意識障害

disturbance of consciousness(E), Bewußtseinsstörung(D), trouble de la conscience(F)

意識は多義的で定義することが難しい概念であるが、臨床的には「自分の状態あるいは周囲の状況についての知覚・認知ができていること」という定義で足りる。意識の程度を意識水準と呼び、客観的には記憶と反応性によって確認される。意識障害とは意識が異常になっている状態のことで、正常な意識状態について「清明(clear)」と表現されるのに対して、異常な意識状態については「混濁(clouding)」と表現される。意識障害は、臨床的な経験から、基本的には外因性(器質性・症状性)の徴候と見なされる。さらに、局在徴候としての巣症状に対して、また慢性の全体徴候としての認知症に対して、急性の全体徴候と見なされる。


意識障害のうち、意識の清明度の量的な障害を意識混濁、意識の及ぶ範囲の狭小化を意識狭窄、比較的軽い意識混濁にさまざまな精神刺激症状が加わったものを意識変容と呼ぶ。意識混濁は軽い順に明識困難、昏蒙、昏睡に分けられる。意識狭窄にはもうろう状態、催眠、トランスが含まれ、睡眠時遊行症における意識状態も意識狭窄である。意識変容にはせん妄、夢幻状態が含まれ、躁状態や覚醒剤の急性中毒において見られる「過覚醒」も意識変容に含まれる。


明識困難(senselessness)は最も軽い程度の意識混濁である。注意の集中と持続に困難があり、自発性と創造性が低下している状態で、見当識はほぼ保たれているが、記銘力に軽い障害があり、軽い健忘を残すため、後になって初めてその時に意識障害があったと気付かれる場合が多い。昏蒙(benumbing)は明識困難より少し重い意識混濁で、外部からの刺激に対する反応が全般に鈍く、記銘力は強く障害されており、刺激がないと容易に入眠してしまう状態を指す。睡眠傾向から見た場合は傾眠と重なる。


意識障害のうちで最も深いものは昏睡(coma)である。昏睡は外見上は深睡眠に似ているが、強い刺激を与えても反応しない点において、正常睡眠とは異なる。昏睡に至る睡眠傾向の亢進は、刺激に対する反応性によって、以下の4段階に分けられる。①傾眠(somnolence):呼びかけると覚醒して応答するが、放置するとすぐに入眠する。②昏眠(sopor):強い刺激を与えないとすぐに入眠する。③半昏睡(semicoma):ほとんど眠っているが、強い刺激を与えると少し反応する。④昏睡(coma):強い刺激を与えても反応しない。


なお、昏睡では基本的に植物機能は保たれているため、「植物状態」とも呼ばれるが、それが廃絶すると脳死となる。


(深尾憲二朗)