気分変調

Verstimmung(D)

健常者でも気分は変化する。何かに反応して変化することは当然あるし、誘因がなくても変化することはありえる。その変化の量的あるいは質的な正常範囲を逸脱している場合を気分変調と呼ぶ。具体的には抑うつ気分や(軽)気分ないしそれらに類するものを指し、中等度から重度の場合にそれらを病的と見なすことはさほど困難ではないが、軽度の場合は正常心理の範囲内なのかそこから逸脱しているかの判断で苦慮することは存外多い。気分変調は状態像であるから、それを産出する構造(と見なされるもの、つまり診断が指し示すもの)は多岐にわたる。内因性気分障害はもとより、外因性疾患、心因性疾患においても気分変調は出現しえる。原語であるドイツ語のVerstimmumgは、厳密には、抑うつ気分と(軽)気分の前者側に重心が寄っている術語であって、英語文献においては翻訳にかなり苦労している様子がうかがえ、文脈に沿って様々な訳語が当てられているようなので、本シソーラスでは英訳をあげなかった。ちなみに、気分変調症(持続性抑うつ障害、dysthymia、Dysthymie)は状態像である気分変調とは異なり操作的診断基準DSM-5による診断であるから両者を混同しないことが肝要である。


(芝伸太郎)