多幸症

euphoria(E), Euphorie(D)

元来は、健常者であれ精神疾患患者であれ、幸福感に満ちた上機嫌な精神状態を指す術語であったが、時代が下るにつれて、外因性精神疾患(脳器質性、中毒性)患者に限定されて使用されるようになったという経緯がある。具体的には認知症、脳血管障害、頭部外傷、アルコール依存、薬物依存などである。ある種の気分高揚状態ではあるが、自己のみならず周囲の状況も全く意に介さず、浅薄な恍惚感に浸っているような印象を周囲に与える。双極性障害の軽躁状態や躁状態を記載する際に「多幸的」という術語が用いられている文献がときに見受けられるが、この使用法は適切とは言えない。軽躁状態や躁状態は、いかに陽性的側面の際立つものであったとしても、必ず何らかの「内的緊迫感ないし緊張感」を伴っておりどこかに「暗い影」が差している。逆の言い方をするならば、そのような内的緊迫感ないし緊張感や暗い影が全く看取されないようであれば、つまり多幸症的であるとするならば、外因性精神疾患の可能性を考慮し診断を見直す必要がある。


(芝伸太郎)