せん妄

delirium(E), Delirium(D), délire/délire onirique/onirisme(F)

せん妄とは器質性または症状性の意識障害であり、DSM-5においては「身体疾患や中毒の結果として起こってくるところの急性で変動する注意と自覚における障害」と定義されている。症状が1日の時間帯に従って変動することが重要な特徴であり、睡眠覚醒リズムの障害と強く関連している。


近年では、覚醒水準と精神運動性に基づいて、過活動型・低活動型・混合型の3型に分けられる。過活動型せん妄は、覚醒水準が過覚醒、精神運動性が興奮・不穏、幻覚妄想が頻繁に見られ、感情は不安・易刺激的、夜間の睡眠は不良で、脳波像は速波優位あるいは正常、脳代謝は亢進しているか正常である。低活動型せん妄は、覚醒水準が傾眠・嗜眠、精神活動性が静穏・無気力・無表情、幻覚妄想は稀で、感情は抑うつ的、夜間の睡眠は良好で、脳波像は徐波優位、脳代謝は全般的に低下している。混合型せん妄は、過活動型せん妄と低活動型せん妄の両方の病像を1日のうちに繰り返し呈するもので、日中に過眠、夜間に不眠を示すことが多い。


せん妄については、その出現する条件や随伴する行動によって、歴史的に使われてきたいくつかの関連する概念があるので、以下にそのいくつかについて説明する。


夜間せん妄は、高齢の認知症患者においてしばしば見られる、夜間の不眠と徘徊を伴うせん妄である。認知症性疾患による睡眠・覚醒リズムの障害を基盤とし、深夜に外界からの刺激が少なくなることによって誘発されるものと考えられている。


術後せん妄は、全身麻酔による外科手術を受けた患者が、麻酔からの覚醒時にせん妄を呈するもので、かなり一般的に見られる。見当識障害のために点滴針を自己抜去したり、処置を拒否したりすることが多く、鎮静を必要とする。


熱性せん妄は、発熱性疾患による高熱に伴って出現するせん妄である。周囲の空間が膨張したり歪んだりする空間感覚の錯覚がよく出現する。主に感染症によって高熱を呈している小児に見られるが、近年の小児科では「脳症」と表現されることが多い。


作業せん妄とは、せん妄の状態において、患者が日常的に行っている作業・動作が出現することである。その動作に対応した幻覚体験があるのかどうかは不明である。特に患者の職業に関連した動作が出現する場合は職業せん妄という。


振戦せん妄は、アルコール離脱に伴う特殊な症候群と見なされ、一般のせん妄からは区別されている。四肢と体幹の粗大な振戦、多量の発汗・悪寒などの自律神経症状と、虫や小動物が体を這い回るようなきわめて不快な幻覚によって特徴づけられる。


なお、せん妄と混同されやすい状態としてもうろう状態があるが、もうろう状態は基本的に覚醒水準とは関係がなく、急性の機能障害によって意識野の狭窄を呈する状態である。たとえば、頭部外傷やてんかん発作の直後に出現する意識障害はせん妄ではなく、もうろう状態である。


(深尾憲二朗)