前頭葉症候群

frontal lobe syndrome(E)

局在症状のうち、前頭葉に局在すると考えられる症状を指す。具体的には、発動性・意欲の低下、ステレオタイプな常同行為や保続、思考内容の貧困化、衝動制御障害などであり、これらの症状をまとめて前頭葉症候群と呼ぶ。


前頭葉は人間の大脳の半分以上を占める大きな部位であり、前頭葉の各部位がそれぞれ異なった局在機能を担っていることが明らかになってきた。そのため、近年では前頭葉症候群は、前頭前野背外側症候群、前頭前野内側部・前部帯状回症候群、前頭前野眼窩部症候群の3つに分けられている。


背外側症候群は遂行機能障害、すなわち目的を持った一連の活動を効果的に成し遂げることの障害を主体とする。より具体的には、認知セットを柔軟に維持し変換することの障害、仮説産出能力の障害、運動プログラミングの障害などである。病巣が優位側に限局した場合は言語機能障害として現れ、言語の流暢性の障害、常同的な発語、言語性保続などを示す。古典的なブローカ失語もここに含められる。


内側部・前部帯状回症候群は自発的な活動の減少を主体とする。自発的な発語や行動が減少し、何事にも無関心となって感情表出が減少し、食欲も低下する。無感情症(アパシーapathy)および無意志症(アブリアabulia)はここに含まれ、最も極端な場合には無言無動症akinetic mutismとなる。


眼窩部症候群は情動・感情・気分の変化を主体とする。感情の易変性、易刺激性、衝動性亢進が見られ、社会的に不適切な行動と社会的トラブルの多発が認められるが、これは情動に基づいた社会的意思決定が障害されているためだと解される。前頭葉の損傷によって気分と態度の変化が出現することが古くから知られ、ふざけ症(モリアmoria)とか諧謔症(Witzelsucht)と呼ばれてきた。すなわち、多幸的・上機嫌でふざけた態度を示し、軽口、語呂合わせ、ばかばかしい冗談が抑制を欠いて多発するものだが、この症状は現在では眼窩部症候群に含められている。


(深尾憲二朗)