病像であり、中等度においては発動性欠如、記憶障害、思考障害が認められ、軽度においては情動障害のみが目立つとした。


この概念は意識混濁と正常の間を埋める状態を指すものであるため、意識障害を広く捉える立場からすれば、「軽い意識混濁」と見なされることになる。また、現代の操作的診断体系においてはせん妄に含められる。


(深尾憲二朗)